30 過剰戦力
「さて、ここからが本番だな」
「本当に、何事もなく第二階層に着きましたね……」
「なんだ? 疑ってたのか?」
「ええ、それはもちろん。ご不快でしたか?」
「んなわけねぇだろ。お前の判断は当然だよ」
『鬼姫』の言葉にサラッと答えるウルフ。
殺人鬼を警戒するのは当然と言い、確かに彼の方からも自分達への警戒心を感じる。
しかし、警戒心は感じ取れても、敵意や悪意は感じられない。
四人にとって、それがどうにも不思議な感覚だった。
「ギョギョ!」
「そら、来たぞ! 頼んだ、『闇妖精』!」
「命令しないで。『ダークボール』!」
「ギョギョ!?」
『闇妖精』の放った闇の弾丸によって、顔を出したミズナワジュウは瞬殺。
あれは威力が低い代わり消費も少ない最下級の魔法なので、視界に表示される『闇妖精』のMPは殆ど減っていない。
というか、『闇妖精』はMPが膨大すぎて、ホントにミリ単位で減ってるような気がしないでもないという程度の減り方だ。
実に頼りになる。
「今のが遠距離攻撃してくるモンスターですか」
「なるほど。確かに、レベル30程度なら、何発も食らえば致命傷になりそうだ」
「エドワードさん、テイムされてはいかがですか?」
「耐久力が低すぎる。乗り物にもならないほど小さいし、いらん」
『鬼姫』の提案を『吸血公』は却下した。
別に仲間になりたそうな目でこっちを見ていたわけではないが、ミズナワジュウは振られた。
「っていうか、お前って何体までテイムできるんだ?」
「11体だな。スキルレベル1の時に一体、そこからスキルレベルが5上がるごとに一体、使役できる数が増える」
『吸血公』は隠さずに答えた。
このくらいなら別にいい。
信用できない相手にでも、パーティーを組んだ以上は、最低限の情報共有が必要だ。
それに、このくらいはテイマーのことをちょっと真剣に調べれば、すぐに察しがつく。
「ホント、便利だよなぁそれ。オレも魔族になる前に覚えりゃ良かったぜ」
「その代わり、色々と制約も多いがな。支配者プレイを楽しみたいのでなければ、あまりオススメはしない」
じゃあ、お前は支配者プレイを楽しみたかったのかと、妹以外の全員が思った。
だが、それは性癖の深淵を覗く行為なので、全員が疑問を口にするのを自重した。
賢明な判断だろう。
「シャアアアアア!!」
「お、サメだ。あれはどうだ?」
「ふむ……。一人乗りならまだしも、五人で乗るのは無理だな。
テイムするのも楽ではないし、できれば五人を一度に運べるモンスターがいい」
「了解っと」
「シャ!?」
今回は第一階層では出くわさなかったメガシャークを、ウルフが右ストレートで仕留めた。
水中戦をせず、飛び跳ねて襲ってきたのが運の尽きだ。
足場のある場所で仕留めたおかげで、ドロップアイテムが普通に取れる位置に転がった。
「まあ、フカヒレですか?」
「みたいですねぇ。ゲームとはいえ、こんな高級食材は初めて見ました」
「オレもだ。こいつのドロップアイテムは牙ばっかりだったから、多分レアドロップだぜ」
ウルフはフカヒレを拾って喜んだ。
「なぁ、帰りにどっかの村の料理人NPCに渡して皆で食おうぜ!」
「いいですねぇ。フカヒレで一杯やりたいものです」
『死神』は高級料理の魅力にやられた。
仕方ないのだ。
現実世界にいた頃に憧れ、結局は一度も手が出なかった思い出があるのだから。
「うふふ。わたくしも構いませんよ」
「まあ、あえて断りはすまい」
「兄さんがいいなら」
二人が賛同したことで、残りのメンバーも乗ってきた。
なんか流れで打ち上げ的な会の開催が決まってしまった。
仲良しかよ。
「さあ、ガンガン行くぞ!」
魔族パーティーは大迷宮を突き進む。
遠距離攻撃担当がいるので、水の中からの一方的な攻撃に苦戦することもなく、第二階層のマップをガンガン埋めていった。
さすがに、ウルフが第一階層を突破した時のような豪運は続かず、第三階層への階段はまだ見つかっていないが、トップレベルの魔族が五人も集まっていれば、向かうところ敵無しだ。
誰一人として、掠り傷一つ負わない。
彼らの強さに見合う階層は、まだまだ先だろう。
「ジャアアアアアアア!!」
「お任せください」
メガシャークの進化系のような鱗を纏った大鮫が襲ってきて、一瞬で『鬼姫』の手でお刺し身に変えられた。
「「「ーーー!!」」」
「『ダークウェーブ』!!」
「手伝いましょう。『カースブレス』!」
「「「ーーー!?」」」
全方位からピラニーアの群れが襲ってきたこともあった。
片側を『闇妖精』の範囲魔法で全滅させ、もう片側は『死神』の放った赤黒い靄のような魔法で全滅した。
そして━━
「ボォオオオオオオオオ!!!」
随分と進んだ頃。
彼らの前に、見るからに強そうな一匹のモンスターが現れる。
ゴツゴツとした甲羅を持つ、大きな亀。
全長10メートルはある、全員で乗っても余裕で運べそうな大きさの亀。
「『吸血公』、こいつなら文句ねぇんじゃねぇか?」
「そうだな。強さは戦ってみなければわからないが、乗り物としては悪くなさそうだ」
「うっし! 決まりだな! やるぞ、お前ら!」
「協力プレイですか。いいですね」
「ハハハ。何やら、楽しくなってきましたよぉ」
「勘違いしないで。私は兄さんの手伝いをするだけ」
亀が口を開く。
その口の中には、吐き出してブレスになるのだろう水流が渦巻いていた。
ウルフが拳を構え、『鬼姫』が刀を抜き、『死神』が大鎌を担ぎ、『闇妖精』が杖を向け、『吸血公』が鞭を手に取る。
そうして、魔族パーティーVS亀の
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