18-3 ~ 人類救済計画その1 ~
「……え?
毎日って?
嘘、でも、そんな、でも、え?」
つい俺がぽろっと呟いてしまった実感を伴う失言に、それを耳にした
実のところ、口にした俺自身、自分の発言が……いや、自分自身の下半身が、この時代の平均的な男子と比べて如何に凶悪かを理解していなかったこともあり、その呟きが失言だなんて全く思い当りもしなかった。
それを理解させられたのは、目を回したリリス嬢がぼろぼろと、誰とはなしに口にした呟きを聞いた所為である。
「嘘よ、毎日って、そんなのあり得ない。
だって、そうだったら都市計画をまた見直さないとダメじゃない。
採取精子量を修正した場合、人口は今の30倍になる計算に……」
「……は?」
人口を今の30倍。
要するに彼女は、人口の計算を精液提供が30日に1度の……成人男性の平均的な数字で計算していた、ということなのだろう。
恐らく先日、聞き流した辺りにそんな数値が入っていたのだろうけれど。
──330万人の30倍。
──約1億人のハーレム?
今までですら既に理解が及んでいなかったのは認めるものの……ここに至ってはもはや頭脳が理解を拒む世界だった。
確か俺が暮らしていた21世紀の日本人口が1億ちょっとで……正確な数字は忘れてしまったが、兎に角それくらいだったと覚えている。
その日本の人口と同じ数が俺の女、という計算になる。
日本全国、お手付き自由、適齢期の女性全てが俺だけのもの、という歴史上の如何なる男だろうと達成できなかった、空前絶後の大規模ハーレムである。
正直、理解出来る出来ない以前に、空想の範疇すらも完全に超えている。
「これは、地球上の……適齢期の女性殆どになる、のでは……」
その具体例を提示した優秀なる
──変なテンパり方だなぁ。
人間という生き物は、想定外の事態に遭遇した時、その本質が現れると言う。
俺自身、現実逃避して適当な妄想に逃げ込む派であるが……我が
俺はふと気になって彼女の眼前に展開された仮想モニタをこちらでも可視化してみたのだが、凄まじい勢いで数字が動いていて、何が何だかさっぱり分からなかった。
とは言え、数式のログを辿れば、彼女が必至に計算している内容が分からなくはない。
──地球上の人口が、約10億人。
──男性の人口はごく少数なので誤差の範囲に置くとして。
──適齢期の女性年齢は15~35と仮定、平均寿命を100歳と仮定すると。
年齢分布の具体的な割合などはデータが手元にないので……計算が面倒になるので俺自身は検索するつもりがなく……我が優秀なる
そして、ここからは恐らく都市人口とそれ以外の外民の関係となり……彼女が
それでも、何となく分かった数字が、現在都市人口と外民とを含め、受精を一度も経験していない適齢期の女性人口が凡そ1億3千万人程度。
犯罪性向のない……所謂身綺麗な女性をその中から選び、1億人を抽出することで犯罪者以外の未婚女性を救おうとするのがこのレポートの骨子のようだった。
そして、彼女が今猛烈な勢いで作成しているレポートのタイトルが、「海上都市『クリオネ』における全人類救済計画」である。
「……コイツは、まだ、仕事を増やす気か……」
これはただの推測でしかないが、彼女が我が
女性の地位向上……そのために必要なモノが「どんな女性でも妊娠できる大量の精子」の存在、のようだった。
事実、今書いているレポートに数字を引用しているらしき、隣の仮想モニタに展開している彼女が過去に書き上げたレポートのタイトルは「女性同士における妊娠とその問題点」とあった。
──女同士?
──ちょっと、興味は惹かれるな。
レズビアンは少しばかり違うと感じるものの、百合系漫画は好きだった俺が、何となくそう考えた瞬間……
尤も、今の状態ではたった一度読んだ程度の理解度しかないので、しっかりと理解しようとすればもう何度か転写する必要がありそうだったが。
具体的な内容は簡単だった。
この600年後の未来社会では、科学技術が発展したお陰で女性同士でも妊娠は可能になっている。
勿論、それではどう頑張ってもXX染色体の受精卵しか作れず……「女性しか生まれない」という致命的な欠陥が生じる訳だが。
それでも子供を育てられない世代は外民として都市にも入れず、テロを起こして若くして散るか、仮想現実に逃げ込んでただ歳を取るばかりのこの時代で、女性同士でも子供を産めるような政策を取れば外民による犯罪も減るのではないか?
……というのがこのレポートの内容であり、まぁまぁ頷ける内容ではあった。
実のところ、外民の一部……あまり推奨されない犯罪者が多いグループでは、そうやって女同士で子供を作っている例もある、とは聞いたことがあるくらいである。
技術的には問題ないのだろう。
──でも、コレは破棄されている。
女性同士での染色体結合による妊娠技術は、染色体変異の危機を招き、X遺伝子まで破壊される恐れが生じるため、現段階では禁止している、というのが地球中央政府の言い分である。
その言い分を目の当たりにした俺は、「まぁ、仕方ないのか、でも……」なんて考えた……次の瞬間だった。
俺の
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