第29話 魔(法少)女モモ、魔物と戦う

 杖を選び始めてから一時間。

 遂にモモに合う杖を購入した。

 素材は最初の杖と同じ、高齢魔石樹と欅。芯の魔石樹を私が魔法で削り、新しく欅で包み込んだ一品だ。


 お店には“本物の杖”として作り方を教えたので、半額に割り引いてもらった。申し訳ないね。


「んふふ〜、えへへ〜」


「ご機嫌だね〜」


「だっておかあさんと一緒だもん!」


 何この子......可愛い! 永遠に抱きしめちゃう!

 とまぁ、溺愛に溺愛しているモモを肩車した私は、路地裏から城門近くまで転移した。


 このペースだと帰る頃には真っ暗なのでね。

 ちょっとだけズルしちゃった。てへ!



「「ごはんを持って〜 しゅっぱ〜つだ〜 勇気を力にこ〜め〜て〜 希望の光をみ〜せつ〜けろ〜!」」



 森に入るまで、モモと歌いながら歩いて行く。

 私の歌声を聞いた鳥たちが背後で群れを成している。

 本来は突進してくるスライムも、ぷるぷる震えて踊っている。


 そんなに綺麗なのかな、私の声。


「さぁ、ここからは杖を持って。重たいと思うけど、頑張ってね」


 肩車していたモモを降ろし、杖を渡した。


「へ〜き! キャンお姉ちゃんの剣より軽いもん!」


「......それはそう。よし、行くぞ〜!」


「おー!!」


 流石キャンサー、仕事が早い。

 きっと、杖を持たせるなら重い物になるとリブラに吹き込まれ、少し前から力を付けさせていたに違いない。

 いや......リブラじゃなくてミーの可能性もあるな。


 何しろ、先読みが上手い子たちだ。素晴らしい。


「ゴブリンが来るよ。どの魔法を使う?」


「え? ん〜と、え〜と......」


『ギャギャ!!』


 モモが詠唱に詰まっていると、ゴブリンが現れた。

 今回は素手ゴブリンなので脅威じゃないけど、モモが焦るには十分な相手だ。


 私はただ、見守っていよう。危なくなったら介入するけどね。


「風よ、わが力となり......吹きとばせ!」


 杖の先に緑色の魔法陣が現れ、突風を巻き起こした。

 七歳にしてはかなりの高威力だ。だけど、この詠唱ではただ吹き飛ばしただけ。


 ゴブリンの命を奪うには、まだ足りない。


「炎よ、わが力となり槍となれ!」


『ギャァ!!!!』


 八級の火魔法を唱えると、ゴブリンは炭となった。

 が、火力が強すぎるせいで、周囲の草木まで焼き焦がしている。


「──癒せ、光の根源。モモ、よく頑張ったね」


「......おかあさん、モモ、怖かった。ゴブリンさん、すごい怒ってた」


 やり切った。しかし、モモの顔には確かな恐怖があった。それは戦闘という、命の奪い合いの参加料だ。

 正しい“恐怖”を手に、前に進もう。


「命がかかってるからね。いい? 狩人は、常に命の奪い合いなの。今のは素手が相手だったから勝てたけど、もし剣を持っていたらどうなっていたと思う?」


「......モモが死んじゃう」


「そうだね。運が良かった。それは間違い無いよ」


 相手が狼であっても、モモは負けていただろう。

 最初に接敵した魔物がゴブリンで良かった。

 良い経験を積ませてあげられたと思う。


 私はモモを抱きしめ、言葉で導く。


「もっと魔法が使えるようになれば、運なんて関係無しにモモは勝てる。大丈夫、モモはできるよ。失敗してもいいから、一歩ずつ頑張ろう?」


「うん。魔法のおべんきょう、頑張る」


「よしよし。それじゃあオークとの戦いは、一回目は見ていてね。二回目はお母さんと一緒に戦おう」


「うん!」


 ここからはお母さんではなく、魔女の私をご覧あれ。

 世界最強で最っ高に可愛い魔女の戦い、学ぶことは多いよ?


