第4話 冒瀆 『結果』
窓ガラスにはドロリとした
もうずっと、いつからか判らないずっと、そう、ずっと、ずっと、ずっと、それを眺めている。
マンションの部屋から見える全ての景色は、忘れてしまいそうなくらい、もうずっと前から、モノクロにしか映らない。
初めてこの窓から見た風景を何故か思い出した。妻が一緒だった。今はもういない。
自殺した。
出先から娘と一緒に帰ってくると、妻はキッチンの天井からぶら下がった姿で僕らを出迎えてくれた。不自然に
その中でたった一人、妻の死体の下で、息子は僕達が帰ってくるのを、待っていた。
妻が······ミキが自殺した理由を考えた。
彼女はいつの頃からか、とても疲れ始めていた。その疲れが原因で病院に通っていたのも、僕と娘は知っていた。駅近くの新しいビルに小綺麗なメンタルクリニックが1軒ある。しかしメンタルクリニックとは言うものの、少ない診療時間で大量のクスリを
最近の精神病院はメンタルなんて横文字の
そんな病院から、ミキは数種類のクスリを処方されていた。クスリの量も尋常ではなかった。しかしそれだけの種類と量を服用しなければ、ミキは僕ら家族が知っているミキとしての存在が不可能になっていた。クスリを飲むのを止めると、アッという間に家族の知らない妻に、母に、ミキは変わってしまう。だからあんなにも変わり果ててしまった彼女に、どんな形で手を差し伸べてよいのかも
「妻は狂ったのではない。少しの、ほんの少しの疲れが抜けないだけなんだ」
そうやって周囲に説明する事こそが愛情だ、と信じて疑わず、妻の心の中で起こっていた全てから目を
だからミキが自殺した後ですら、あのクリニックが、あのクスリが、あの抜けない疲れが、と妻を殺した原因をアチコチに
そして、自殺から半年あまりが過ぎた。
水の流れが
ざっとこんなもんだろうか、モノクロにしか映らない原因の言い訳は。
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