第6話 激流

 月曜日。

 僕は新しいスーツに身を包み、気持ちも新たに出勤した。

 今の所、冠城さんの遺体を見つける為に僕が出来る事はもう無いらしい。無事に情報を渡せたので、桃源さんがを動かせるし、も動けるという。

 『桃源ももちゃんは表、俺が裏なんだよ』とドラマの設定みたいな話をされた時にはちょっとドキドキした。いずれにせよ、遺体を掘り起すとかしなくて済んだのは良かった。

 けれど、僕にはまだ冠城さんが憑いている。

 日中、冠城さんが堅気の仕事も面白そうだと言い出して、僕の仕事を教える事に。そして、改めて振り返ると所々で違和感を覚えた。それを冠城さんに話すと一緒になって考えてくれた。ひとつひとつ解決策が見つかると、みるみると仕事の効率が良くなっていった。

 そして、次の日には定時で帰れるという快挙。気持ちに余裕が出来たのか、炒飯を作ってみようと思い立つ。レシピをネットで検索したが、夢郷モンシャンで食べた味を再現してみようと、料理素人同士の冠城さんと妙な連帯感が生まれていた。



 木曜日。

 会社帰りに炒飯作りで卵を入れる手順について、冠城さんと語り合っている時だった。

 『勇太、後ろ振り向くなよ。後を付けられてる』

 声色が違う。一瞬で緊張が走った。

 『淳也の手下だ。いいか、そこのバス停で待ってるフリして桃源ももちゃんに連絡入れろ』

 僕は言う通りにバス停で立ち止まり、桃源さんにメールを送る。

 『そこを左に曲がれ』

 心臓がバクバク動きだした。

 『走れっ』

 全速力で走り出すと、後ろの方から「追え!」という声が聞こえた。

 『次はこっちだ!』


 


 人を掻き分け、あちこち走りまわる。

 「なんで、こんなに街中まちじゅうを走るんですか⁉」

 『防犯カメラに映っておけば、後で証拠になる』

 「証拠って!?」

 『いいから走れ!』


 無我夢中で走った。捕まったら、何をされるか分からない。

 まさか、こんな状況ことになるなんて。


 『そこ! 右に入って隠れろ』

 僕は息を切らし、その場に隠れた。

 『意外と走れるんだな』

 「大学までは……陸上部、でしたから」

 そうはいっても、全然運動していないから息切れが酷い。

 「ちょこまかと走りやがって!」

 顔を上げた瞬間、男が目の前にいて僕に掴み掛かった。

 だが、僕はその男に膝蹴りを入れる。

 冠城さんが僕の体を操った。別の男がまた襲ってくるが素早く避ける。

 『走れっ』

 今度は僕自身が勢いよく地面を蹴る。

 「警察に行った方が」

 『大丈夫だ! 桃源ももちゃんが手配してる』


 僕は路地から出てきた車をギリギリ回避し、また走り出す。


 『馴染みの刑事さんには相談してるはずだ。勇太にはGPSで居場所を分かるようにしてる』

 「GPS⁉」

 『ストラップ貰ったろ? GPS付だ』

 そういえば、桃源さんからスマホに付けといてと黒猫のストラップ貰ってた。

 『桃源ももちゃんはな、最高の相棒なんだよ!』

 その時だった、前方からさっきと違う男達が向かってくる。

 『クソッ、人数増やしやがって』

 急停止して細い路地に逃げ込む。しかし、またも前方がら二人向かってきた。挟み撃ちされ僕はついに捕まってしまった。


 そして、また一人の男が現れる。

 「やっと見つけた。てめぇが星月勇太か」

 『淳也……』

 そうだ、こいつが磯崎淳也だ。

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