第二章
27 海の大迷宮
色々あって投稿するか悩みましたが、せっかく書けた部分をお蔵入りさせるのもアレかなと思ったので放出します。
あんまり期待しないでね!
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「さて、行くか」
第一の大迷宮『海の大迷宮』への扉は開かれてしまった。
ワンチャン、大扉から鍵を引き抜けば閉まるんじゃないかと思ってダメ元で色々試してみたが、やっぱりダメだった。
大扉は不動のオブジェクトと化しており、どうにもならない。
鍵と違って、扉の開閉は不可逆のようだ。
もしかしたら、何かしら閉じる方法もあるのかもしれないが、現時点では見当もつかない。
ゲームクリアに向けた確実な一歩が刻まれてしまったことに途轍もない怒りと恐怖を覚えるが、なんとかそれを飲み干して、切り替えていくしかない。
今から、ウルフはその海の大迷宮へと挑む。
目的はレベル上げとアイテム集めとマッピングだ。
大迷宮と言うくらいだから、まず間違いなく今までよりも強いモンスターが出てくるだろう。
そいつらを倒して経験値にすれば、今の実質的なレベル限界を打ち破れる可能性が高い。
だったら、行くしかない。
リアルチートを持たないウルフにとって、レベルとは生命線だ。
上げられる時に上げられるだけ上げなければ、とてもじゃないがこの先の戦いを生き抜けない。
もう一つの理由であるアイテム集めは、前回の戦いで傭兵NPCを雇いまくったせいで底を突きかけている資金の確保。
及び、ルナールへの賄賂のためだ。
できれば先に宝箱の中身とかの目ぼしいアイテムを取り尽くして、あわよくば攻略組の取り分を大いに減らしてやろうとも目論んでいる。
そして、最後の理由であるマッピング。
これは海の大迷宮の攻略終盤、攻略組との再びの決戦の時を想定した備えである。
今までであれば、攻略組が迷宮を攻略した直後の疲弊した状態を外で待ち伏せていた。
迷宮は攻略されると消えるし、ミャーコやルナールを始めとした協力者達が、どこの迷宮がどれくらい攻略されていて、いつ頃ボス戦が行われるのかという情報を流しまくっていたため、外での出待ちが一番効果的だったのだ。
当時は魔族同盟も組めていなかったので、動員できる戦力は弱いパシリ達ばかり。
その弱いパシリ達を守りながら迷宮の最奥まで行ってボス戦に乱入するというのもキツかったし。
しかし、今回ばかりは少々話が違う。
『『海の大迷宮』を攻略することで『海の鍵』の入手、及び新エリアへの通行が可能となります』
気になったのは、海の大迷宮が解放された時に送られてきた、このシステムメッセージ。
海の大迷宮を攻略することにより、新エリアへの通行が可能となるという一文。
このゲームの全体マップは、三日月型の島を表示している。
島はカーブを描いた一本の川を境として、今まで自分達が活動してきた中心部と、まだ行くことのできない外輪部とに分かれている。
そして、海の大迷宮があるのは、島の中心部の最西端だ。
中心部と外輪部の間を流れる川の浅瀬に大扉がある。
海の大迷宮のくせに川にあるのは不思議だが、まあ大人の事情的な何かがあるのだろう。
それはともかくてして。
つまり、ウルフ達はこう考えたわけだ。
海の大迷宮を攻略すると、攻略した者達はそのまま外輪部の新エリアに出るのではないかと。
もしそうなら出待ち作戦が使えない。
奴らが一番疲弊したタイミングを叩くためには、こっちも海の大迷宮に潜って、ボスモンスターとの戦いの直後、あるいは戦闘中を狙う必要性が出てくる。
今回の戦場は今までの通常の迷宮ではなく、このゲームの重要ポイントである大迷宮だ。
そのくらいのギミックがあってもおかしくない。
思い過ごしの可能性もあるが、そうやって楽観視していた場合、万が一の時にタダで『海の鍵』を持っていかれてしまう。
