変化したことベスト3
ここ最近は現実や状況が色々と変わっていっている。
そんな中で特に印象深いベスト3をここでピックアップしてみる。
じいちゃンが入院した日の夜。
ブラジルの両親に国際電話をかけてくれたローズ姉さんには感謝してもしきれない。
オレは父さんには事情を簡単に説明した。
じいちゃンが入院したこと。
家電はもとより、パソコンやスマホなどの通信手段がないこと。
お隣の乃木家にお世話になっていること。
「わかった。すぐに対処する」
父さんはそれだけ言うと電話を切った。
――次の日の昼過ぎ。
父さんの部下と名乗る男と業者の人たちがじいちゃン家にやって来た。
たしか父さんは通信とかを支える会社の重役だったはず。
だからか業者の人たちはあっという間にwifi環境を整え、PCやスマホやタブレットをセッテイングしすぐに使える状態にしてくれた。
「さあ鉄太くん。もう少しでお父さんと話せますよ。
部下の人が言った。
パソコンの前でしばらく待っていると本当に画面に父さんが映った。
「お、うまく繋がったな」
「うん、バッチリ見えるし聞こえるよ」
「しかしイザこうして向かい合ってみると何を話せばいいかわからんもんだな」
「いや、じいちゃンもまだ入院しているし、オレも中学生になった。小遣いの大幅upを希望する。それと何かあった時のためにお金をたくさん振り込んでよ」
「む、わかった。明日には振り込まれていると思うから安心してくれ。後ちょっとしたら会議の時間だからいったん切るぞ」
「ああ、お仕事お疲れさん」
画面から父の顔が消えた。
おっと、クラス委員長になったのを言いそびれたがまた今度でいいや。
「こちらのPC、スマホ、タブレットは九段本部長からの手配です。ご自由にお使いください。わからないことがあればこちらにご連絡を」
部下は名刺を渡してくれた。
「何から何までありがとうございます」
門の外まで彼らを見送りお礼を述べた。
これで通信手段はバッチリだ。
ようやく文明人らしい生活が送れる。
これが変化その1。
時刻は午後の6時ちょい過ぎ。
さて晩飯はどうしよう?
もう粗食に耐えなくていいのは嬉しいけど、料理なんてしたことない。
「もう少ししたら鳥を狩るための手裏剣術や食べられる雑草の見分け方を教えてやろうかの」
なんて、前にじいちゃンは言ってたけど教わる前に入院しちまった。
うどんを茹でて大根おろしとネギと刻み海苔を和えようかな、なんて考えながら門を閉めようとすると道の向こうからソフィが歩いてきた。
なぜか両手で鍋を持っている。
「ああ、重い重い。早くお鍋を受け取って……って松葉杖じゃ無理か。なら家の中に案内してちょうだい」
事情はわからないけど言われるがまま従った。
勝手口のドアを開け、そのままガスコンロの上に置いてもらった。
「お姉ちゃんからのおすそ分けよ。魔女特製のビーフシチューだって。自分で持っていけばいいのになんでアタシに持って行かせるのかしら」
「でも助かったよ、ありがとう。これでしばらくは困らない」
「お礼ならお姉ちゃんにどうぞ」
「うん、こういうのは早い方がいい。今からソフィを送ってからお礼を言うよ」
「別に送らなくっ立て大丈夫なのに。あっ、わかった、アタシとお話したいんでしょ」
「もう日も暮れてるし外は暗い。最近は物騒で治安も悪い。ここで送らないでソフィに何かあったら一生後悔するハメになるんだ。そんなのはイヤだ。オレは多少は強いし守ることくらいはできるよ」
「な~にカッコつけてんの。まあ、アタシも言わなきゃいけないことがあるから丁度いいわ。さあ行きましょう」
ここから乃木家、通称魔女の館までは約50メートル。
街灯も少ないし、暗いし、人っ子一人いない。
そんな道を2人並んで歩いた。
「で、言わなきゃいけないことって?」
「あれからね、お姉ちゃんが話してくれたの。その、おじいさんが大変だったのにアタシったらごめんなさいッ」
「ん!? ああ、こっちも悪かった。そもそもオレと関わったばっかりにイチゴのタルトは食われるし、腹をすかせて待っているのにオレとローズ姉さんはステーキを食べたり、今日は今日で重たい鍋を持ってくるハメに……。嫌われてもしょうがないよ。だけどさっき謝ってくれたからすべて水に流すということでいいのかな? もちろん駅前の喫茶店『オ・ソレイユ』のなんちゃらパフェの件も含めて」
