43 乱入
「お疲れ様です! ホント凄かったです! この世界を壊そうとするクソどもをバッタバッタと! マジ尊敬してます!」
「おう。応援ありがとな」
ボス部屋の出入り口を守っていた部隊を全滅させた後。
ウルフは魔族パーティーと共に体を休めながら、キラキラとした目で自分を見てくる少女から称賛を受けていた。
彼女はフォックス・カンパニーの裏職員、社長の本当の意向を知っていて、ゲームクリア妨害のために動く死の商人の一人。
要するに、ミャーコの本当の同僚だ。
今回の作戦に動員されたのはミャーコだけでなく、あと数人ほど紛れていたのである。
最初からミャーコの近くにいて、蹂躙が始まってからも彼女の脇を固めて動かなかったので、巻き添えにならずに済んだ。
「じゃ、ボク達は予定通り、セラフィさん達が必死に逃してくれたって設定で帰還するよ」
「おう。気をつけて帰れよ」
「気をつけてはこっちのセリフ。……ウルフ、死なないでね」
「……ああ。必ず生きて成し遂げる。だから、心配すんな」
ウルフは安心させるように笑いながら、けれど瞳には強い意志を宿らせて、ミャーコの肩をポンッと叩いた。
まるで戦いに行く勇者と、それを見送るヒロインのようだ。
見た目は完全に百合だし、勇者じゃなくて魔族だし、色々と間違っているような、そうでもないような……。
けれど、一つだけ確かなのは、たとえ悪党だろうと、二人の間にある絆の感情も本物だということ。
そんな二人を見て、裏職員や魔族パーティーの仲間達が、とても生温かい好奇の視線を向けていたのだが、残念ながら二人の世界に入っているミャーコとウルフは気づかなかった。
「さ、もう行け」
「うん。外で待ってるからね」
「おう!」
ミャーコが去っていく。
裏職員達と、僅かに残った傭兵NPCを連れて。
あの戦力なら、大迷宮の入口まで戻るくらい楽勝だろう。
「お前ら、準備はできたか?」
「ええ。さっきの戦いのダメージも疲労も回復しましたよ」
「右に同じく」
「使役獣と傭兵NPCの回復も完了した。やられたのが捨て駒の召喚獣ばかりだったのは幸いだな」
「むしろ、ウルフは大丈夫なの?」
「問題ねぇよ。『マリンクリスタルの盾』を使い潰したおかげで、大して痛くもなかったしな」
そんなことを言うウルフだが、実際のところ最初の魔法弾幕でHPが三割くらい消し飛んでいたし、盾越しの衝撃でも相当痛かった。
しかし、彼にとってあの程度は『痛くない』の範疇だ。
消し飛んだHPも自動回復によって全快したし、準備は万端。
「さて、━━行くか」
「「「「了解」」」」
ウルフの言葉に全員が戦意を高める。
そして、彼らはボス部屋の扉へと近づいた。
接近する者を感知して、ギィィィと、扉が独りでに開いていく。
「『ダークネスレイ』」
開幕速攻。
まずはご挨拶とばかりに『闇妖精』の魔法が扉の中に向けて放たれる。
闇のレーザービームが攻略組に迫り、ボスと戦わずに待機していた連中に止められた。
まあ、最初はこんなものだろう。
既にボスとの戦いで満身創痍だったりしないかなと少し期待していたが、さすがは久遠の仇敵ども。
ヌルゲーで楽勝とはいかないようだ。
「きゅーい」
「ブルルル……!」
「ゴッ。ゴッ」
「ギョギョ!」
「━━━」
「「「カァアアーーー!」」」
「「「ワォオオオオン!」」」
「「「キィィィ!」」」
「「「ぁぁぁ……」」」
『闇妖精』の魔法に続いて、『吸血公』のモンスター達がボス部屋の中へと踏み入っていく。
使役獣の何体か、武器を持てる姿をしている者は、『鬼姫』の魔族固有スキル『鬼刃』によって生み出された武器によって武装している。
魔族パーティーが解散してからの二年で、『吸血公』はそれぞれの武器をちゃんと最大限まで鍛え上げた。
今のあれらは、トッププレイヤー達の武器をも凌駕するだろう。
「行くぞ、オードリー」
「はい。兄さん」
そんなモンスター達に続いて、魔族パーティーもボス部屋へと入っていく。
魚の尾ビレが付いた馬『ケルピー』に乗った兄妹が、モンスター達を指揮するように彼らの後ろへ。
「うふふ。二年ぶりの大戦。楽しみです」
「腕が鳴りますねぇ……!」
彼らの少し前、モンスター達を盾にできる位置に、『鬼姫』と『死神』が進み出る。
そして……。
「おーおー! やってんなぁ!」
最後にウルフがボス部屋に足を踏み入れる。
宝箱から手に入れた『紹介状』によって雇えるようになった、レベル45のならず者傭兵NPC20人を引き連れて。
「オレ達も交ぜてくれよ!」
ウルフは、ポセイドンの相手で忙しい仇敵達に笑いかけた。
ミャーコに笑いかけた時とは全然違う、獰猛な肉食獣のような顔で。
憎悪に燃える亡者のような目で。
「今日こそくたばれ! 攻略組ッッ!!」
そうして、魔族パーティーは、海の守護者との戦いに乱入した。
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