第6話 専属魔女
「それで、
早起きしてドブ掃除してお昼ご飯を喫茶リヴァロで食べていると、昨日の四級狩人が私の前に座って詰問を始めた。
テレサさんの手料理を唾で汚されたくないので、私は一言。
「誰ですか? 人の食事中に無遠慮に相席し、知ったところでどうしようもない質問をする人に誰が答えると?」
全然一言ではなかった。
一応だけど、眷族のことは秘密にしている。
もし彼女たちの主だとバレたら、色んな国が利用しようとするからね。だから眷族たちはギルドにも所属させず、流浪の狩人として魔物狩りをさせている。
私の血を分けた、最っ強で最っ高に可愛い魔力生命体。それが眷族。通称──
私は全ての魔法を創った魔法の祖。頑張って設定した階級魔法も、本来とは違う意味で伝わっていき、現代では威力の階級を指す言葉になっている。
そんなことを目の前の人間が知ったところでどうしようもないので、私は黙々とパスタとグラタン、硬いパンにスープを頂いている。
「た、食べ過ぎじゃないか?」
「失礼な人。マナーもなってない人はさっさと出て行ってください。私はこのあと用事があるので」
そう告げたタイミングで、店のドアが開いた。
薬草採取の帰りなのか、泥だらけになったノアだ。私を見つけると、すぐに駆け寄ってきたが、正面に居る四級狩人にビックリしていた。
「ネーシスちゃん! 私、初めてジオ様見ちゃった!」
「様付けするほどじゃないよ? この人、すっごくマナーなってないから。普通、断りもなく目の前に座る?」
「す、座らない」
「でしょ? だから様付けはやめといた方がいいよ」
「うん。じゃあ、ジオさんだ!」
なんて明るい性格なの、この子は!
天真爛漫という言葉がピッタリね。最早ノアのためにある言葉なんじゃないかしら?
微笑ましい気持ちで食後のコーヒーを頂いていると、ノアが私の横に座った。
「それではネーシス先生! 今日の魔法講座をお願いします!」
「うむ、お願いされた。今日は正しい九級の魔法を授けましょう。まず、基本詠唱の型は覚えているかな?」
「はい先生! 五素の水、我が力となって......です!」
「その通り。五素とは属性のことで、前半詠唱をしたタイミングで各属性の色が魔法陣に浮かび上がります。ノアは水属性が得意だから、濃い青だね」
試しに前半詠唱だけしてもらうと、絵の具を溶かしたような青い陣が現れた。効能指定をしていないので陣の中が空回りしているが、これはこれで綺麗な魔法陣だ。
ノアの才能は、ドブ掃除にピッタリだね!
「ネーシスちゃんはどんな色なの?」
「特別に見せてあげる。五素の水」
「......黒?」
「というよりは、かなり濃い藍色。
先生たるもの、その実力差は実感してもらわないと。
他の各属性の色を見せても、同様に黒に近い色となった。ただ一つ例外なのは、光属性だ。
炎・水・風・土は基本四属性だが、光は違う。
「光は色ではなく、明るさに出ます。なので私は、本当に威力を下げないと自分で自分の目を潰してしまうのです」
「先生......大変だね」
「まだやらかしたのは二十回くらいだから、へーきへーき」
「それは大丈夫じゃないよね!?」
本当の話だけど、笑えるくらいが丁度いい。
そして光属性は明かりの他にも、治癒の効果がある。しかし肉体に対する深い理解が求められるので、正しく治癒魔法として使える人間はかなり少ない。
私の眷族では、リブラが光属性に特化しているため、彼女の治癒は死以外を治すことが出来る。私もだけど。
「話を戻すよ。それじゃあ九級とは、どれくらいの威力ですか? ノア君」
「はい! バッシャーン! ズバーン! です!」
「擬音語会話は未習得なので、海岸の波程度と捉えていいですか?」
「はい! そう言いたかったんです!」
うむうむ。じっくり表現を学べばいいのだよ、十五の少女よ。ワシのような何歳かも忘れたオバァには、新しい知識が付かんのじゃ。
って、誰がオバァじゃ! こちとらピチピチじゃい!
「波程度......じゃあ、私が使ったらどうなると思う?」
「どうって、同じくらいじゃないの?」
「ううん。だってドブ掃除の魔法って、十二級だからね。ノアの十二級と比べて、威力とか諸々がどう変わるかな?」
「う〜ん......もしかして、個人差がある?」
「そう! その通り! 一言に九級と階級を付けても、個人差が大きく出る場合がある。それが答え」
私の物差しで作った階級だから、他の人には大きく見える。だけど本人の目からすれば、十二級は本当に小さな力。この違いを理解してもらえないと、私が教えた魔法を使うことは出来ない。
如何に詠唱に合った魔力量で魔法を発動させるか。
正確に呪文を唱え、精神を研ぎ澄ませられるか。
魔法発動時の周囲の環境など、空間把握能力が高いか。
魔法使いには、小さなテクニックが数多く求められるものだ。
「それじゃあ本題の、九級魔法だね。まず階級っていうのは──」
「おい、完全に僕を空気扱いしてないか?」
なんか居たぁ!
まだ居座ってたのか四級狩人!
てっきりもう消えた者だと思ったのに、ノアの授業を邪魔するなぁ!
「今の話を聞いて思ったのだが、君はもしや、本当に強い魔法使いなんじゃないか?」
「そうですよ? 今更気づいたってもう遅いです」
「いや......階級を知りたくてな。あの色の魔法陣は、魔法学校でも見たことが無い。言いたくなければそれでいい。何級なんだ?」
四級さん、しおらしくなっちゃった。
そういえば私の階級ってどうなるんだろ? そもそもの階級魔法を創った本人だし、何かこう、『特級』みたいな扱いかな。
......私が魔法を創ったこと知ってる人、生きてる?
「その“階級”ってどこで判断されるんですか?」
「ネーシスちゃん、魔法学校の認定試験受けたことないの? 一番簡単に階級を出してくれるよ」
「階級自体は、使える魔法の階級による。僕は魔法使いとしては八級だ。そこのレディは?」
「私は九級です! ネーシスちゃんは?」
「全部! 何でも使えるでござる」
「......嘘くさいな」
ふふん、と胸を張って言ってみたものの、やはり嘘だと思われていた。私に対する信頼、もしかしてゼロ?
使えるものは使えるのだから、他に何と言えばいいのか。馬鹿正直に真実を言っても変わらないと思うし、ここは魔法学校とやらに話を変えよう。
「で、その魔法学校はどこにあるの?」
「それがね......王都まで行かなきゃなんだよね」
「馬車で一週間だ。ここは辺境だからな、時間もかかる上に危険度も高い」
「仕方ないですねぇ、なけなしのお金で行ってきますよ。それでいいですか? 四級狩人さん」
「んなっ! 僕にはジオという立派な名前がある!」
「はいはい。結果をお楽しみに〜」
ひらひらと手を振ると、今度こそ四級狩人ジオは去った。残った時間を授業に使おうと思ったけど、数人の狩人が入店したためにお開きに。
「ネーシスちゃん、殆どここの食費で使ってると思うけど、大丈夫?」
「任せて。素材買い取りで一発ぶち当てるから」
「心配だな〜。あ、いらっしゃいませ!」
今回の外出は、意外にも長期間になりそう。
家が恋しい気持ちもあるけど、何よりもこの数週間が楽しかった。新しい友達に、新しい概念。素晴らしい出会いと悲しい別れ。
私が願った世界は、きっと、この世界なんだ。
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