第7話 対峙
僕の髪の毛を引っ張り、磯崎は顔を近づける。
「この間は、よくも恥をかかせてくれたな」
間近で目を合わせると僕は怒りが湧いてきた。
「なぜ、冠城さんを……殺したんですか?」
磯崎が驚いた顔をする。
「てめぇ、何を知っている?」疑い深く僕を睨む。
「佐伯ちゃんと取引きするのに、てめぇをダシにしようと思ったが」と、掴んだ髪を捨てるように離した。
「気が変わった」
すると、冷たく硬い物が頭に触った。体が凍る。
『淳也! やめろ!』
冠城さんの怒鳴り声はその場に居る誰にも聞こえない。だが、手下の一人が磯崎を止めた。数秒の沈黙の後、磯崎は「おとなしくしてろ」と僕に言った。
それから車に乗せられ、頭に布を被せられる。
『勇太、必ず助けが来るから』
冠城さんが僕の中に居るのは心強かった。ふと、磯崎はなぜあの二人に拘っているのか不思議に思った。
『淳也は、俺が目障りなんだよ』冠城さんが言った。
それって、つまり――。
車から降ろされ、地面に跪けさせられると布が外された。薄暗い大きな倉庫の中。僕を取り囲む男達は六人。そして、正面に磯崎がいて、僕の隣には冠城さんがいる。
「冠城を殺した理由、教えてやろうか?」
後先考えるよりも、僕は我慢できなかった。
「冠城さんに嫉妬してたから、殺したのか!?」
磯崎は顔を歪める。
「紅美さんと桃源さんの、大切な人を返せ」
『勇太……』
「あの
「ガキは黙ってろ!」
磯崎が怒鳴り声をあげ、こちらへ向かってくる。目の前に来た瞬間、僕は冠城さんの真似をするように磯崎に殴りかかった。ひ弱そうな僕だから、拘束する事もしていなかったのは
しかし、周りの男達が一斉に襲い掛かってきた。
「冠城さん!」
『任せとけ!』
向かってきた男達を次々と蹴散らす。
僕の体が打撃を受けても、僕自身がなんとか我慢した。
『勇太! 踏ん張れよ!』
「はいっ」
僕の
あっという間に男達を倒していく。
「てめぇ、殺してやる!」
振り向くと磯崎がこちらに向かって銃を向けていた。
もしかして、死ぬ?
パンッ―—
僕はそっと目を開ける。
「ガァァッ……」
磯崎の腕から血が流れていた。
周りを見ると、その目線の先には。
「……助かった」
『
撃ったのは桃源さんだった。
僕は安心したせいか、力が抜けて後ずさりしながら壁にぶつかりしゃがみ込む。
折角、買ってもらったブランド物のスーツが血だらけになってしまった。クリーニングに出せば元通りになるのかな。
薄れゆく意識の中で、パトカーのサイレンと僕の名前を呼ぶ声がする。
「勇太君、しっかりしろ!」
桃源さんの声だ。
「……冠城さん、あとはあなたの遺体が見つかれば……」
「どういうことだ⁉」
「磯崎が殺した……」
僕は無意識に声に出していた。
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