第23話 陽と陰

「俺、マジで優奈と付き合うのか……」


 昨日は気分が高揚しすぎて一睡もできなかった。


 あんなに綺麗な美少女と付き合うなんて……


 昨日のあれはひょっとして夢ではないかと疑いたくなるが、まごうことなき事実だ。


 彼女が向けてきた視線と胸の感触、香り、言葉、表情は俺の脳裏に強く刻まれたままだ。


 優奈は俺の彼女だ。


 手を繋いだり、スキンシップをしたり、キスをしたり、胸で癒してもらったり、最後は……


「なに考えてんだ。このアホ」

 

 優奈は辛い過去を持っている女の子だ。


 そんな彼女の実に恵まれた体を想像して興奮している自分が情けない。

 

 と、自分のほっぺたを軽く叩くと、携帯が鳴った。


「奈々か」


 俺はアインアプリを立ち上げる。


『奈々:昨日は熱かったかな?╰(*´︶`*)╯』


 俺は苦笑いを浮かべた。


『霧島司:奈々も来ればよかったのに』


 と返すと、早速返答が来た。


『奈々:これから司っちと優奈っちは色々忙しくなるからね〜私はもう用済みよ。もう二人は恋人なんだから、優奈を絶対幸せにしてあげてね〜ひひ』


「……」


 俺は違和感を感じた。


 奈々は優奈と楓さんをいっぱい助けて支えてくれた。


 なのに、用済みだなんて……


『霧島司:そんなことないよ。優奈と付き合ったとしても、奈々は優奈の大切な友達だし、俺にとってもとてもいい友達だから』


 と送ると20秒ほど沈黙が訪れる。


「俺、なんか変な内容送ったかな?ど、どうしよう」


 心配する俺。

 

 だが携帯はまた鳴ってくれた。


『奈々:その優しさは優奈に向けてやれよ!』


「奈々怒ってる?」


 と、俺がおどおどしていると、電話がかかってきた。


 優奈だ。


 すごいタイミングだな。


 俺は電話に出た。


「優奈、おはよう」

『司くん、大好き』

「……」


 ストレートすぎて苦笑いが出てしまった。


「俺もだよ。んで朝早くからどうした?」

『司くんの声が聞きたいから電話したの』

「そうか。俺も優奈の声が聞けて嬉しいよ」

『ふふ……やっぱり司くんの声聞くとめっちゃいい……ねえ、司も私に電話して全然いいよ。私、司くんと電話できるなら講義中にも抜け出すよ。他の友達との約束も全部キャンセルできる』

「い、いや……そこまでする必要はないと思うけどな……あはは……」


 謎の迫力を感じさせる彼女の言葉に俺は冷や汗が出た。


 うん。


 こういう時は別の話題を出せばいいか。


「あ、そういえば、奈々から連絡きた」

『奈々から?』

「うん。なんか俺たちが付き合ったことで気を使っている感じがして、気にするなって言っておいたけどな」

『ふふ、司くんは恋人の私以外の女の子にも

「っ!!」


 彼女の低い声に一瞬鳥肌が立った。

 

 恋人に他の女の子の話をしたのがダメだったのか。


 俺、童貞だからしくじってしまったか。


 俺がおどおどしていると、優奈が優しい声で俺を諭すようにいう。


『司くん』

「は、はい!」

『奈々には。むしろしてほしい」

「え?」

『あの子、いつも小悪魔っぽく振る舞っているけど、根は優しくてとても繊細な子だからね。私とお姉さんの恩人なの。だから奈々が気を使うのは絶対いや。奈々は自由奔放なところがいいから』


 今の話で優奈が奈々をどれほど大切にしているのかがよくわかった。

 

 奈々の内面を知らないと絶対言えない言葉だと思う。


 まるで俺と悠生、大志の関係を思わせるから微笑ましい。


「ああ。わかった。これからも三人で楽しく遊ぼうな」

『そうね。その方がまだ

「つ、都合?」

『司くん』

「な、なに?」

『嬉しい。ちゃんと私以外の女の子と連絡したの言ってくれて。隠したりしないんだね』

「別に隠す理由ないだろ?」

『え?』

「俺、駆け引きとか嘘つくこととか苦手だからな。後ろめたいことなんかしたくないし、優奈には隠し事とかしたくない」

『っ!!しゅき……』

「ん?」

『だいしゅき』

「ゆ、優奈?」

『やば……今はちょっと無理だから、また後で連絡していい?』

「おう……いつでもどうぞ」


 優奈は電話を切った。

 

 ちょっと心配ではあるが、彼女を信じるとしようではないか。


 そう思って、俺は朝ごはんを適当に済ませて大学へ向かった。


 また優奈の家でほくほくご飯が食べたい。


X X X


ラブホテル


ゆみside


 ラブホテルの一室のベッドの上には裸姿の男女がいる。


 司が務めるメイドカフェの看板娘であるゆみと30代と思しきイケメン男。


 昨日は実に激しく交わったため、男はなかなか起こらない。


 ゆみは寝ている男のスマホを手に取り、男の指を利用してロックを解除する。


 写真アプリをタッチすると、そこには若い妻と赤ちゃんの実に幸せそうな姿が写っていた。

 

「本当に男ってキモいんだよな。妻と赤ちゃんがいるのに私に惚れ込んでお酒飲ませてエッチなことしたがるから。別に私に惚れるんは間違ってないけど、一線を堂々と越えるならなんで結婚したんだよって話。本当、キモい。死ね。最初からこんなこと求めるなら結婚なんかするなよ。人間クズが。なんで結婚なんかしてんの?まあ、私が仕向けた感はあるけど」


 と呟いて、裸姿のゆみは男のスマホをまたいじる。


 すると、連絡先ずらりと表示され、ゆみの目に留まったのは


『愛するワイフ』

 

 妻の電話番号だった。


「ふふふ、でも、そんなクズを潰すのがたまらなく好きなんだよね」


 と言ってゆみは男の携帯で自分達の姿を撮り始める。

 

 そして自分の顔にモザイクをかけて、その数々の写真と自分が昨日録音したファイルを男の妻に送る。


「さようなら」


 ゆみは着替えてラブホテルから出た。


「これで、何十人目だろう……」


 ゆみは朝日を浴びて気持ちよさそうに伸びをした。


 彼女は携帯を取り出しアインアプリを立ち上げる。


 すると、そこには数えきれない男たちから届いたメッセージでいっぱいだった。


「男って本当に例外なくクズだよな」


 と呟いて歩くゆみ。


 そんな彼女にある男の存在が脳裏をよぎる。


「司……」


 彼女は悔しそうに唇を噛み締めた。


「背伸びした陰キャの癖に……君も所詮クズだよ。調子こいて私の誘いを拒絶した罰を与えないとね。ちょっといじってあげようかな」

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