第2話 交渉
再び目を覚ますと、やはり部屋の中に誰かが居る。
「あの、どちら様ですか?」震える声で問いかけた。
『
その冠城と名乗る男を僕は隅々まで見回してみた。三十代半ばくらいか。鍛えてそうな体格、鋭い目をしているけれど笑顔は優しそう。
「幽霊って、ハッキリ見えるものなんですか?」
『幽霊になったのは初めてだからな! 俺も驚きだよ』
もしかして、これは幻覚なのか。
『おまえさぁ、昨日、キックボードに乗った酔っ払いに衝突されたんだ。あの野郎、何もしないで逃げていきやがった』
そういって、昨夜の状況を説明してくれた。僕は思い出そうとしたが全く思い出せない。
『それで、俺の勘だけど。俺との波長が合ったんだろうな。乗り移ってみたら、できちゃったのよ』と面白そうに言った。そして続ける。
『で、家まで来たんだけど。ずっと乗り移れるわけじゃないようだ。おまえの体力が無いとダメなのかな』
信じがたい話だったけど、この冠城という男が熱心に話している。不思議と嘘をついているようにも見えない。
『なぁ、名前。勇太って呼んでいい?』
「え? 何で僕の名前を?」
『免許証を見た。
「……あの、殺されたってどういうことですか?」僕はベットから出て、飛び出た中身を戻しながら、恐る恐る質問してみる。
『んー。俺、アウトローな職業でさ。掃除屋っていうか、殺し屋っていうか』
ドサッ
『あ~あ、また中身ぶちまけて……』
平常心でいられるわけがない。幽霊だって事でもとんでもない状況なのに、その男が殺し屋って漫画や映画の話じゃないか。
『まぁ、堅気の奴には程遠い世界だろうけど。こうして勇太と話せるし、何かの縁だと思ってさ、力を貸してくれよ。頼む!』
その冠城という男は、手を合わせながら深々と僕に頭を下げてきた。
「例えば、何をすればいいんですか?」
『ありがとな! まずは、ももちゃんに会いに行ってほしい』
「ももちゃん?」
冠城という男は、なぜか楽しそうな様子だった。
次の日。熱も下がり、あれほど酷かった頭痛も治まったので会社には出勤した。例の幽霊も一緒に。
「あの……冠城さん、なんで一緒についてくるんですか?」僕は極力小さい声で話しかける。
『勇太に憑いてるんだから、付いていくのは当然だろ?』と、大きな声で返事をした。僕は慌てて「しーっ!」って、人差し指を口に当てる。だが、その様子が周りの人達には奇怪な行動に見えたようで、僕は真っ白になった。
『だっはははっ! 俺の声は勇太以外には聞こえないって』
「(分かってるなら、早く言ってよ……)」
『お、心の声が聞こえたなぁ』ニヤニヤしながら僕を見た。
「(え⁉ 今の聞こえたんですか⁉)」
僕は幽霊殺し屋に殺されるのではと血の気が引く。
『俺達、心の友だな!』なぜかドヤ顔。
「(僕、週末お祓いしに行こうと思います)」
『やめて!』
こうして、冠城さんは仕事中の僕をからかって遊んでいた。しかし、それよりも僕は今夜高級クラブへ行かねばならない事で頭がいっぱいになっていた。
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