34 襲撃前
『ちょっとだけど、わかったよ。ドラゴンスレイヤーの動向。
今日のお昼から海の大迷宮に潜るみたい。
多分、そのまま彼らの到達階層、第七階層まで一気に潜ると思う』
「となると、今から引き返せば、ちょうどかち合いそうだな。
サンキュー、ミャーコ」
ドラゴンスレイヤーの情報を聞いてから数日後。
良い感じに、魔族パーティーとドラゴンスレイヤーが大迷宮内にいる時間が被った。
まあ、今までにも被ってる時間帯はあったのだろうが、1フロアだけでも直径10キロを越える広さの巨大迷宮の中で、探してもいない相手と遭遇するのは難しい。
特にウルフ達はカメ吉の機動力に任せて水路を進み、攻略組がまだ到達していない深部への最短距離を行っていたのだから。
ドラゴンスレイヤーは攻略組本隊ほどではないものの、最低限、徒党を組んだ魔族とやり合えるだけの数は揃えているそうだ。
全員をモンスターに乗せて水路を一気に渡るみたいな方法は使えない。
『……最終確認だけど、ホントにやるんだね?』
「おう。どうせいつかぶつかるなら、潰せそうな時に潰す」
本気で心配そうなミャーコに、ウルフはそう答えた。
大迷宮内で突出してしまったギルドなど、もう狙ってくださいと言っているようなものだろう。
向こうは大軍で移動速度が遅く、逆にこっちは水路を移動できるモンスターが複数いるから、いざという時の撤退も容易。
暴れるだけ暴れて、ちょっと危なくなったら、とっとと逃げる。
ゲリラ戦ってやつだ。
歴史が効果を証明しているほどに強力な戦術。
それを魔族が五人も揃った今の戦力でやる。
油断しているわけではないが、正直、ウルフには圧勝の未来しか見えなかった。
だからこそ、圧勝できる条件が整っている今のうちに攻めるべきだと考えた。
もう少しすれば、『鬼姫』と『死神』はここで効率的に上げられる上限であるレベル70に届く。
二人とは結構仲良くなれたと思うが、さすがに共通の目的を達成した後まで、ほぼ無償で力を貸してもらえるような関係ではない。
レベル70になったら二人は、いや『吸血公』と『闇妖精』も含めた四人は再び自由に生き、ボス戦の時か、もしくはまた何か旨みのある話が出た時に再集結。
そういう約束だ。
つまり、奴らを叩くなら今がベストタイミング。
ミャーコが渋る理由を聞いて、それでもウルフはここで戦うことを決めた。
『……わかったよ。確かに、ウルフの言う通りではある。
くれぐれも気をつけてね? 相手は何をしてくるかわからない集団なんだから』
「ああ。間違っても油断はしねぇから安心しろ。あの状態の人間の厄介さは、オレが一番よく知ってる」
そうして、ウルフはミャーコとの通信を終えた。
パーティーメンバー達に向き直り、今得た情報を告げる。
「聞いてたと思うが、獲物が上から来るそうだ。引き返して喰い殺すぞ」
「うふふ。了解です」
「そろそろ、モンスターではなく人を狩りたいと思っていた頃です。腕が鳴りますねぇ」
「お前ではないが、私達もこの世界にしがみつく身だ。力を貸そう」
「兄さんに感謝して」
嬉しそうに笑う『鬼姫』と『死神』。
相対的にかなりまともに見える『吸血公』に、相変わらずブラコン全開の『闇妖精』。
好き勝手に自分の道を行くことの多い魔族達が、大きなイベントでもないのに同じ方向を向いている、またとない機会。
実に頼もしい仲間達を見て、ウルフはニヤリと笑った。
「行くぞ! 竜殺し狩りだ!」
「なんだか語呂が悪いですね」
「殺しと狩りで、似たような単語が連続してますからねぇ」
「じゃあ、世界の敵をぶっ潰しに行くぞ!」
「口上など、どうでもいいわ」
「兄さん、カッコイイかけ声は大事」
「……お前が自分の意見を言ってくれるようになって嬉しいよ、オードリー」
「えへへ」
実に魔族らしい纏まりの無さ。
好き勝手なこと言って、好きに生きて、必要な時だけ協力し合う。
そんな関係に、ウルフはもはや安心感すら覚えた。
そうして、魔族パーティーは大亀に乗って上層へと向かっていった。
道を外れた者達の悪意が、ドラゴンスレイヤーに牙を剥く。
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