第六章 「猫耳テロリスト編」
6-1 ~ 輸送機 ~
「……ぉお、すっげぇリアル……」
自室の天井に映し出された青空の片隅からじわじわと大きくなっていく機影……軍用の輸送機らしき飛行物体がこちらへと突っ込んできている映像を見た俺は、思わずそう呟いていた。
事実、天井を透過して映し出した筈の青空は透き通るように青く、とても映像とは思えない……少なくとも俺の記憶にある限りではこれほど遠い青空は肉眼でしか見たことないほどの、実物そのものだった。
だけど、先ほどまで色々と移り変わっていた天井の存在が……そして、じわじわと近づいてきている視界のコンマ数%を占める「黒煙を噴き上げながら突っ込んでくる軍用輸送機」というあり得ないその存在こそが、頭上の光景を「ただの映像」と判断する材料となっていたのだ。
──あ~、少子化対策の一環か?
──生命の危機を覚えると本能が云々とかいう……
呆然とその光景を見入っていた所為か、さほど優秀でもない筈の俺の知性はこの状況について、ある程度の合理性を持っているだろうそんな回答を自然と導き出していた。
と言うよりも、この「あり得ない光景」を目の当たりにした俺の理性が、何とかして答えを導き出そうとしたというのが実情に一番近いのだろう。
そうして俺が「未来の人類も楽ばっかりじゃなくて涙ぐましい努力をしているんだなぁ」と肩を軽く竦めた……その瞬間だった。
「~~~っ、あなたっ、伏せてくださいっ!」
そんな悲鳴にも近い叫びと共に、横合いから柔らかい物体が俺へと追突してきて……俺は思わず尻餅をついてしまう。
たかが十代前半の少女の体重すらも受け止められない自分の脆弱さを実感しつつ、身体に走った衝撃と少女の必死極まったような声を聴いて、ようやく俺は一つの事実に思い当たる。
──まさか……
──コレ……現実、なのか?
俺の身体に覆いかぶさる少女の体温と震えを感じつつ、そして自分に向かって軍用輸送機が迫っているというあり得ない事態に呆然と空を見上げながら、俺は今更ながらにその『命の危機が目前に迫っている』という非現実的を現実だと認識し始める。
とは言え、俺がこの光景を映像と思い込んでしまったのも仕方のないことだろう。
記憶は今一つ定かではなくとも、俺自身は平和な時代に生まれ育ったという確信があり……そして、ほんの数分前までは、山奥やら宇宙空間やら深海、更には人通り溢れる大都会のど真ん中の光景までもをリアル極まりない画質で目の当たりにしていたのだから。
そうして俺がようやく自分たちの都市目掛けて軍用輸送機が突撃して来ている……恐らくはテロか何かによる人為的な悪意によって、自分の身に危機が迫っている現実を理解し、身体を硬直させてしまった……まさにその時だった。
「……っ、ぅおっ」
突如として視界の左淵が真紅に輝いたかと思うと、頭上の輸送機の右翼側でその真紅の光が爆発し、輸送機そのものが明らかに横へとブレたのだ。
直後、黄色い光線が輝きながら輸送機の右翼部へと突き刺さり、その金属製の装甲を融解させながら切り飛ばす。
それらの通常ではあり得ない光の乱舞が、恐らく下からの……倒れたまま放置していた警護官三人娘の迎撃だろうとようやく思い当たったことで、俺は安堵の溜息を吐き出すだけの余裕が生まれていた。
──ったく、一体どこのバカだ。
──こんなテロなんざ起こすヤツは……
その余裕が要らぬ思考を呼んだ所為、だろうか?
俺がそう疑問を抱いた、その思考に追従するかのようにそろそろ視界の半分を占めようという巨大な軍用輸送機の……まさにその操縦席が、頭上の仮想モニターに拡大されて映りこんでしまう。
「……ぁ」
そうして進んだ科学技術によって拡大された所為で、はっきりとその輸送機を操縦していた女性……恐らく二十代前半かそれよりも若いだろうと思われる、作業服姿でヘルメットを被っていて顔も分からない女性と、俺の視線が絡み合った気がした。
いや、それは気のせいでしかない、だろう……少なくとも俺からは兎も角、彼女からこちら側は見えていなかった筈なのだから。
とは言え、それも一瞬のことだった。
「……ぅぐっ?」
俺と彼女との視線がかち合ったまさにその瞬間。
彼女の身体は一瞬で赤黒い液体へと変化し、操縦席の風防へと張り付いてしまい……その光景を仮想モニタによって至近距離で目の当たりにしてしまった俺は思わず吐き気を催しそう呻いてしまう。
尤も、それは彼女が血の塊に変化した所為ではなく、この自宅の頭上に貼ってあるという『最新鋭の仮想障壁』とやらに輸送機が突っ込んだ所為だったのだが。
未来の
──イヤなものを見てしまった……
自分が目の当たりにした光景を理解した俺は、思わずそう呻いて視線を逸らし……不意に、仮想モニタの隅っこにある赤い点滅している文字に気付く。
それは明らかに緊急を示す文字であり……俺は思わずその文字へと注意を向けていた。
そうして視界の隅に映し出された文字に意識を向けることこそが、その緊急通話回線を繋げる行為だったのだろう。
「良かった、市長。
ようやく繋がりましたっ!」
そうしてそんな焦りと安堵とが混じった声と共に緊急回線によって映し出されたのは、金属によって作られた骸骨型の顔……俺が雇った五名の警護官の一人であるアルノーその人だったのだ。
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