平和はもう帰ってこないってよ
押し付けられた連絡先を教えた本人の前で削除することが日課である。
それは授業終わりの休み時間も例外ではない。
「
「いませーんいたとしてもいないって言いまーす」
私はイヤホンを着けて知らないふりをする…が浅野はそれを気にしないで近づいてくる。
「帰ってくれると助かる」
「えー俺は話したいよー?仲良くなりたいよー!」
「ええい!うるさい!」
「紅井いつ浅野と仲良くなったんだ?」
私の数少ない異性の友人であり恩人の
私はそんな彼に助けてくれと目で訴える。
「…誰この男」
浅野は明らかに不機嫌そうな顔をしている。
海はそれにビクリと肩を揺らした。
私はため息をついて浅野を睨んだ。
「ただの友達だっての、睨まないでくれる?」
「…なぁーんだ友達か!」
すぐに機嫌が治って満面の笑みを向ける。
「ごめんね海」
「大丈夫…だけど体調悪くない?」
コソッと私を心配する声に海は何としても守らねばという使命感に駆られた。
「俺を仲間外れにしないでよー」
浅野が私の肩にそっと手を置く。
私は反射的にそれをペチンと払った。
「触んな」
「ごめんってそんな不機嫌にならないでよ」
「次触ったらはっ倒す」
「こわぁい…あーあもうこんな時間か俺教室戻るからバイバイー」
浅野はひらひらと手を振って教室から出ていった。
「
「なんで敬語?…相手が勝手に好きになってるだけだから…うんお前は悪くないよ」
「あー私の普通の日常は何処に…」
浅野が毎度毎度来るせいでゆっくりできない男子と話していると不機嫌になり身勝手な嫉妬をする。
面倒な男だそういうタイプは画面の向こうの推しで間に合っているというのに。
「縁ちゃん」
「か、
私はギギギと壊れたおもちゃのような重たい動きで彼女の方を見る。
この前浅野に告白して振られ慰め会のような事を私と海と香恋ちゃんの3人でして喉が枯れるまでカラオケで歌った。
「浅野くんってああいう人なんだね」
「う、うんそうみたい…本当になんで私の方に来るのか…」
「女の子たちに目つけられたら大変だねー」
香恋ちゃんは私と違っていつも通りに接してくれている。
「香恋ちゃんはどうして浅野…くんを好きになったの?」
「あー理由はね…クズそうだから矯正して自分の好みに変えたいなって」
私は彼女がいつも通りで安心した。
彼女は人を見る目はある。
どうやら浅野がクソだということは見抜いていたらしい。
それを見越したうえで好きになったということだ。
「だからね縁ちゃんが申し訳なさそうにすることはないよ?」
「う、うん…それなら良いけど、香恋ちゃん本当に良い性格してるよね」
超がつくほどのサディスティックが香恋ちゃんだ。
友達になったばかりの頃はこんな性格だと知らなくて驚いた。
本人は全くそれを隠しているつもりはないのだが、分からないって初見だと。
「ありがとう縁ちゃん褒められると照れるよ」
可愛らしく彼女は笑った。
私は彼女が幸せになってくれることを願って笑い返した。
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