第3話 安浦警部

 土曜日、午後。

 先方から遅れると連絡が入ったので、待ち合わせの公園でベンチに座り待っていた。よく見れば、銀杏いちょうの葉が少しずつ黄色く色づき始めている。

 「佐伯、遅れて悪い」

 優しそうな年配の男性。年季の入ったスーツだが、ネクタイだけはいつも真新しい。娘さんからのプレゼントは毎回ネクタイだから困らないと自慢している。

 お疲れ様です、と立ち上がり会釈した。

 「重要な話ってなんだ?」

 彼は安浦やすうら吉彦よしひこ。根っからの刑事だが、清濁せいだくあわせ呑む度胸も持ち合わせた警視庁捜査一課の警部だ。

 「それと、冠城は見つかったのか?」

 「いえ、まだです」

 安浦さんに資料の入った封筒を渡す。警察には以前から磯崎淳也の事を相談リークしていた。彼はベンチに座り資料を見るなり目を見開いている。

 「こんなの、刑事部だけじゃすまされねぇぞ」

 警察側もこれらの情報は喉から手が出る程欲しがる内容だ。これなら磯崎を逮捕できる。そして、冠城さんに行きつくはずだ。

 「これは、冠城と関係あるのか?」

 「磯崎淳也が冠城さんの居所を知っているようです」

 彼はまるで子を心配する親のような顔つきになった。

 「それと、お願いがあります」

 動揺が治まらない様子で私を見た。

 「この情報は一般人が届けてくれました。彼のお陰でこの情報を知る事ができたのですが、、磯崎と接点を持ってしまいまして」

 「……磯崎なら危害を加える可能性があるか」

 「私の方で注意しておきます。ただ、万が一の時には、早急に対応して頂けませんか?」

 安浦さんは今一度、考え込んでいた。

 「名前は?」

 「星月勇太、会社員。今、詳細を送ります」

 そういって、スマホを操作した。彼も自分のスマホを見て内容を確認する。

 「分かった。その、星月君には……」

 「彼に接触する場合は、私を通してからにしてください。後々、重要参考人になる事も考えられますから」

 すると安浦さんは急にふっと笑いながら私を見た。

 「何か、可笑しいですか?」

 「ああ、すまん。佐伯が弁護士になるって言った時の事を思い出してな」

 「昔話をしに来たわけではありませんよ」

 「佐伯も冠城も、ヤクザの家庭に生まれて。臨んだわけでもないのに、子供がきの頃から肩身の狭い思いをして苦しんで。そういうを助けたい。大したもんだよな」

 「安浦さん、もう痴呆症が始まったのですか?」

 「痴呆症は失礼だろっ」と、笑いながら怒った。

 「何かあった場合には、安浦さんに直接ご連絡します」

 「わかった。佐伯おまえも気を付けろよ」

 深々とお辞儀をし、その場を後にした。


 帰る途中、紅美へ連絡をしようか迷っていると、スマホが鳴った。午前中に会った近藤さんから直接の電話だった。要件はまた本家に来て欲しいとの事だったので、再び泉龍組本家へと向かった。

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