14-6 ~ 決断その2 ~
──だったら……俺が選ぶべき道は……
そこまで考えた俺は、ふと思い立って
こうして遠くから眺めた地球は、21世紀に映像で見たのとそう大差ないように思う。
勿論、砂漠が広がっていたり、埋立地が新たに出来ていたり、俺が住んでいるこの海上都市のようなものが幾つも浮かんでいたり、起動エレベーターが赤道付近に散らばっていたりと、色々違う場所もある筈なのだが……どれもこれも間違い探しのレベルでしかなく、地球全体の大きさとしてはそんなもの、些事に等しい。
──地球そのものは変わってないのになぁ。
たったの600年で人の心も社会も常識も随分と様変わりしてしまった事実に、俺は今更ながら大きな溜息を一つ零していた。
そうして地球を見下ろしていると、軽い眩暈を感じたので、俺はとっとと風呂から上がり、パンツ一丁のまま仮想障壁の上に寝転ぶと、微風を浴びながらさっきの思索の続きに耽る。
自問自答を繰り返して分かったのだが、「この社会を許せない」という気持ちはまだ俺の中に間違いなく存在している。
だけど、この歪みまくった社会の中で暮らし、それなりに生きている女性たちと関りをもってしまった身としては、そんな気持ちなんかよりも、色々と狂ってしまった価値観を修正してやりたいという思いの方が強い。
いや、お役所からの委託業務で冒頭に書き散らす文章のような、表面を取り繕ったお題目を取っ払って正直な意見を言うならば……俺自身の感性がここまで狂ってしまった価値観に悲鳴を上げ、耐えられなくなってきているのが正解だろうが。
「……だからって、どうすれば良い?」
初志を貫徹するならば、今までこの宇宙歴うん年の未来社会を生きてきて色々と学んで来たことを生かし、この世界をぶっ壊すべきなのだろう。
だけど……
社会は既に男性不足で崩壊寸前に陥っており。
テロを起こそうにも、そもそも世界中で頻発している。
地球破壊爆弾なんて便利なモノはなく……
実のところ、撃つどころか造ろうとした時点で
致死的なウイルスや毒物をばら撒こうにも、過去の経験からか人類の生存圏は都市ごとに分断されていて、人類全てを壊滅させることなど出来やしない。
──かと言って、戦争したところでなぁ。
戦争を吹っ掛けようにも、男が絡んだ戦争なんて仮想空間でのお遊戯でしかなく。
女性たちが地球の外でやっている本物の戦争ですら、ただ男性への刺激のための出来レースをしているに過ぎない。
この未来社会は時代が進んだ分、完成されており……21世紀において世界終末時計などで持ち出されていた全ての人類破滅要因はとっくの昔に排除されていて、俺が思いつく限りの悪行を実行出来たとしても、この社会には何一つとして致命的打撃を与えられないのだ。
後は、俺の中のSF的知識を総動員して思いつく地球を破壊する要因を並べると、スペースコロニーの墜落とか月落下とか隕石の衝突とかはあるのだが……
──スペースコロニー全ては、アクアマテリアル中心に形成されている。
勿論、コンクリートや色々な材質の鋼材なども用いられているのだが、地球の上空に落下したら大惨事を招くような危険物を配置するような筈もなく……落下事故が発生した際には自動的に分解し、アクアマテリアルを始め、大気摩擦で質量の大半が蒸発するように作られている……当たり前のようにそういう設計になっているのだ。
──月落下は、まず無理。
まぁ、考えてみれば当たり前の話であり、約7千京トンなんて訳の分からない単位を軌道から外すだけで、一体どんなエネルギーが必要になるのかって話である。
もしかすると頑張って核融合爆弾を月に数十万個ほど埋め込んで一気に爆発すれば可能かもしれないが……そんなものを用いるくらいなら素直に地球上で爆発させてしまえ、というだけの話である。
──隕石の衝突については……この論文か。
その論文は一目見ただけで脳みそがオーバーフローしてしまう系だったので詳しくは置いておくが、要するに地球に衝突するコースを辿る隕石に対し、成層圏の遥か上の宇宙空間において、仮想力場を数十枚張ることで隕石のコースを無理やり捻じ曲げるという技術である。
尤も、この論文に従って超高出力の仮想力場発生装置が開発され、計算上、それが宇宙空間に千機ほど設置が必要とされた段階で、衝突確率から考えて数百万年単位の災害にそこまで備えるかが問題となり……お蔵入りしたようだったが。
──まぁ、巨大隕石の落下はなぁ。
学校にテロリストよりも遥かに現実味がないので、置いておいて。
考えても考えても、サトミさんの仇を討つこと自体……彼女が死ぬことを容認する社会を変えようとすることすらどうしようもないという『現実』しか見えてこない。
「……要するに、何も出来やしないってことじゃないか」
つらつらと考えて出たのは結局のところそんな当たり前の結論であり……馬鹿の考え休むに似たりという言葉通りの結末を目の当たりにした俺は、大きな溜息を吐き出していた。
無力感、というほどのモノは湧き上がらない。
事実、世界そのものを思い通りに出来るなんて考える少年時代なんざ、俺はとっくに通り過ぎて、一介の人間に出来る範囲を心得てしまっている。
ただ一日を生きる……たったそれだけのことがどれだけ難しく、そして数えきれないほどの人間が暮らしている社会を変革しようとするのに、一体どれだけの労力が必要になるかも、だ。
──だからと言って、諦めて生きるのも面白くない。
多分、こうして忘れて生きていくのが普通なのだろうけれど……思い出してしまった今だけは、何とか彼女の仇くらいは……
そうして俺がもう一度
「……自殺薬の使用申請?」
そんな聞き慣れない単語に首を傾げた俺だったが、その申請の出どころがこの『自宅』内の同じ階層から……要するに自分の
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