今日は、僕にとって人生で最高な日です。

ヒロさむ

第1話


今日は人生で最高な日だ。



由香と別れた。

覚悟はずっとしていたはずだったが、やはり結構来るものがある。

由香と別れてから後のことが思い出せない。いつの間にか家に帰ってきていたらしい。


「はぁー」

由香とは、高校生の頃からの付き合いで、大学も同じところに入ろうと受験も一緒に頑張った。

そして、目指していた大学に二人とも合格し、一緒に同棲生活を送ろうとしていた。

順風満帆で最高な日々を送っていた。

それなのに、どうしてこんなことになってしまったのか。

心臓を握られているようだ。苦しい。

動きたくない。しんどい。つらい。

もう、最悪だ。


彼女はいない。すべてがどうでもいい。


・・・・・・・・・


「あーー、寝てたのか」


いつの間にか眠っていたらしい。起きると部屋が暗くなっている。

頭が割れるように痛い。

一体何時間寝ていたのだろうか。



無意識にスマホを手に取り、ホーム画面を付けるとそこには彼女がいた。


「そうだった、、、」


また思い出してしまった。


気がつくと写真フォルダを開いていた。

一緒に遊園地に行ったり、カラオケに行ったり、そうそう、海にも行ったっけ。いっつも笑顔で本当にかわいかった。


写真や動画を見るたびに思い出が頭を過ぎる。


「この時は本当に楽しかったなあ。」


寝て少しは落ち着いていたと思っていたが、苦しいままだ。

涙が勝手にあふれ出て来る。

分かっていることだが、もうあの頃に戻ることはできない。

永遠にこの思い出に浸っていたい、もうこのままいよう。


そう思っていた時、奇妙な動画が目に入った。


「ん?なんだこれ」


画面全体が真っ赤な動画だった。

スマホの中にある写真や動画は自分が見たことあるものだけのはずだが、この動画だけまったく見覚えがない。

動画を再生してみる。


ドン、ぐちゃっ


「うわっ、」

急に何かが潰れたような大きな音が部屋に鳴り響いた。


「ったー」

椅子から転げ落ちて腰を打ってしまった。


びっくりするような物はあまり得意ではない。ホラー映画好きの彼女と映画に行くときも目と耳をぴったりと閉じてしまうくらいだ。


気持ち悪い音と真っ赤な画面というのは薄気味悪いが、このまま放っておくのは嫌なので、恐る恐るスマホを見てみると、さっきと変わらず真っ赤な画面が流れていた。

いくら待っても画面は動かない。ずっと真っ赤なままだ。

もう少し先のほうを見たいと思い、動画を早送りしようと画面を触るが反応しない。


「あれっ」


さっきの衝撃で壊れてしまったのだろか、まったく動かない。最近、落として画面が割れて修理に出したばかりだったのに。

彼女とは別れるわ、スマホは壊れるわ踏んだり蹴ったりだ。


こっこっこっこっこっこっ


スマホから歩いているような音が鳴っている。画面を見ると、真っ赤だった画面が切り替わっており、暗くて見えずらいが、

どこかの町の様子を映している。

誰かがスマホで町の様子を映しながら、あるいているようだ。


一体この動画は何なんだ。


少し考えていると、一つの可能性が頭に浮かんできた。

「これってもしかして」

こんな動画を自分で撮った覚えはないが、この動画の正体がなんとなくわかった。


友達の誰かが、俺を脅かすつもりで勝手に俺のスマホを使って撮ったに違いない。

実は少し前に、友達が寝ている時に勝手にスマホの画面をホラー画像に変え、驚かしたことがある。その仕返しというわけだろうか。

普段だったらむかついたりするところだが、気分が落ち込んでいたところだからちょっと気がまぎれた。

動画の正体が自分の中でわかると、とたんに力が抜けていく。

ついさっきまで怖がっていた自分が少し滑稽に思えてしまう。


「ふっ、ふふふ」


つい声も漏れてしまった。せっかくだから、最後まで見てみよう。何かオチがあるだろうし。

 しかし、この場所はどこ何だろう。画面をよく見てみると、なんとなく家などが分かる程度だ。周りが暗いから夜だろう。この動画の日付は2月4日、今日だ。


・・・・・・


「え」


今日?は?


