②オープニング:のび太くん家出する → みんなも家出する

 オープニングはのび太くんの泣き顔から始まります。

 どうやら学校でも家でも叱られて限界を迎えた様子です。そんなのび太くんは、おねだりしたひみつ道具※1を持って家出をします(※2)。


 家出先は下記の三ヵ所。それぞれ失敗に終わるわけですが、その描写は1コマで終了せずに少々の尺がとられています。


①いつもの空き地 → 持ち主のおじさんに注意されて失敗

②いつもの裏山  → ショベルカーで立ち退かされる

③どこでもドアで向かった廃村 → ダム建設で水没したので撤退


 また、ちょいちょい間に挟んでドラえもん、しずか、ジャイアン、スネ夫が登場してのび太の家出をツッコんでますね。それぞれの言動はキャラ性に沿ったものです(※3)。


 こうして――3回も家出先を変更した末に、のび太くんの家出は一旦とん挫してしまいます(苦笑)。



(※1)登場するのは「キャンピングカプセル」のみですが、多分色々渡されてます。キャンピングカプセル自体は他の映画でもちょいちょい出てきますね。

(※2)家出は現実で起きたら大事おおごとですが、のび太くんの家出は結構簡単に行なわれます。絶対帰らないと口にしつつも当日中に戻る程度のもんです。いざとなればドラえもんが探しに行くので大した事にはなりません――というお約束をドラえもんファンなら無自覚に理解してそう。


(※3)ドラえもん・しずかは呆れる。ジャイアン・スネ夫は馬鹿にするのが定番。けれど『日本誕生』ではこの定番が後に一変します。簡単にいつものメンバー全員を登場させる+天丼ネタの伏線っぽくなってます(笑)。




●しかし、事態がココで終わらないのが映画版


 さてさて困りました。のび太くんはこれからどうするのでしょうか?

 ――などと思ってしまう展開ですが、場面はガラリと変わって「のび太くん以外のメンバー」が映るシーンになります。

 

・怖いかーちゃんによって家の手伝いを強要されたジャイアン。限界を迎えて家出する。

・ママにたくさんの家庭教師をつけられたスネ夫。限界を迎えて家出する。

・涙を流す程にピアノのお稽古が嫌になったしずか。家出したいとまでは言わないが逃げたい。


 なんと綺麗な連鎖なんでしょうか。

 まるでTRPGセッションにおける合流で「家出ネタを絡めつつ合流して欲しいなw」とGMからオファーが入ったかのようです(笑)。


 のび太くんに続いて同級生3人が家出しようとする、まさかの展開!

 けれども、彼らは突発的に少しの荷物を持ちだしただけの小学生。行く宛ても無ければ十分な金銭も持ち合わせていない。


 となれば思考の行きつく先は絞られます。

 そうです。既に家出を決行しているのび太に合流する(※4)事ですね。


 どうやらジャイアンとスネ夫は最初からのび太を頼ろうと決めていたようで、二人がバッタリ会った時には「のび太知らない!?」と口に出して両者共に驚いています。

 続けて二人の近くを通りかかったしずかが登場。悲しげにしている事情を口にします。こうなればジャイアン・スネ夫がしずかを誘うのも至って自然な流れ。こうして三人は揃ってのび太くんを探しにいきます。



(※4):同級生達はのび太が家出した際に「ひみつ道具」を持ってる事を確信しています。この辺は事前に家出中ののび太と会ってるからこそです。簡単な伏線回収が高速で行なわれています。

 それからコレは余談ですが。なんだかんだで「のび太くんなら助けてくれるであろう」と思っていたのかもしれません。ほんのり友情を感じさせると同時に「いや、お前らバカにしてたやんw」と視聴者のツッコミを発生させるコミカルさを生み出しています。




