第3話

午前3時。

森閑としている。人気がない。

おれの目の前には、倫敦塔が立っていた。高くそびえ立っている。沢山の兵士たちの死骸を叩き潰し、そいつを養分として、この塔はできている。おれがここで死んだら、おれが持っている、たくさんの人と繋がる力、そいつも消えてしまうのだ。死ぬわけにはいかない。

しかし、塔とはいったい何なのか?いや、建築とは何なのか?建築と美術の違いは、窓があるかどうかです、と言った男がいたが。

午前3時。

ふと、男の声が聴こえる。明治の糞坊主の声がする。お前は悟ることが出来るかな、とおれに言う。それができないようなら、おまえは人間の屑だ、と言って笑っている。

辱しめられている。許すわけにはいかない。

おれは、糞坊主の首を取ってみせる。奥歯をぎりぎりと噛んだ。

薄墨色の空から雨が降っている。陰気なおれは、陰気な倫敦塔を破壊しなくてはいけない。権力の塊。権力を振りかざす豚どもの笑顔。糞坊主の笑う声。すべてが気に入らない。レンガが積み重なったような、おれの精神の構造。おれは、動けない。悟ることもできない。おれは昆虫の標本のようにピンでとめられ、馬鹿者の見本として、生きていくのか。

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