おかしい


急に背筋が冷たくなってきた。


待って、じゃあこれって何だ。


たたたたたたたた


画面の歩いているような音が変わった。

急に動画の動きが速くなる。走っているようだ。


画面をよく見てみると、見覚えのある景色が流れている。


「ここの場所って確か・・」


今通ったところ、確か小学校がある通学路。

この大きい建物、いつも使っているスーパーマーケットに見える。



「まさか、俺んちに近づいてるんじゃ」

嫌な汗が身体をさらに冷たくする。


たたたたたたたたたたたたたたたたたた


さらにカメラの動きが早くなる。

「なんだよ、これっ」

得体のしれない何かが近づいている。


スマホの電源を切ろうとするが、まったく反応しない。

近くにあったバットを手に取る。


ガンっ、ガンっ


壊して動画を止めようとするが動画は止まらない。

何度も何度もたたいても止まらない。


「はぁっ、はぁっ」


再びスマホの画面を見てみると、動画がどんどん早く動いている。

いつの間にか近所の景色が映っている。

もう少しで自分の家が見えてきてしまう。


隣の人に助けを求めようか、いやダメだ、それはできない。

今この部屋を見られるわけにはいかない。


「なんなんだよっ」


どうすることもできない、気がおかしくなりそうだ。


ああ、自分の家が見えてしまっている。


たたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた



もう逃げることもできない。

ゆっくり近づいてくる。

終わりだ。もうおしまいだ。

動画を見ながら嘆くしかない。


・・・・・・・・・


「あれ、これって」

気が動転していてさっきまで気づかなかったが、動画の下のほうにたまに映ってくる靴、どこかで見たことある。

「この靴って、由香の靴じゃ」

自分が由香の誕生日にプレゼントしたものだから見間違えるはずがない。


まさか、まさか


カン、カン、カン、カン


ついに階段を上り始めている。動画の中だけの音のはずが、外からも同じ音が聞こえる。


カン、カン、カン、カン



バンバンバンバンバン

ドアをたたく音がする。

「優君、ここ開けて、開けて」

由香の声、由香の声だ、もう二度と会えないと思っていたのに。

「由香、由香なんだよな、そうなんだよな、」

「優君、ここ開けて、開けて」

恐怖はもうない。それどころか涙が出てきた。

「そっか、そうなんだ、うれしいよ」

立ち上がってドアに近づく。

迎えてあげよう。これでずっと一緒だ。

ゆっくりとドアを開ける。


「おかえり」





「うえええ」

最近入ってきた新米が外で吐いている。

まあ、仕方がないというか、運がなかった。初めての現場でこんな光景を見てしまったのだから。

長年いろいろな現場をみてきたが、ここまでひどいのも珍しい。

「大丈夫かー」

「は、はい、何とか」

あらかた吐き出したのだろうヘロヘロになって戻ってくる。

「にしてもこれ、一体どうなってんですか、身体中滅多打ちに殴られて四肢なんてねじまがって、・・うえっ」

「おいおい、本当に大丈夫か」

「はい、もう出すものもなくなったので」

冗談が言えるようになっているのでおそらく大丈夫だろう。

部屋に戻って周りを見渡してみる。

壁にはたくさんの写真が張り付けてあり、それらすべて同じ女性の写真だった。

「まったく、とんでもない部屋だな」

「警部、この写真の女性は確か最近あった事件の」

平日の昼頃、道の真ん中で女性が鈍器のような物で殴られて亡くなっているところが発見されていた。

被害者は〇〇大学2年生

犯行時間はおそらく夜の10時ごろ

被害者は最近、誰かにつけられていると警察に相談していた。


部屋には、血痕が付いたバットが落ちている。

「ああ、この男がおそらく犯人だったんだろうな」


「うわっ、このノート見てくださいよ。被害者の女性と海に行った、とかまるで付き合っているかのような内容ですよ。」

男が書いたであろう日記?(妄想)の最後には


うらぎりやがったあいつゆるさないぜったいにゆるさいないしねしねしねしねしねしねしねしねしね


因果応報だろう、かわいそうだとはほとんど思わない。しかし、一体だれがこんなことをしたのだろうか。両隣の住人に聞き込み調査をしたが、特に何も聞こえなかったという。


「しかしこの男、こんなことになっているのに・・・」

床に血だらけで倒れている男の顔は満面の笑顔であった。



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今日は、僕にとって人生で最高な日です。 ヒロさむ @hirosamu

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