第3話 ももちゃん
夜十時。人生初、銀座の高級クラブが並ぶ繁華街に居た。
『よし! 行くか』
「……貯金が無くなりそう」
重い足取りで高級クラブへ入っていく。冠城さんは〝ももちゃん〟という女の人に会いに行くのだと思うと、引き受けて良かったのだろうかと早速後悔の念に駆られてしまった。
「いらっしゃいませ。こちらは初めてでございますか?」
上品なボーイさんから丁寧な口調で声を掛けられる。そして、僕が席へ案内されようとした時だった。店内の奥の方で何か揉めているようだ。
「離してよ!」
淡いピンク色のドレスを着た女性が無理やり男に連れ出されようとしていた。その様子を見た時、僕はなぜか胸の奥がざわざわとしてきた。
女性が抵抗している所に人が集まり、説得しようとしているが男は無視。再び女性を強引に引っ張りこちらへと向かってくる。目の前に近づくにつれ、僕の体中の熱が一気に沸き上がった。
次の瞬間。その男を殴り飛ばす。
それでも怒りが収まらず、男の元へ行って胸ぐらを持ち上げぶん投げる。自分でも信じられない程、力が
僕の意思ではなく、僕の目がその男を睨みつけた。
「淳也ぁ、
僕の口が腹の底から怒りを吐き捨てた。
そして、テーブルの上にあったガラス製の
ビシャ――コロコロコロ
僕は自分の頭に溶けた水と氷を浴びせる。僕自身が咄嗟に、もう片方の手でアイスペールを押さえつけた。冠城さんは僕の体を使ってこの男を殺そうとしていた。
「冷静になってくださいよ!」
僕の意識は冠城さんに言ったつもりだったが、混乱し気が高ぶっていたせいか、そのまま声に出ていた。冠城さんが冷静さを取り戻したのか、殺意が薄れていくのを感じた。
殴られた男は驚いた顔をしている。だが、直ぐに立ち上がると僕に向かって「覚えてろよ!」と言い放ち店を出ていってしまった。
「君、こっち来て」
先程の女性が僕をバックヤードの方へと連れていく。どこからかタオルを持ってきて、僕の頭をわしゃわしゃと拭いてくれた。年上の女性。豊満な胸の谷間が目の前にあって、とってもいい匂いがして、とろけてしまいそうになる。
「私は紅美。さっきは助けてくれて、ありがとね!」
その美しい笑顔が安心感を与えてくれて、沸騰していた全身の熱が緩やかに下がっていく。
「失礼。
低い声で男の人が入ってきた。背が高く引き締まった体にスリーピーススーツとサングラスをかけ、全身からイケメンオーラがだだ漏れていた。
「この子のおかげで助かっちゃった! てか、ここでその呼び方やめてくれない?」
その男の人は何も返事をせず、僕の方を見てきた。
「え? ええっ⁉」
突拍子もなく僕が大きな声を出すと二人はぎょっとした。そして、僕は言った。
「あの、あなたが〝ももちゃん〟ですか⁉」
その瞬間、サングラスの男が僕の胸倉を掴んできた。
「ちょっと、何なのよ!」
紅美さんが必死に男をなだめようして腕を抑える。
「私はね、弁護士の佐伯
てっきり女の人だと思っていた〝ももちゃん〟は、男の人だった。
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