第2話
どれくらい経っただろう
何時間にも、はたまた数秒にも感じる時間を経て、涼を与えてくれた床は熱をおびていた
少し外に出てみようか
なぜそう思ったのか、自分でも分からないがそう思ったのだ
温度という生きた実感を与えてくれた床に別れを告げ、着の身着のままに扉に手をかける
1週間ぶりに吸う外の空気は、夏の蒸し暑さがすこし和らいでいた
当てもなく歩をすすめ、吸い込まれるように公園のベンチに身体を預ける
さっきの男たちに見つかったらどうなるか
ボコボコにされる?
それでは彼らの仕事が終わらない
拉致されて何処かに売られる?
買い手がない不良債権は彼らもごめんだろう
臓器を抜き取られて海に沈められるか?
そうすれば彼らも仕事を完遂でき、どこかの誰かが救われる
最後にみんなを幸せにできるなら、それも悪くないとさえ思った
死んだらどうなるのだろうか
今流行りの転生で、金持ちイケメンにならないだろうか、国を救う勇者でもいい、あるいはその国を滅ぼす魔王というのも面白い
不釣り合いな来世を夢見ていると、自分がどんどん惨めになる
何度も味わった惨めさを、気付くとまた自ら味わってしまう
まるで禁断の果実だ
「帰ろう」
そう呟くと、さっきまでいたアパートへと向かう
家賃も払っていないその部屋は、決して自分の部屋とは言えないのだろう
誰の部屋かわからない扉に手を伸ばし、鍵をかけ忘れたことに気づく
ガチャッ
えっ
見慣れた誰かの部屋に、見慣れない誰かが1人立っていた
暗闇の中からその誰かがゆっくりと近づいてくる
季節感のない帽子を目深に被り、マスクをした誰かの手には、街灯をギラリと跳ね返す何かが光っていた
おれはその光から目を離せなかった
怯えていたのか、いや、見惚れていたようにさえも思う
ゆっくりと近づくその光は、スローモーションで真っ直ぐとおれに向かってくる
ドンッ
鈍い音と共におれは膝を落とす
走り去る誰かを尻目に、ジワリと温まる自分の腹へ手をやる
不思議と痛みはなく、真っ赤に染まった手を見ても、おれはいつになく冷静だった
あぁ、死ぬのか
直感で分かる、助からない
何か肩の荷が降りたように、鎖が外れたように、床へと倒れ込む
変わらず束の間の涼を感じる
最後の晩餐何食べたっけ?
親はなんて思うかな?
誰かの部屋は事故物件になるな
冷静な思考とは裏腹に、息は上がり、心臓は必死に脈を刻む
あぁ、身体は生きたいのか
生にすがりつく身体に申し訳なさを感じる
もう少し生きてあげたかった
本気でそう思った
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