12-9 ~ 都市間戦争その3 ~
「くそ、がっ!」
ジャケットの前を開いて胸元をちらりと見せるというのは、どうやら女性たちを煽る行為としては少しばかりやり過ぎだったらしい。
上空から迫って来た3人を撃ち落せば、既に10メートルあたりまで5人が迫って来ていて、それをビームマシンガンで斉射し撃ち斃すと、一機の自動車が眼前に迫ってきているのが目に入る。
「ちぃいいいっ!」
慌てて横合いに跳ぶことで車両の特攻そのものは回避したものの、その勢いによってバックパックと『電源』との間を繋ぐケーブルが外れてしまう。
飛び起きざまにビームマシンガンを構えはするものの……これを機と見たのか十数名の女性軍人が一丸となって走り込んできていた。
この崩れた態勢では、彼女たちを迎え撃てるかどうか……
「くそったれがぁあああああっ!」
俺は、そんな叫びを上げながら銃弾を放ち続けていたものの……心のどこかでは諦めがついていた。
とは言え、捕まって凌辱・解体に甘んじる訳ではなく、このまま俺の考えた策の第一派生形『ブービートラップ』……要するに「『電源』に直結させた爆弾を用い、餌である俺に寄って来た数十人の敵兵を道連れに自爆して散ってやろう」という、女性たちからするとご褒美を手にした瞬間に男性もろとも吹き飛んでしまう、邪悪極まりない作戦へと移行してしまうことへの諦め、ではあるが。
だからこそ俺は、女性たちを迎撃している最中、奥歯にある起爆スイッチを……VRだからこそ設定するだけで簡単に埋め込めたソレを、舌で確かめる。
──残機あるゲームなら、当たり前の戦術だよなぁ?
しかも俺はリポップ可能と来ているのだ。
なら出来るだけ敵を道連れにして華々しく散るのが漢の誉……って訳ではないけれど、ゲーム的に言えば自軍の犠牲すら出さずに敵を大量に葬り去り、相手の士気まで失墜させる合理的極まりない戦術である。
尤も、この作戦を押し通すのに
ちなみにここから逃げ出し、待ち伏せ地点へと敵を釣って滅殺するのが俺の策第二弾『釣り野伏』ではあるのだが、生憎と飛行ユニットを扱うためのセンスが俺には足りていなかった。
そして何より……
──自動車、ぶっ壊されたからなぁ。
女性たちに……しかも兵士をやっていて身体を鍛え上げている女性たちに、病み上がりからは脱したものの、身体的には少年でしかない俺が二つの足で走ったところで逃げきれる筈もない。
要するに、ここで爆散して果てるかレイプされるか……もしくはトロフィー代わりに犯罪被害に遭ってしまった某M君のように全身バラバラにされるとか、そういう未来しか俺には残されていないのだ。
──ただのレイプなら、別に構わないんだけどなぁ?
残念ながら俺の息子は役立たずのままであり……残念ながらそのトップシークレットは彼女たち別の都市の女性には知らされてはいないのだろうけれど、その所為で俺は彼女たちにレイプされてやることすら出来やしない。
だからこそ、死ぬほど痛いのは分かっていてもここで出来るだけ敵兵を引き連れておいて、自爆することが……
「ひゃっはぁああああああ、一番乗りぃいいいいいっ!」
「しまっ……」
そうしている間にも、俺の放つ銃弾の嵐を抜けてきた黒髪褐色肌の女性が俺目掛けてタックルを仕掛け、馬乗りになってくる。
しかも馬乗りになった瞬間にビームマシンガンを弾き飛ばし、コンマ一秒後に両腕を抑え込んで反撃すら出来ないようにする辺り、彼女は本当に訓練され尽くした軍人なのだろう。
「さぁ、捕まえたぁ。
いい声で鳴いてくれよぉ、坊やぁ」
「……ああ、とびっきり熱いのをお見舞いしてやるから、期待してくれ」
いよいよ、もう終わりだと悟った俺は、そんな捨て台詞を残してニヤリと笑い、奥歯に力を入れようとした……その時だった。
「んべっ?」
突如としてその褐色肌の軍人さんの頭蓋が吹き飛び、飛び散った肉片や脳漿に加え、首筋の静脈から噴き出した鮮血によって俺は真っ赤に染め上げられる。
何が起こったかは……いちいち聞くまでもないだろう。
俺の目の前で、左右からの銃撃によって、数メートルの距離まで迫っていたレイプ目的の後続……敵の女性兵士たちが次々と斃されて言っているのだから。
『市長、遅くなり申し訳ありませんっ。
全軍、配置につきましたっ』
『あなたっ、命令違反の罰は、後程っ!
一匹も逃がすなっ、追撃をかけるっ!』
──アルノー……いや、リリスか。
俺が敵の目を引きつけ、自爆して果てるか逃げて釣り野伏を仕掛けようと企んでいたのは彼女たちも理解していたのだが。
どうやら自動車がぶっ壊された時点で俺に自爆しか選択肢がなくなったのを悟り、作戦と知りつつも男に自爆させることを容認できなかった彼女たちは、命令違反によるお叱りを覚悟した上で、俺を中心とした半円の包囲網を築き上げていたらしい。
結果として、俺の絶体絶命のタイミングで……いや、戦術的に言うならば餌に最大限誘因した最も効率的なタイミングで一斉攻撃を開始した、という訳だ。
当たり前の話ではあるが、性欲剥きだしで獲物に飛びかかっていた……仮想障壁も服も武器すらも捨てようとしたそのタイミングで思わぬ反撃を食らってしまえば、如何な鍛え上げられた軍人と言えど冷静さを保てる筈もない。
元々が烏合の衆だったところに、源平の富士川の戦い……鳥の羽ばたく音に驚いて逃げ回った平家の軍勢の如く、慌てふためいて真っ当な反撃すら叶わぬ有様。
しかもアルノーの指揮によって我が軍は秩序立って追撃を開始したものだから、逃げるところを次から次へと打ち取られて行くばかり。
「……勝ったな」
そもそも先ほどまでの間に、俺一人で150近いキルスコアを上げているのだ。
この一斉射撃で200~300くらいの敵兵士が消えると考えると、既に戦力差は3:1という有様になってしまう計算となる。
そこまでの差が出来てしまうと、多少の練度の差があろうが戦術戦略で若干の後れを取ろうが数の暴力で押し切れるだろう。
付け加えるならば、相手は完全に浮足立っていて立て直すのにもそれなりの時間が必要なのだが、我が未来の
何しろこの戦いは『女性兵士の全滅』こそが勝利条件なのだから。
「あ~、くそ。
気持ち悪いったら」
そうして勝利が確定してしまえば、気になるのは冷えて来た返り血の冷たさと鉄臭さであり……俺はそう大きく溜息を吐き出す。
とは言え、コレは現実ではなくVRでしかなく、直後に
「……さて、と」
そうして着替えを終えた俺は、じわじわと発砲音と悲鳴とが遠ざかっていく中、一人戦場に取り残されたまま、今後どう動こうか決めかねていた。
本来ならば大将首が一人戦場に残されるなんて論外であり、警護官が周囲を固めるところであろうが、生憎と今は我が軍は全力で最前線に向かって追撃をかけており……『ご褒美』目当てでキルスコアを稼ぎに向かったレイヴン共ばかりか警護官までもが、完全に目の色を変えているようだった。
そして、我が
そもそも、『ブービートラップ』と『釣り野伏』の餌という役割が終わった俺がその後どう動くかなんて考えてもいなかったこともり、俺は都市間戦争の最中であるにもかかわらず、「どうするかを悩む」という、非常に間の抜けた状況に陥ってしまったのである。
『勿論、私たちは見張ってますよ』
『ええ、いつでも安心安全の警護官』
『……ぶっちゃけ、視覚データを送るしかやることがない』
そんな俺にかけられたのは上空で飛んでいるだろう三姉妹警護官の声で……アイツらはこの都市間戦争が終わった後に「一緒にゲームをやる」という特別枠の報酬を用意している所為か、落ち着いたものである。
『ところで、ご褒美、何に使う?』
『エロい……のは怒られるから、普通に遊べるヤツを』
『……好感度上がるヤツ』
そうして、やることのなかった俺が、三姉妹とチャンネルを合わせたまま要らぬ駄弁りを続けること15分ほど。
『市長っ、敵の大将を発見しましたっ!
このまま押し込みますっ!』
アルノーのそんな報告が入って来て……どうやらこの戦いの趨勢は、俺が推測した通りの形で完全に決したようだった。
「……ああ、俺も向かう。
さて、ダメ押しに向かいますかね」
後は数的有利を生かしてすり潰すだけなのだから、このまま駄弁っていても勝てるのは間違いないだろうけれど……総大将としては最後の見せ場くらい、この目で見ないと面白くない。
俺は筆頭警護官にそう返事を返すと……近くに転がってあった壊れていない自動車を接収すると、
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