第4話
ガスマスクを着けたような蝗。
不愉快な気持ちだ。勢いよく踏み潰し、飛び散った粘液を指ですくう。その瞬間、乾いたエレキギターの音色が、おれの目の前に現れる。ルー・リードの呪文。しゃがれたボーカルが、おれの直接性を揺さぶる。すると、おれは、双子になっていたのだ。おれは相棒を探していたところだ。珈琲色の顔の、おれの相棒。バイクにまたがり、爆音で疾走してゆく。怪奇な街、怪奇な夜を引き裂き、おれと相棒は、走り去る。ドラム缶は揺れる。
おれと相棒は、川沿いの街へ向かう。山のような蚊の死骸。細胞たちの、色とりどりの夢の跡だ。急に雨が降ってくる。昭和初期の、川沿いの街。男と女が、あらたな価値を生み出そうとしていた。警官に怪しまれた詩人は、自分のこころを癒したくて、ふらり、とこの街へきた。娼婦は、詩人を暖めてやりたかった。ラジオの音がうるさい。おれたちは、詩人と娼婦の、甘い恋をぶっ壊して走り去るのだ。貧乏臭い恋の物語は、砕け散る。
隣の家では、まだ女を知らない学生たちが、社会の変革について議論をしている。味の薄いおでんを食いながら。その部屋は、まだ異性を知らない男たち特有の、不潔な熱気が漂っていた。理論は、清潔だった。おれと相棒は、学生たちと話をしたのだ。マルクスについて、資本主義の打倒について。人間の解放について。いちばん大事なのは、破壊することだ、と学生どもに言ってやった。
お前たちは、まだまだ甘いのさ。
お前たちは、せいぜい死人のマネでもしていやがれ。
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