一話 久しぶりの異世界が俺を避けていく
「……う、うおぉぉおおぉおお!!?」
気付くと雲一つない青空を落ちていた。
近くを飛んでいた極彩色の鳥や、巨大な深紅の虫、意思を持って浮遊する鉄塊などが迷惑そうに俺を避けていく。
久しぶりの異世界が俺を避けていくのは少し辛い。
一体一体にペコペコ頭を下げながら落下し続けると、眼下に両手両足を広げて落下に抵抗している頭からオレンジの花を生やす小人が見えた。
空を泳ぐように進み、一緒に異世界にやって来た小人を右手で掴む。
「なんで俺達はいきなり落下してんだよ!?」
「風圧が凄くて何言っているか聞こえないです」
「えっ、今なんて言った!? 聞こえない!」
オレンジ色の花を頭から生やした小人の名前はアオイロ。
地球に居た俺からしたらややこしい名前の小人だが、これでも立派な魔物である。
能力をフルに使い俺を異世界に拉致したり、刺してきたり、騙したり、ストーカーしてきたりと危ない面が目立つが、目的の為に手を組んだ……というか支配下に置いた。
このストーカーのせいで様々な事に巻き込まれたが、こいつのお陰でこうしてまた異世界に戻って来る事が出来た。
何故だか現在進行形で空を落ち続けているが。
「コウジ君は飛べるんですから、飛んでくださいよ!!!」
「あ、すまん」
アオイロを顔の近くまで持ってきたら声がギリギリ聞こえた。
慌てて俺は翼を生やし、はためかせる事で態勢を整える。
急な出来事に取り乱したせいで自分が飛べる事が頭から抜け落ちていた。
「あわや死でしたよ?」
「ほんとごめんて。でもなんで、こんな上空に転移させたんだ?」
「私の力では転移は出来ても座標指定が出来ないので、こうしてランダムな場所から毎回スタートします。知らない人の家に転移する事もざらです」
「なんて使い勝手の悪い力なんだ……」
アオイロと会話をしながらゆっくり下降していく。
降りながら周りを確認してみると、下に広がる暗い森と、少し先に街が見えた。
「ちなみにこの場所が何処なのかは分かるか?」
「今のところ何も分からないです。たぶんですが、初めて来る場所ですね」
「まあそう上手くはいかないか……。あの街で聞き込みでもしながら情報を集めよう」
方向転換をし、暗い森に降りるのを止めて街の方へ飛ぶ。
気のせいでなければ、多腕の熊が見えたので出来れば避けたかった。
今の俺ならばあいつを倒す事は容易いと思うが、如何せん過去のトラウマが蘇る。
街を目指し飛び始める。
魔物の街か人間の街かは分からないが、どちらでも問題は無いだろう。
この世界では魔物と人間は共存しているし、争いもしていない。
魔王だ、勇者だといったものは存在するが、あくまでも魔物を取り纏める者の称号と、人々から敬われる者の称号である。
だが、出来れば魔物の街、それもスイザウロ魔王国の一部だったら旧友が居るので非常に助かる。
「――――――キャアアア!?」
暗い森から耳を劈くような女性の悲鳴が聞こえた。
声の聞こえた位置的に俺の今居る場所の左後ろ。
少し距離はあるが、全力で飛べば直ぐに向かえる位置。
そして、声の感じからして恐らく、人間かそれに近しい種族の女性の声。
誰かは分からないが、何かがあった事は分かる。
「なんで方向転換しているんですか? 街はあちらですよ?」
「誰かの悲鳴が聞こえたからな」
直ぐに助けに行くと決め方向転換すると、俺の右手から肩によじ登って移動したアオイロからそんな声を掛けられた。
「まさか助けに行くつもりなんですか? 十中八九知らない人ですよ? こんな見るからに何か出て来るだろう森に自分の力量を測り間違えて来るような救えない人種ですよ?」
「人は助け合う生き物なんだよ」
魔物と人間では少し倫理観が違う。
アオイロは納得がいってなさそうに不満を垂れるが、危機に陥っているかもしれない人の悲鳴を聞いたのに放っておく事なんて俺は出来ない。
声のした方向へ全力で飛び、近くに降り立つ。
上からでは背の高い木々が鬱蒼と茂っているせいで見晴らしが悪い。
記憶を頼りに、声のした方向に近寄っていくと、木々をへし折る音が聞こえた。
「――グォォオオオ!!」
多腕の熊が何処を目指し、一直線で走って行くのが見えた。
身体が木にぶつかるのも気にせず、凄い勢いで何処かへ去って行く。
「あの熊懐かしいですね。コウジ君が初めて戦った記念の魔物です」
「そうだな……いや、待て。なんでお前が知っているんだ?」
うっとりとした様子で呟くアオイロに反射で頷き返したが、よく考えたらあの場にアオイロは居なかったはずだ。
ここと同じような森が一度目の異世界で俺が住んでいた家の近くにあった。
そこには今見た多腕の熊がおり、かつての旧友を助ける為に俺はあの熊と死闘を繰り広げた。
なんとか倒し、助けた子から不意打ちのキスをもらい別の子がギャアギャア騒いでいたのは懐かしい思い出だ。
だが、その懐かしい思い出の場にはアオイロは居なかったはずだった。
「え、居ましたよ? コウジ君と熊が戦っていた洞穴内に転がっていた石の一つに化けていましたけど気付きませんでしたか? 私あの時だいぶ舞い上がってしまい漏らしてしまったのでもしかしたらバレてしまうかも……でもそれならそれで、なんて考えていたんですが。なんかあの後、水に包まれたせいで不味いかもしれないですなんて――」
「…………」
語り出したアオイロは無視する事にした。
こいつはだいぶイカれた俺のストーカーである。
何かに変身しては、俺の行く先々に現れ観察したり、関わってきたりする。
こいつの倫理観をどうにかするのも俺の使命の一つだが、俺にこのレベルのストーカーをどうにかする事は出来るのだろうか。
考えるのを止め、熊を追いかける。
走って追いかけようとしたが、凄まじい速さで六足歩行する熊には到底追いつけそうに無かったので、地面を蹴って飛ぶ。
「飛ぶなら飛ぶって言ってくださいよ。危うく舌を噛みかけました」
「むしろ噛み切ってくれ」
肩から批難の声が届き、心からの思いで返した。
木々の間を縫うように進み、熊の後を追いかける。
「相変わらず人間を止めたようなアクロバティックさですね……」
「練習したらこんなの誰でも出来る」
目の前に現れた木を避ける為に身体を捻って急旋回したり、太い幹に当たらないように上体を逸らしたり、木に絡みついたヘビのような魔物に噛まれないように高速で上下移動したりして森の中を飛ぶ。
あの子と二人で飛ぶ練習をした。
このくらいは一人でも出来る。
やがて、熊が止まるのと、何かを叫ぶ男性が見えた。
人影が見えた事で一瞬、この人がさっき叫んでいた人かと止まりかけたが、その人は鎧に身を包んだ男性だった為、止まる事なく進んだ。
何処かにもう一人居るはずだ。
そして――
「あそこか」
見つけた。
~~~~~
あとがきキャラ紹介
アオイロ
コウジに重い感情を抱く倫理観皆無のストーカー。
小さい頃から付き纏い、見るだけに留まらず手を出すこともしばしば。
一度目で異世界に誘拐した犯人。
野放しにしておくのは危険だという考えにより、手元に置かれるようになった。
正体はスライム娘。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます