2
エリマキバトをおいしく食べおえたロイは、なぜか院長室に
気品ある室内は、はりつめた空気で息苦しい。
ふかふかの
部屋の中央に、ロイは立たされる。
左となりにキャリーケース、右となりには、ロイを連行してきた男性教官。
父親ぐらいの年だが、陽気な父とはちがい、気難しい印象だ。
きっちりと撫でつけられた髪に、眉間に刻まれた深いしわ。
高級そうなスーツを、
視線にきづいた教官にじろりとにらまれ、ロイはあわてて前をむく。
重厚なデスクに座るのは、年配の女性だ。
背後の窓からの光に、シルバーグレイの髪がきらめく。
ロイの祖母ほどの年齢にみえるが、厳格さが浮きでた顔は、にこりともしない。
知性がにじむ強い瞳は、他人の胸の奥までも見透かすことができそうだ。
ロイは暗記した学院案内書を脳内でめくる。
国立魔術学院院長、マギー・テレーズ。
テレーズ
ここは母校であり、宗教学の教官、副院長を経て、二年前より現職――。
「
凛とした声音は冷たい。
やさしい祖母とはちがう人種であることが確定し、ロイはすこしだけ落胆する。
「腹が減っていたからです」
正直に答えると、マギーの眉がピクリと動いた。
ロイはつぎの質問に備え、
男性教官が鼻を鳴らした。
「
え、とロイはとなりを見た。
紫の瞳には、拒絶と嫌悪がありありと浮かんでいる。
「ケネス。まだ一日目ですよ」
「では特待生の称号を
「困ります」
ケネスは冷笑する。
「困る? こちらもだ。学院の品位を下げる生徒を、特待生にしておくわけにはいかない」
ケネスはあごで、ロイの左胸――特待生のバッジを示す。
ロイはすぐさまマギーに向き直る。
「校則には、
ロイは必死に
いままでの会話から推測するに、特待生制度の
ケネスと言いあうより、マギーに訴えるほうが効率的だ。
右となりからの射殺すような視線は無視して、ロイはマギーをひたすらに見つめる。ケネスがギリリと歯をかみしめ、マギーを見る気配がした。
ロイとケネス、ふたつの
「たしかに、校則違反ではありませんね」
「では――」
「しかし違反でないから、法に触れないからと、モラルのない行為を正当化するのはいただけません」
マギーの声のトーンに、ロイの脳は高速で学院案内書をめくる。
【一般入学 納付金】
学費 年 2,400万
寮費 年 600万
納入方法 全額一括納入または学期毎分割納入(三回)
納入期限 学期開始より一ヶ月
延滞した場合は「学費未納」として学則に基づき除籍
王都に何のツテもない十五歳が、すぐに稼げる額ではない。
特待生とりけしで、退学まっしぐら。
あせるロイに良策は浮かばず、マギーの
「――ロイ・ファーニエ。あなたを一学期かぎりの特待生とします」
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