男の子と女の子
4月下旬になって。
いいニュースと悪いニュースがある。
まずはいいニュースから。
じいちゃンの退院日が伸びた。
肝臓の数値もほぼ正常になって気を良くしたじいちゃンはベッドで腹筋運動を決行。
見事にギックリ腰が再発。
オレは病院から退院延期の知らせを聞いた時に思わず
不謹慎?
いや、正常な反応だと思う。
次に悪いニュース。
こちらは2つも。
まずはオレの帰宅部が決定。
こちらは後でも入部届が出せるから大したことじゃない。
問題なのは次。
会長から密命を帯びて2週間以上経ったが、裁きの魔女の手がかりは全くつかめず。
やはりただのイタズラだったのだろうか。
そういやまだソフィとの約束を果たしていなかった。
たまにはカフェでまったりとするか。
日曜の午前11時過ぎ
オレとソフィは駅前の喫茶店『オ・ソレイユ』のオープンテラスで向かい合って座っていた。
しかし考えるのは裁きの魔女
あの裁きの魔女をタイトルにした作者であるお菊ちゃんのお姉さん菊川真理恵
どう考えてもあんなイタズラをするタイプには思えない。
「何、深刻な顔をしてるの? あっ、初めて女の子と2人きりでお茶しているから緊張してるんでしょ」
「いや、昨日は辰っつあんとモーニングだのスイーツだので2回も付き合わされたし。大体こういうのって小学生の時に経験するもんじゃないの。ソフィは男の子とお茶なんてしょっちゅうだろうけど」
見るからに不機嫌。
「アタシにとっては初めてよ。そもそも男子は苦手なの」
「オレも男子だよ」
「鉄太はなんか男子って感じがしないのよ。なぜかわかんないけど」
「もっと男子として見られるよう頑張るよ。ところでそのスペシャルパフェは美味しい?」
ソフィの前には季節限定スペシャルパフェ。
イチゴやメロンやキウイが惜しげもなく盛り付けられていて、生クリームやアイスクリームにはチョコやシロップがかかっている。
ちなみにオレはカフェオレにチーズとグリルチキンを挟んだクロワッサン。
「うん、ほっぺが落ちそうなくらい。ねえねえ、欲しい? 欲しいんでしょ。はい、あ~ん」
さっきまで自分の口に入れていたスプーンにイチゴを乗せ、ソフィはオレの口元まで持ってきた。
拒否するのも悪かろうと、
「あ~ん」
って大きく口を開けた。
「あれ!? ここは照れるシチュエーションでしょう。『ワッ!? 間接キスだ、どうしよう!?』ってあたふたするべきなのに。アタシだって女の子なのよ」
「ソフィはなんか女の子って感じがしないのさ。なぜかわかんないけど」
「本当言うとね、今日のことを楽しみにしていたんだけどあんまり楽しくないのはどうしてなんだろ? お洋服だっておめかししてきたつもりなのに」
改めてソフィを見るとライトグリーンのワンピースに白のローファーは春らしくてソフィによく似合っている。
「多分オレのせいかも。ゴメン、謝るよ。こっちは最近ちょっとトラブル続きでね。お詫びにモンブランを追加注文しようか?」
「お、気が利くじゃないの。デザートは別腹。ごっつぁん!」
ソフィはさっきからの微妙な空気をどうにかしようとおどけている。
原因はオレの辛気臭い
カフェオレを飲みながら考えを整理してみる。
裁きの魔女の手がかりは以下の通り。
針の刺さった粘土人形3体に手紙。
裁きの魔女をタイトルにした小説とその作者。
この内、粘土人形に関しては手の付けようがない。
指紋もDNA検査もできないしサイコメトラーの知り合いもいない。
手紙の文面から辰巳兄妹に恨みを持つ人物なのは間違いないだろう。
そしてオレを知っているのは間違いない。
小説に関しては内容や作者のキャラクターからして無関係な気がする。
だからオレは目の前のソフィを疑っている。
前にお菊ちゃんは「ソフィは魔女だから注意して」とオレにささやいた。
ソフィの姉であるローズ姉さんは魔女を自称している。
しかしこの誰もが振り向く美少女が裁きの魔女?
あっけらかんと気さくな彼女が粘土で人形をこしらえ針を刺す姿はどうも考えられない。
「ま~た深刻ぶっちゃって。いいわ、アタシとお茶するんで緊張したことにしといてあげる。さ、モンブランが運ばれてきたわ。なんて美味しそうなの!」
ソフィの言葉で我に返った。
「なあ、ソフィ。今のクラスは楽しいかい?」
「なによ、いきなり。でもそうね。このクラスなら上手くやっていけそう」
そう言うとソフィはモンブランを口に運んだ。
「ん~、こんなに幸せな日ってそうそうないわ」
ソフィの嬉しそうな顔を見てホッとした。
後にオレは「このクラスなら上手くやっていけそう」という言葉の意味をもっと深く考えるべきだったと思い知ることになる。
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