「……聞いていたら段々とムカついてきてお腹が空いてきた。もちろん季節限定スペシャルパフェの約束は守ってもらうからね」
「うへぇ」
ま、そんなわけでソフィとの距離も少し近くなったような。
これが変化その2。
変化その3についてはこれから説明する。
入院して2日めの夕方。
家から病院まで歩いて30分。
左手には松葉杖。
じいちゃンの着替えや保険証などを詰めたリュックを背負って往復1時間。
だけどじいちゃンとの修行に比べりゃ屁みたいなもんだ。
「着替えを持ってきたよ」
ベッドで仰向けになっているじいちゃンに声をかけた。
鼻の管と点滴が痛々しい。
「おお、すまない」
「オレ、クラス委員長になったよ」
「そりゃすごい」
「今は修行どころじゃないからやってないよ」
「それも仕方あるまい」
「なんだよ、ずいぶんと元気がないじゃないか。オレはいつものように怒鳴られるのかと思ったのに」
「ワシは武術家じゃ。自分の死期くらいはわかるわい」
「そんな、医者だって2~3週間で退院できるって言ってるのに」
「人は皆老いる、病む。
「いつものじいちゃンはどうしたんだよ! 無三流で鍛えた気力体力はその程度だったのかよ! ちょっと入院したくらいで弱気になるんだったら無三流なんて習う価値はないじゃないか!」
自分でもなぜこれほどエキサイトしたのかわからない。
ただ弱いじいちゃンが許せなかったんだ。
「……今、なんと言った?」
「耳まで遠くなったのかい? 弱い弱い無三流なんて習う価値がないヘッポコ武術だって言ったのさ。それが何より証拠にはじいちゃンは泣き言をグチグチグチグチ。悔しかったらさっさと元気になって退院してくれ」
その時、じいちゃンの顔が赤くなり額の血管が浮き上がったのを確かに見た。
「貴様ッ! そこに直れいッ! ワシはともかく無三流の名誉を貶める言動は万死に値するッ! ワシが退院したら覚悟しておけッ! 修行と鍛錬の密度を10倍にして性根を叩き直してやるッ!」
「フン、やなこった。オレはクラス委員長の仕事で忙しいんだ。オレはオレの道を歩くと決めたんだ。おっと、そろそろ面会の時間は終わりだな。また来るから」
「鉄太ァ~~ッ!」
とりあえず元気になってくれて良かった。
病室を出てエレベーターに乗ろうとすると医師に呼び止められた。
「九段鉄太くんですね。ちょっとお話が……」
医師は深刻な顔をしている。
悪い検査結果が出てしまったのだろうか?
猛烈にイヤな予感がする。
小さな相談室に通されると、医師はノートパソコンの画面を見せた。
「見てください。凄まじい勢いで肝臓の数値が良くなっています。入院時は3桁だった異常値が今や2桁に。驚きました。この調子で行けば1週間以内に退院できる可能性も出てきました。本当に良かったですね」
「ちょ、ちょっと待って。冗談じゃないですよ。ここはもっと慎重になって念には念を入れて欲しいです」
「病院というのは常に入院のベッドが足りないんです。だから入院する元気になった患者が退院してくれないと入院すべき患者が困ります。わかってください」
「……ハイ」
「そしてもう一つ。君はさっき病室で激しく怒鳴り合っていましたね。患者さんを興奮させるのは禁物だし周りの迷惑にもなります。次にあんな事になったら即退去してもらうのでそのつもりで」
「……ハイ」
オレはとぼとぼと病院を後にした。
良い知らせといえば良い知らせだし、悪い知らせだといえば悪い知らせだ。
オレの自由も後わずか。
今は何時だろう?
スマホで時間を見ると午後5時すぎ。
メールが着信しているので確認すると通帳に入金があったお知らせだった。
通帳を見ると結構な額が振り込まれていた。
サンキュー!! 父さん!!
もう晩飯は作るのも面倒なので駅前のラーメン屋で済ませた。
多少しょっぱかったがチャーシュー麺大盛りは美味かった。
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