 森を歩いて十分。遂にオークが現れた。


 分厚く黒い皮膚に覆われた、豚の巨人。

 皮は防具になり、肉は栄養豊富な魔物だが、討伐推奨ランクは七級だ。


 つまり、一人前の狩人でないと倒せない。



「よ〜く見ててね。──暴風よ、我が力となり穿て」



 杖の先端に現れた魔法陣は、翡翠。

 可視化する風の槍が飛翔し、オークの胸を貫いた。

 一撃で心臓を破壊したため、オークはそのまま後ろに倒れ込んだ。


「すごい......すごい! おかあさん!」


「ふっふっふ。これでも魔女だからね」


「モモも魔女になる〜!」


「あはは、じゃあモモは魔法少女だね。大丈夫。『法』と『少』が無くなったら魔女だから!」


「魔法少女......うん!」


 ああぁぁぁ可愛いぃ!!!

 天使だ。この子は天使だよ! 癒しの女神だッ!!

 お母さん、モモの為ならフリッフリの魔法少女コスチューム作るからね。アリエスが既に作ってそうだけど、お母さんも作るからね。


 ふぅ......撫でた時の狐耳が当たる感覚も癒しだ。

 うん、将来は傾国の美女になること間違いない。

 可愛くて強い、最強の存在になるだろう。




「炎よ、わが力となり槍となれ!」


 モモの魔法が炸裂し、オークの肌を焼く。


「もう一度!」


「炎よ、わが力となり槍となれ!」


 一撃目でできた傷に再度炎の槍が撃ち込まれ、圧倒的な火力で止血してしまった。

 こうなるとオークは暴れ出すので、私は杖をひょいっと振り、オークの足に漆黒の鎖を巻き付けた。


「今ならやれるよ! 五級!」


「はい! 水の素よ、われをにえとして刃となれ!」


 大量の魔力を注ぎ込まれた水の刃は、オークの傷口のみならず、首筋にも大きな傷をつけ、その命を奪うことに成功した。


 素晴らしい。ちゃんと五級が使えている。

 詠唱自体はまだブレるけど、イメージと魔力量は完璧だね。

 どんどん知識も吸収していくし、この先が楽しみだ。


「やったー! モモが倒したよ!」


「見てたよ。本当に凄かった。流石モモ!」


「えへへ〜、モモ、魔法少女だもん!」


 自信が付いたようで何より。

 魔法に必要なのは、魔力・詠唱・精神・想像の四つだからね。

 最も重要な『精神』を身に付けられたなら、後は鍛えれば何とかなる。


 モモの倒したオークを解体し、脊髄を採取した。


 良い仕事ぶりだった。狩人の道も歩めるだろう。

 娘の将来を想像しながら、初戦闘で疲れた我が子を背負ってギルドに戻った。


 笑顔でオークの脊髄を納品すると、何と銀貨三十枚も報酬で貰えてしまった。


「たっか......そりゃ狩人が集まるワケだ」


「ここだけの話、私もどうして高く買い取っているか分からないんです。他国の防衛面も危うくなりますし、怖いですよね」


「早いうちに値段が戻るといいですね......」


 受付嬢さんとしみじみ共感し、今日の狩りを終えた。

 宿に戻ってモモを寝かせると、キャンサーとリブラからお叱りを受けた。


 曰く、「スライムから慣れさせろ」とのこと。

 いやそっちなんかい! と突っ込まずには居られなかったが、事実、二人の言う通りだった。


 まずは最下級の魔物から慣らせないと、モモの価値観がズレてしまうからね。

 嫌だよ私。モモが無自覚系最強娘になるの。

 ゴブリンは怖い。オークは強い。一般の認識を持っていないと、悪目立ちするのは自分だからね。


 しっかりと反省した私は、モモと一緒に横になった。

 桃色の髪を撫で、同じ体勢で眠りにつく。



 夕飯どきに起こしてもらえるので、もう少し一緒に居ようね。

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