第2話 隣人と記憶

「20代くらいのサラリーマンなんだけどさ……いつも俺が寝るくらいの時間に帰って来てるのに、俺が起きる頃にはスーツ着て出かける準備してるんだ」


「山さん、今でも早朝ランニングを続けてるよね? てことはその人、夜明け前にはもう出勤してるってこと? ブラック企業じゃん!」


「それで? 何でその人が死んでると思ったの?」


「2週間前から、カーテンが閉まったままで電気もつかないんだよ。ここ最近、見るたびにやせ細ってたし……もしかして、部屋でそのまま……と思ってさ」


「……なぁ、今から勝手にその部屋に入ろうとしてるわけ? 受験で大切な時期に、俺たち不法侵入しようとしてるのか?」


「警察に捕まる……いや、もし死体見つけちゃったら、俺らが警察呼ばなきゃ……」


「ビビんない、ビビんない! ほら見えてきた、あのアパートだよ。あそこの2階の角部屋だ」


「……アパートっていうより、なんとか荘って言うほうがしっくりくるボロさ……」


「確かに山さんの部屋から丸見えの場所だな。……今もカーテンかかってるね」


「とりあえず俺んちにチャリ止めてから行こう」





「うぅ……この錆びだらけの階段も雰囲気出てて怖い……」


「ねぇ、やっぱりやめにしない? 何かあったら内申に響きそうだし……」


「なーにを今更! ちょっとドアを開けて中を覗いてみるだけだって!」


「響人……さっきから黙ったままだけど……大丈夫?」


「え? あぁ、うん、俺は大丈夫……。何かここ、見覚えある気がして……」


「そりゃ山さんちに来る時、嫌でも視界に入るからでしょ。でも、こんなにまじまじ見たことはなかったよなぁ」


「……この廊下、4人同時に歩いて底抜けたりしないよね?」


「平気平気。……よし、この部屋だ。……で、誰が開ける?」


「言い出しっぺの山さんが開けてよ! 俺らは後ろで見てるから!」


「ったく、みんなビビりだな。しょうがない……うわっ!」


「「「ギャッ!」」」


「……誰だ、君たちは?」


「……」


「……お、俺たちは、その……。山さん、この人なの?」


「……いや違う、こんなに元気そうじゃなかった。あなたこそ……どなたですか? この部屋に住んでた人じゃないですよね?」


「俺は、この部屋の住人の友人だよ。急に連絡が取れなくなったから、心配して見に来たんだが……鍵は開けっぱなし、スマホも机に置きっぱなしで留守にしてるみたいなんだ。……君たちはなぜここに?」


「え、えーっと、その……。カズ、お願い……何か言って?」


「俺に振るなよ……。あの……この部屋のちょうど真向かいが、こいつの家でして。いつも見かけてたこの部屋の方が最近姿を見せないものだから、様子を見に行こうということになって……」


「そうなのか……。近所の人も見てないとなると、しばらく家に帰ってないみたいだな……。部屋も妙に片付いてるし……どこに行ったんだか」


「実家に戻ったとかじゃないんですか?」


「……俺たちは養護施設の出だからね。電話に出なくなった時、真っ先にそこに連絡したが来てなかったよ。……まいったな、警察に電話したほうがいいか……」


「あぁ~、やっぱり警察沙汰になっちゃったじゃない……。俺たちもここにいなきゃいけないかな? ……え、響人、顔が真っ青だよ⁈ 気分悪い⁈」


「僕は……大丈夫……。それより、ここに住んでた人だけど……。たぶん、行き先が分かった気がする……」

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