●まさか、ドラえもんも家出するなんて


 さらに場面が切り替わって、場所はのび太君の家。

 ドラえもんが大慌てで逃げているシーンになります。


※正確にはのび太と同級生達が会う場面が1個前に挟まれますが。


 原因はのび太パパが会社の部長から預かってきたハムスターです(※5)。

 タンスの引き出しを駆けあがっては落ちる、ハムスターにビビりまくるドラえもんが念入りに描写されます。


 泣きながらハムスターを返してきてと訴えるドラえもんですが、パパが一週間預かる事態は変わりません。

 最終的には視聴者の方画面手前へ向かって全力ダッシュするドラえもん。


 冷静にツッコむとドラえもんが逃げた先には庭へ繋がるガラス戸があるのですが……もしかしてぶち破っていったのでしょうか(笑)。ともあれそんなガラス戸に関する演出はなく、画面いっぱいにドラえもんの身体→お口が広がっていくところでシーンが途切れます。

 『日本誕生』においては、普段なら止めに入りそうなドラえもんすら家出してしまう。意外性もあって非常に面白い点でしょう。

 


 こうして、のび太・しずか・ジャイアン・スネ夫の4人にドラえもんが合流して、見事5人の家出メンバー揃うわけでございます。



(※5):ドラえもんの弱点はネズミであり、ハムスターもネズミの一種。パパとママがハムスターを可愛がる様子はドラえもんにとっては恐怖以外の何物でもないのでしょう。どうでもいい所ですが、この時のハムスターがなんかデカすぎるように見えます(笑)。ゴールデンハムスターどころじゃなくない? モルモットよりもデカそう(錯覚かな?)。




■このオープニングの役割


 5人分のシーンが演出されるので、けっこー色々な事が起きています。

 これらは全て必要だから行われているはず。では、構成上どんな意味があるのかを考えますと浮かんでくるものがいくつかあります。


・本作における必要キャラの登場

・主役達の最初の動機・目的の提示、統一 → 家出しよう!=日常から非日常へ。苦しみから解放されたい

・↑にはなんだかんだで親が絡む

・「夢を叶えてくれるドラえもん」(※6)に向けてのお膳立て、フラグ建築、前フリ


 

 作り手の視点からすると、何はどうあれ物語的には「いつものメンバー」を「原始時代へ向かわせる」必要があります。幸いドラえもんのメンバーは全員同級生の友達ですから、そこはあまり難しくない(※7)。


 では原始時代へ向かわせるには? という点で、家出を絡ませています。

 子供時代の家出というと中々に魅力的なワードだと思いますが、藤子先生もそう考えたのでしょうかね?? あるいは定番ネタを映画版仕様に全員で家出にパワーアップさせようなんて発想なのかもしれません。


 彼らの家出には大なり小なり親が関係しています。子供にとって親は日常の存在。そこから逃避して原始時代という非日常へ向かう。流れとしては「宝物を求めて冒険に出る旅人」と類似してそうです。

 なお忘れない内に書き記しておきますが、この親に関する演出は新版『日本誕生』の方が色濃く演出されていたりします。旧版も無いわけじゃないんですが薄めです。


 そして「夢を叶えてくれるドラえもん」については……既にピンときてる方もいますかね?


 叶えてくれるどころか、本作では一緒に家出しちゃってます(笑)。

 夢壮大な家出叶えるためにドラえもんは何をしてくれるのか? それはまた次のシーンで明かされていきます。



(※6):『ドラえもん』のコンセプトには「子供の夢を叶えてくれる」があるようです。どこでもドアやタケコプターを代表とするひみつ道具はそのためのガジェット。

(※7):人によってはジャイアンとスネ夫は友達じゃなくない?w と感じるかもしれません。普段の彼らはいじめっ子の役割がありますからね。本作中でもバカにしてた癖に「親友だろ(でしょ)!」と詰め寄るシーンがあったり。この辺はまあ「映画版なんでw」で済ますしかなさそうです。

 映画版では彼らのいじめっ子成分はなりを潜め、良い仲間としての友情度が高まります。ジャイアンが顕著なので、この辺が「映画のジャイアンは綺麗なジャイアン」と言われたりする理由でしょう。




 次回からはいよいよ原始時代へ向かう彼らを追ってみましょう。

 引き続きよろしくね~☆

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