あの人とは少し違うのかもしれない

 呼吸をするのが辛い。

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!

 脳裏に焼き付いた先輩の声と仕草が恐怖を掻き立ててくる。


「や、やだ…」

紅井あかいちゃん!大丈夫だからね?俺の真似して?」


 私の目の前にしゃがんで深呼吸をする。

 私はそれを必死に真似て肺に生きるために必要な酸素を取り込む。

 私…なんでこいつに助けられてるんだろう?


 落ち着くと公園に連れてかれてベンチに座らせれた。

 浅野はスポーツドリンクを私に渡した。

 私は財布から金を取りだして百円玉を二枚取り出して手渡した。


「いくらか知らないけど、返す」

「いらないよ」

「黙って受け取って…借り作るのは嫌だから」


 私が言うと彼はそれ以上は何も言わなかった。

 少しだけ私と離れた位置に座って黙っているだけだ。

 私がこうなる理由を聞こうとしない。


「私がこうなるの理由聞かないんだ、てっきり詮索されるものかと」

「失礼だなぁー、俺って結構優しいんだよ?」

「調子に乗るな」

「いつも通りの紅井ちゃんに戻った」


 確かに言われてみればさっきよりもマシになった気がする。

 頭がモヤモヤするけど落ち着いた。


「別に絆されてねぇから!」

「え?」


 そういえばこいつが原因じゃん!

 何こいつに「あ、ちょっと良い奴かも?」みたいな考えしてるの?!

 ダメよ私!その気の緩みが一気に絆されて飼い慣らされるんだから!

 …でも助けて貰ったのは事実だし…せめて嫌だけどお礼くらいは言っておいた方が良いよね。


「…ありがとう」


 私がお礼を言うと浅野は顔を私から背けた。

 え?私何かした?え?


「え?海と一緒か?お礼言ったらビビるタイプ?ぶつよ?」


 私は腕を捲って攻撃態勢をとる。


「ち、違くて…破壊力がやばくて耐えられなくて」

「あ?何言ってるの?」

「嬉しくてにやけてるの?!こんなだらしない顔見せられないくらいに!」

「そ、そう…顔は見ないから気にしないで?」

「そこは見て?!ギャップ萌えして?!」

「しねぇわ…はぁーアホくさなんでこんな奴に元気付けられたんだろ?」


 先程の感謝の言葉を取り消したくなってきた。

 私は悶えてる目の前の男を見て耐えられず破顔した。


「あ、あんた本当にあのイケメンって女子にちやほやされてる浅野なの…あはは!傑作だよ!他の子なら喜ぶんじゃないか?」


 笑いすぎて涙が出てきてそれを拭って私は言った。

 落ち着こうとしても思い出してまた笑うの繰り返しで止まらない。


「じゃあ紅井ちゃんは?」

「え?何言ってんの?喜ぶわけないだろ?自惚れるなよ?」

「酷くない?俺への扱い?」

「そうかい?私は適切だと思ってるよ?」

「もしかしなくても俺の事かなり嫌い?」

「分かってんじゃーん!私の友達にしたこと忘れてないよ?」


 痛いところを突かれたのか彼は顔を引きつらせるが立ち上がって私の方を見る。


「でも諦めないよ!俺は!紅井ちゃんのためなら変わってみせる!」


 ポジティブだこの人。

 呆れるくらいにポジティブ…馬鹿だ。

 私が今貴方をどう思っているか、分かっているくせに。


「…馬鹿な人」

「馬鹿じゃないよ!浅野成哉だよ!」

「分かっとるっての馬鹿者!」


 先輩と彼は何かが違うように感じた。

 少しだけ浅野の顔を見るとまだ少しだけ、体調は良くないけど前よりはマシな気がした。

 …耐性が付いたのかな?と私は考えた。










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