第一章 じいちゃンはモーレツ!!

地球の裏側へエアメール

 前略

 父さん、母さん、ブラジルでの暮らしぶりはいかがでしょうか?

 こちらはじぃちゃンとなんとか上手くやっています。

 中学生になる前の貴重な春休み、有意義に過ごすつもりです。

 春のお彼岸にばぁちゃンと鉄彦叔父さんのお墓参りを済ませたので安心してください。


 オレも本当にブラジルに行きたかったです。

 サッカーの国。

 カポエイラの国。

 ブラジリアン柔術の国。

 いつも陽気な美女がサンバを踊っている国。

 リオのカーニバルは一度この目で見てみたかったです。

 本場のコーヒーの豊かな味を堪能たんのうしたかったのです。

 今はコーヒーの代わりにじぃちゃンの淹れた梅昆布うめこぶ茶を味わっていますが不味いとしか言えません。


 ついつい愚痴ってしまってごめんなさい。

 さて、こちらの暮らしぶりですが……。

 じぃちゃンのギックリ腰はすっかり良くなりました。

 こないだは童心に帰って本気の鬼ごっこで遊びました。

 日本刀を持って追いかけてくるじぃちゃンはナマハゲより迫力があります。

 人間は死ぬ気になれば、いつまでも走ることができるんですね。

 オレという孫を相手にここまでやってくれるのは正直ありがた迷惑でしかありません。

 でもまあ、仲良くやるしかありません。


 食事はきちんと三食とっています。

 ただ毎回毎回、一汁一菜です。

 雑穀米ざっこくまいに味噌汁にタクアン。

 食べ盛りの身なのでキツいです。

「一度余分な脂肪を取ってから筋肉に筋金を入れなきゃならん」

 なんてじぃちゃンは宣っていますが、現代の栄養学を思いっきり無視しています。

 とにかく腹が減って仕方ありません。


 パソコンやスマホがあれば、直接お話もできるのですがここにはそんな文明の利器はありません。

 それに日本とブラジルの時差はなんと12時間!

 つまり日本の夜8時がそちらでは朝8時。

 お互いの都合を考え、こうして手紙を書いている次第です。

 なぜか手紙だと普段の口調と違い、敬語になってしまいます。

 慣れない敬語をお許しください。


 最低でも3年は日本に帰国できないそうですが、一刻も早く帰ってきて欲しいです。

 無理ならオレ自身がブラジルに向かいたいのですが、それはもっとダメそうですね。

 それではこの辺で。

 お体にお気をつけてください。

                草々

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