最終章 魔女狩り陰始末

なんでそーなるの!?

 じいちゃンが日曜に退院した。

 少し痩せたようだ。

 少し元気がないようだ。

 入院中に何か思うところでもあったのだろうか。

 まあ、オレにとってはありがたい。


 5月の連休も終わり、月末になれば体育祭だ。

 体育祭実行委員である虎雄の鼻息が荒い。

 誰がどの競技で参加するかでクラス中が騒がしい。


「この男女混合400メートルリレーの参加者の女子の一人が決まらねえと帰れねえ。誰か我こそはと思う女子はいないか」

 帰りのHRの時間を利用して体育祭の話し合いをしているが虎雄の声が虚しく響いている。

 ちなみに男子2名はオレと虎雄。

 女子は辰っつあんが決まったが後の1人が決まらない。

 ソフィは足の捻挫の治療中のために辞退。


「そうだ、最近イメチェンしてキレイになったお菊ちゃんはどうだ? リレーで目立てばモテモテになれるチャンスだぞ」

 虎雄がお菊ちゃんの顔を見て言った。

 そう、あれからお菊ちゃんは三つ編みをほどいておかっぱに。

 メガネを外してコンタクトレンズに。

「キレイになったね。おかっぱがよく似合っている」

 あまりの変わりようにオレは思わず言った。

「フフ、せめてボブヘアーと言って」

 お菊ちゃんはどこか吹っ切れたようだ。

 クラスの皆んなも親しみを込めて彼女をお菊ちゃんと呼ぶようになった。

 さらにはしっかりと謝罪を受けたとソフィ本人からも聞いた。

 まだ学校には名乗り出てはいないが、名乗り出ても誰も得はしないので口外無用となっている。


「ありがとう、虎雄。でも私にはすでに心に決めた人がいるの。だからモテモテになる必要はないわ。ねえ鉄太、そうでしょう?」

 笑いながらオレに熱い視線を注ぐお菊ちゃん。

「お幸せに」

 虎雄は吐き捨てるように言った。

「いや、違うんだ。オレとお菊ちゃんは何でもないんだって!」

 もちろん、オレは否定した。

 お菊ちゃんからアプローチされているが、オレは彼女と付き合う気は毛頭ない。


「ちょっと、鉄太はクラス委員長なんだから男女交際はダメなんだぞ!」

 辰っつあんが大声を出したがそんな決まりがあるとは知らなかった。

「へぇ~、いつの間に。今度アタシと一緒にクリームあんみつを食べる約束はどうなるの?」

 ソフィが眉を吊り上げてオレを責め立てる。

「あ~あ、鉄太のせいで雰囲気が昼ドラになっちまったぜ。何とかしろよ」

 虎雄までオレを責め立てる。

「わかった。最後の女子リレー選手は当日にオレがクラス委員長の強権を持って指名する。髪のハリとか肌のツヤとかでその日1番体調がよさそうな女子がリレーに出場すること。以上!」

 オレは強引にその場を治めて事なきを得た。


 帰り際にソフィに呼び止められた。

「ねえ鉄太、お姉ちゃんからメールがあったんだけど。『緊急! 今すぐ鉄太を連れて帰宅するように。大事な話があるから早く帰ること』、だって」

「わかった。どうもただごとではないようだ。急ごうか」


 魔女の館の中に入るとローズ姉さん、そしてなぜかじいちゃンまでいた。

「あれ、どうしてじいちゃンが? ローズ姉さんを嫌ってたんじゃ?」

「ああ、今はちぃとばかり深刻な状況でな。もうケンカなんてしておれんのじゃよ」

「そうよ。ちょっと作戦会議をするからその間ソフィの部屋でおとなしくね、2人とも」

 じいちゃンもローズ姉さんもかつてないほどのシリアスな雰囲気だったのでおとなしく従った。


「じゃあアタシの部屋に案内するから、ついてきて」

 階段を上ってソフィの部屋に入った。

「へえ、案外普通なんだな」

「あんまりジロジロと見ないで。そもそも男の子をこの部屋に入れるのは初めてなんだから」

「そりゃ光栄なことで」

 ソフィの部屋は女の子らしい感じであった。

 カーテンやベッドはピンクのパステルカラー。

 机にはノートパソコン。

 本棚には参考書やマンガ。

「ちょっと飲み物を持ってくるからマンガでも読んどいて」

 ソフィはそう言うと部屋を出ていった。

 さて、面白そうなマンガは……っと。

 あったあった、オレ好みのやつが。

 格闘マンガ、『ふんばれ、チータン』が。

 しかも愛蔵版で全20巻がきちんとそろっている。

 オレは夢中になって読みだした。


「それ面白いよね。男の子向けだけどアタシのお気に入りなの」

 お盆にオレンジジュースを乗せたソフィが部屋に入ってきた。

「アニメ化もされたしな。オレは今、心の中で無意識に主題歌を歌っていたよ」

「わかる~! あの主題歌あってこそよ」

「「♬~ふんばれふんばれ、チータン。戦い終われば、戦い終われば、愛しいあの娘の胸の中で~♪」」

 2人の声がハモった。


「ねえ、前に展望台で話した時のことを覚えている? ほら、勇気の出る魔法のかけかた」

「ああ、思い出した」

「今の歌がそれ。勇気の出る魔法の正体よ」

「どういうこと?」

「前にお姉ちゃんから教わったんだけど魔法って思っているより単純なの。心に影響を与えればそれはすべて魔法になる。勇ましい歌を歌って元気になるのならそれも立派な魔法なの」

「その通り! 様々な民族に士気しき鼓舞こぶする歌は必ずあるぞ」

「じいちゃン!」

 部屋の前にはいつの間にかじいちゃンが立っていた。

「話し合いが終わったから2人とも下に降りるんじゃ」

「じいちゃン、階段を上ったらギックリ腰に悪いんじゃ……」

「たわけっ! 鍛え方が違うわい。ワシを誰だと思っておるんじゃ!」

 じいちゃンを心配して怒鳴られたんじゃ割に合わない。


 リビングのテーブルの席にそれぞれが座った。

「さて、結論から。私とソフィはこれからしばらく白金さんとこの武家屋敷に住むことになったの。反論は認めないわ。わかったわね!」

 ローズ姉さんの激しい剣幕と意外すぎる結論にオレとソフィは顔を見合わせてしまった。

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