第6話 黒猫GPS
日曜日、午後。
買い物に付き合わされだが、思ったよりも紅美は元気にはしゃいでいたのでひと安心した。ある意味、勇太君の存在があったからかもしれない。不安に囚われて気落ちしているより、他の何かに気を取られていた方がいい。そうはいっても、私は気を抜くまいと周辺に目を光らせていた。
表参道で何件か店を回っているうちに、勇太君を見ているとその反応が面白くなってきた。ブランドショップに慣れていないのもあるだろうが、紅美のような美人の分類に入る年上の女に慣れていない。むしろ、初々しかった。
「勇太君、
「桃源さん、僕もういっぱいいっぱいです」
不覚にも勇太君が可愛いと思ってしまった。そうじゃない。これは助けを求められているんだ。弁護士としての責務を果たす時が来た。
紅美が数着服を持ってきたが、「こっちの色の方が似合う」と言って、勇太君をかっ攫う。どうせなら、彼をオレ好みに仕立てたい。案の定、その後は紅美と喧嘩ごしの会話が続いた。
結局、紅美どころか、私まで勇太君にスーツやら靴等を買ってあげていた。所詮、自己満足だ。しかし、自分とは無縁の世界の人間に伝言を託され、彼がそれを届ける勇気がなければ、冠城さんの手掛かりすら見つけられなかった。この感謝の気持ちをどう表せば良いのか、何かお礼が出来ないかと思っていたから良しとした。
紅美を店に送った後、勇太君に少し遠回りしていいか尋ねた。少しだけドライブするつもりで車を走らせる。
「勇太君、これ、スマホに付けておいてほしいんだ」
赤信号で停車した時、いつでも渡せるように用意しておいた物を渡した。彼が手に取り、袋から中身を取り出す。
「わぁ、カワイイですね。猫好きなんですか?」
「飼った事はないが、昔、野良猫とかによく餌をあげたりしていた」
「そうなんですね。僕も猫が好きです。実家では飼ってました」
GPS付の黒猫のストラップ。ドン引きされなくて良かった。
「御守りだと思って、スマホに付けといて」
「はい。ありがとうございます」
何の疑いも持たない勇太君は天然なのか。すると、彼は続けた。
「猫カフェとか行った事ありますか?」
「いや、そういうのは……」
「じゃぁ、神社とかお寺の猫はどうですか? 久し振りに猫に触りたくなりました」と、彼の笑顔に癒やされる。
今度、連れていってあげよう。とは、その時言えなかった。
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