それはダメだ。絶対にダメだ。
ならば、その可能性を潰すためにも、マッピングを進めるのは必要。
自力でボス部屋に辿り着けなければ、最適なタイミングでの奇襲も乱入もできないのだから。
ルナールから攻略組がマッピングした地図を横流ししてもらうというのも手だが、できれば奴らの知らないルートとかも開拓しておきたい。
その方が悪巧み的な意味でも、普通に攻略レースをする的な意味でも有利だ。
というわけで、以上三つの目的を達成するべく、ウルフは海の大迷宮に足を踏み入れた。
「なるほど。こんな感じか」
川の水に足首まで浸かりながら歩き、開け放たれた大扉を潜った先。
そこに広がっていたのは、海の底のような暗い雰囲気の空間だった。
足首までの深さの水も健在。水の下に床がある。
だが、その床も途切れ途切れになっていて、見た感じフロアの七割以上はただの水面だ。
あそこを泳いでいけたりすれば、かなりのショートカットができるかもしれない。
(泳ぐか? いや、まずは普通に行くか)
泳いでる最中にサメにでも襲われたら敵わない。
それは決して考えすぎなどではなく、むしろ、かなり可能性の高い未来だ。
別にウルフもカナヅチというわけではないし、水中エリアの敵に挑みかかったこともあるが、それでもまだ通常プレイ時代に見かけた『遊泳』というスキルすら獲得していないくらいに経験が浅い。
いきなりの水中戦はやめておくのが賢明だろう。
「お?」
その時、いきなり『索敵』のスキルに反応があった。
次の瞬間には『危機感知』のスキルも発動し、水面が跳ねて小さな影が飛び出してくる。
「ーーー!!」
それは、ピラニアだった。
ピラニアっぽいモンスターが、鋭い歯を剥き出しにしてウルフに飛びかかってきた。
頭上に表示される名前は『ピラニーア』。
ちょっと適当すぎやしないか、救世高徳。
ひょっとするとあの天才、ネーミングセンスだけは才能が無かったのかもしれない。
「よっ」
「ーーー!?」
飛びかかってくるピラニア改めピラニーアを、ウルフは拳で簡単に叩き潰した。
頭上に表示されているHPが一発でゼロになり、ピラニーアはデータの塵となって消えた。
ドロップアイテムである小さな牙が足下の水に落ち、ウルフに経験値が入ってくる。
『レベルアップ。殴殺ウルフがLv61からLv62になりました』
『ステータスポイントを入手しました』
「おお。やっぱり、たっぷり経験値が詰まってやがるな」
いきなりのレベルアップ。
前回の戦いでエセヒーローを始めとした連中を葬ったので、元々レベルアップ直前くらいには経験値が溜まっていたが、それでも今までのフィールドの敵であれば、もっと何体も倒す必要があっただろう。
それが、こんなザコ一匹倒しただけでレベルアップ。
(いや、別にザコってほどでもねぇか)
ウルフは心の中で、ピラニーアの評価を修正する。
確かに耐久こそ紙だったが、スピードはかなりのものだった。
『危機感知』のスキルだって反応していたし、最低でもレベル30はないと、首なりなんなり噛み千切られていたかもしれない。
レベル30といえば結構な数字だ。
痛みを恐れて温いレベリングしかしなければ、三年かけても到達できない領域。
町で雇える正規の傭兵NPCの最高レベルが35と考えれば、いかにピラニーアがやばかったかわかるだろう。
正規の傭兵より遥かに劣るならず者傭兵を連れてこなかったのは正解だったなとウルフは思った。
まあ、連れてこなかったというより、金欠で雇えなかっただけなのだが。
ミャーコに金を借りれば雇えただろうが、そんなヒモのような真似はしたくなかった。
「よっしゃ! ガンガン行くぜ!」
足下の牙をアイテムストレージに収納し、ウルフはヒモにならないためにもと気合いを入れて、先へ進んでいった。
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