33 次の標的
「順調だなぁ! レベルも到達階層も、攻略組に結構差をつけたんじゃねぇか?」
「ボクは毎回、レベル上げに誘われる度に生きた心地がしないよ……。まあ、頭のネジが飛んでるだけで、根はそんなに悪い人達じゃないってことはわかったけどさ」
海の大迷宮の攻略開始から二ヶ月。
たまにレベル上げのためにミャーコを加えることも増えたウルフ達魔族パーティーは、カメ吉の尽力もあって、第十五階層にまで到達できるようになった。
そこまで行くと、ついに自分達の適正レベルの場所にまで来たようで、レベル上げがかなり捗る。
ウルフのレベルは70まで上がった。
そこで成長速度がガクッと落ちたので、また事実上のレベル上限にぶち当たってしまった感はあるが。
対して、攻略組のレベルは、情報が確かなら最高で60程度。
そんなんじゃ、パワーレベリングによってレベル61まで上げたミャーコにすら届かない。
まあ、戦闘経験が違いすぎるので、実際に戦ったらミャーコのボロ負けだろうが。
そもそも彼女のステータスはVIT(防御)とAGI(俊敏)に最優先でステータスポイントを振った生存&逃げ足特化なので、戦って勝つことは考慮されていない。
その代わり、罠にでも嵌められない限り、逃げるだけなら魔族パーティーからでも逃げられるだろう。
『索敵』『隠密』『危機感知』のスキルも高レベルだし。
それくらいミャーコの生存能力に自信があるからこそ、魔族パーティーに紹介したのだ。
いくら仲良しとはいえ、いくら『こいつだけは殺すな』と言っておきたかったとはいえ、殺人鬼に無策で弱点を曝け出すほどウルフはバカではない。
それはともかく。
「つーわけで、そろそろ攻略組にちょっかいかけたくなってきたぜ」
「うわ、悪い顔」
現在の拠点である、海の大迷宮から少し離れた洞窟にて。
レベル上げ帰りのウルフは、今日は泊まっていってくれるらしいミャーコの前でニヤリと笑った。
普通の子供のように振る舞う時とは全く違う、狂気を孕んだ殺戮者の顔で。
「攻略組は相変わらずか?」
「うん。相変わらず足並み揃えてチンタラやってるよ。
前回の団結した魔族が相当トラウマみたいだね」
現在の攻略組は、シャイニングアーツに合わせてるというか、すがってる感じで一塊になって動いている。
大扉を封鎖するといったような部隊を分ける作戦にも消極的らしい。
迷宮攻略は常に主力が揃った状態で、足の遅い大軍を強引に動かして、少しずつ少しずつ進んでいるそうだ。
それがまた、好都合とも厄介とも言えない。
時間をかけてくれるのは、その分人生を謳歌する時間が増えるし、他にも色々と好都合。
だが、攻略組の主力が揃っているところへ飛び込むのは、かなり危ない。
前回、ウルフは獣化まで使って、レベル50超えのトッププレイヤーがジャンヌとタロットしかいない集団と互角だった。
『刀神』と『傭兵王』が一緒にいた時は押された。
魔族は強いが無敵じゃない。
所詮は10レベル分の底上げとチートスキルがあるだけの存在だ。
討伐不能の化け物じゃないのだから、負ける時は負ける。
……だが。
「なぁ、ミャーコから見てどう思うよ? 今のオレ達なら、主力が揃ってる攻略組を潰せると思うか?」
「う〜ん……」
ウルフはミャーコにそう質問した。
スパイ活動の一環として、たまに『フォックス・カンパニー』の戦闘部隊として、攻略組と共に海の大迷宮に潜っているミャーコに。
今のウルフ達は強くなった。
レベル70のウルフに、レベル68の『鬼姫』と『死神』、レベル65の『吸血公』と『闇妖精』。
大迷宮深部にて、カメ吉より強いモンスターを一度に使役できる上限数まで揃えた。
対して、攻略組は安全を最優先してレベル上げが進んでいない。
これならば、ひょっとすると……。
ウルフがそう思うのも当然と言えた。
「……やっぱり、難しいと思うよ。今の攻略組って、敵を見つけた瞬間に百人単位で魔法の雨を叩き込むところから始めるから。
オードリーちゃんだけじゃ相殺できないし、カメ吉の耐久でも一瞬ですり潰される。
前の時みたいに、こっちもそれなりの数の魔法使いを揃えてからじゃないとキツいと思う」
「……そっかぁ」
ウルフは残念そうに耳をペタンとさせた。
ミャーコが反射的に頭を撫でてくる。
あわよくばと思ったが、やはりそう簡単にはいかないらしい。
今回は前と違って餌も無いし、前回の作戦失敗でウルフの求心力も下がっているから、大勢の外道達を釣り上げることもできない。
一応、魔族パーティーがお休みの日に、未だにウルフに好意的な外道達を集めてレベリングは行っているのだが、その数は50人足らず。
攻略組とぶつけるには心許ない。
「そうなると、奴らを叩くのは予定通りのタイミングにしとくのが無難か?」
「そうだねぇ」
今のところ考えているのは、やはり迷宮のボスと攻略組がぶつかっているところに乱入するプランだ。
大混戦になることが予想されるので、連れて行くのはボスの攻撃に巻き込まれても死なないだろう少数精鋭。
恐らくは、魔族パーティーでそのまま突撃することになるだろう。
メンバーの了承は取ってある。
『鬼姫』と『死神』はジェノサイドパーティーが大好きだし、『吸血公』と『闇妖精』はなんだかんだでウルフに優しいから。
とはいえ、それも確約というわけではなく、状況次第ではドタキャンになる可能性もあるが。
その場合に備えて、というより普通に戦力を増強するべく、ミャーコがフリーの魔族の勧誘を頑張っているが、そもそも、それができるなら前回の戦いの時に呼んでるわけで……。
中々上手くいかないものである。
「あ、でも……」
と、そこでミャーコが一つの追加情報を口にした。
「最近、攻略組の中で一つだけ、足並み揃えないで勝手に進軍し始めたギルドがあるんだ。
あんまりオススメはしないけど、そっちを狙ってみるのも手ではあると思う。オススメはしないけど」
「足並み揃えてないギルド?」
ミャーコが二回もオススメしないと言う連中。
そこはかとなく嫌な予感がするが、だからこそウルフは興味を持った。
そういう連中とも、いつかは必ずぶつかることになるのだ。
嫌な敵は潰せるタイミングで潰しておきたい。
「どんな奴らだ?」
「君も何度かぶつかったことのある、有名なギルドだよ」
そうして、ミャーコはそのギルドの名を告げた。
「シャイニングアーツと並ぶ、攻略組の双翼。
大手ギルド『ドラゴンスレイヤー』。
最強のプレイヤーの一人って呼ばれる『竜殺し』が率いるギルドだよ」
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