十二話 白猫と小人は護りたい


「……はっ!」


 クリスタロス街一般商業区、携帯ショップ前。

 気絶していた小人の偏執狂が白猫の上で目を覚ます。


「うっ」


 小人が目覚めた事に気付いた白猫は、自身の上から小人を振り落とした。


「ナーン」


 白猫のやけに鼻に掛かった鳴き声には、まるで「起きたのならさっさと降りろ」という気持ちが含まれているのかのようにドスが利いていた。


「あ、おはようございます。コウジ君はどこに行ったんですか?」


 小人は白猫の気持ちなど関係なく、自身が偏狂している対象の所在を白猫に問う。

 白猫は溜息をたっぷりと吐いた後に、不承不承といった様子で鳴き始めた。


「……ナーン」

「なるほど。あの鳥とスマホを買いに行ったんですね」


 居場所を知った小人は目の前の携帯ショップに入ろうとしモゾモゾ動き出す。


「うっ」

「ナーン」


 しかし、白猫が立ち上がろうとしていた小人に前足を振り被りペシャンと潰した。


「何するんですか」

「ナーン」

「え、ペット禁止だから私達は入れない?」


 最新機種を多数取り扱う携帯ショップはペットの入店が禁止されていた。

 その為、白猫は主人から小人を託され店の前で待っている。


「冗談で言ったつもりだったんですが、私って本当にペット扱いされていたんですか?」


 地面に座り込んだ小人は首を傾げ目の前にある赤色の建物を眺める。

 小人は自身も入店禁止な事を疑問に思っているようだった。


 小人はかつて魔物だった。

 魔物として自由に生きていたが、コウジという少年に敗北し身体を取られた。

 器を失くした魔物は白猫の生成した花に中身を移され、それが新しい身体となる。


 魔物は一輪の花になり、そこから更に自身の力を使用し人型となる。


 その結果が頭からオレンジ色の花を咲かせた小人。

 元々ペットとは程遠い存在だった為、ペット扱いされている現実を受け入れるのには時間を要する。


「……ちゃんとペットとして認識してくれていたんですね」

「……」

「スズランさん」


 小人はゾクゾクと震えだした。

 恍惚の表情を浮かべて呆ける小人から白猫は無言で距離を取るが、小人から捕捉される。


「私達、仲間ですね」


 小人は赤面しながら白猫にそう言い放った。


「ナーン」

「うっ」


 白猫は再び小人をペシャンと潰す。


「再生には少し時間が掛かるのでそう何度も潰さないでくださいよ。あの日同盟も結んだじゃないですか。動機が違うだけで、目的は同じなんですよ」


 この世界に来て小人と白猫が初めて二人きりになった時、小人は白猫に自分が何者なのか、何をしたいのかを語っていた。

 白猫は主人が居ない場所で唐突に、まるで狙っていたかのようなタイミングで生い立ちを話し始めた小人を始めは無視していた。

 無視していたが、聞かないようにしていても聞こえてくる小人の話には思う所があり、結果的に同盟を結んだ。


「コウジ君を守る。今の私はあなたの敵ではないです」


 モゾモゾと動き身体を再生させていた小人が折れ曲がっていた首の位置を正し、白猫に微笑みかける。


「折角出来た仲間をここで潰すつもりですか? 街の至るところに貼られたあれにスズランさんは気付いていなかったんですか? 私達は争っている場合なんですか?」


 張り紙、竜災注意報。

 言語の関係で少年には読めていなかった紙にこう書いてある。


 ――二体目の竜災、王都を襲う。

 被害者総数二百五十万人を突破。


 不可視の竜が通る地には空気の揺らぎが生じる。

 進路を逸らす事で対応が出来る為、情報を求む。

 その他、知っている事がある者は下記まで。

 ※多額の報奨金アリ――


「……」


 白猫は無言で小人に近づき、小人へ向け口を開く。

 小人の首根っこを掴み、自身の背に乗るように放り投げた。


「ナーン」

「分かってくれたようでなによりです」


 白猫は小人を背に乗せ、携帯ショップから離れ路地裏へと進んで行く。


「当てはあるんですか?」

「ナーン」

「なら、この街の地下に行きましょう。面白い魔物の気配を感じたんです」


 二体の小さい召喚獣が雑踏から姿を消す。


「敵は強大です。私達も同志を募りましょう」

「ナーン」


 かつて周囲を困らしていた元魔物同士が手を組んだ。


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