第24話 親友

数日後


 優奈の愛が重い……


 本当に重い。


 離れているときは電話やアインで、一緒にいるときは過度なスキンシップ。


 俺のプライバシーはなくなりつつある。


 彼女は俺の全てを知ろうとしていた。


 悠生と大志のこと、俺の家の住所、バイト先、学生時代のこと、なくなった両親のことなどなど……


 もちろん、彼女も自分のことをちゃんと話してくれた。


 つまり、自分のことは秘密だけど、あなたのことは教えてみたいなスタンスではなく、


 互いの信頼が深まる会話を繰り返す。

 

 優奈という女の子の存在が、俺の心に根差すような感覚。


 やがて俺の心が優奈という存在によって締め付けられ戻れなくなるのではと鳥肌がたつ。


「……」


 学食を食べていつもの穴場のベンチに座っている俺と悠生と大志。


「僕、田島さんと付き合うことになったんだよな」

「え?まじか?」


 悠生が自慢するように言った。


 高校時代は学年一位ではあったが、ガリ勉で恋愛に興味なさそうな悠生に彼女か。


 しかも相手は、この前の合コンに参加した金髪の優しい美少女。

 

 悠生は満足げに腕を組んでうんうんと頷いている。


 すると、アニオタのぽっちゃり大志がメガネを光らせて口を開く。


「悠生くんもいよいよリア充ですかい。アニオタの道は入るのは自由だけど出る時はそうでないと相場が決まっているけど、悠生は遠くへ行っちゃうのか」


 言葉だけ聞くと、そねましい感情が見え隠れするように見えるが、大志の表情はやわらかしい。


「大志、何を言っているだ。君が布教したアニオタ教は魂レベルで俺に浸透したんだぞ。今更変わるわけないだろ?」

「本当?合コン前はイケメンに声かけられて浮かれてたくせに」

 

 大志はにまっと笑って悠生の腰を突く。


「いや〜それはなだ……若気の至りというやつだよ。もうイケメンなんかくっそ食らえだ!fxxk you!ハンサムボーイ!」


 と言ってベロを出す。


 俺は苦笑いを浮かべて言う。


「悠生、お前高校時代からなんも変わってねーな。イメチェンしても中身はそのままじゃんかよ」

「あったり前だろ?イケメンたちって、女のこととなると俺たち陰キャを格下だと見下して、上から目線なんだよな。女の子と親しく接するの見ていて本当イライラする。でも、前回の合コンだと、俺の勝利だな!桐生というものすごい美人の子は司に興味津々だし!」


 うん……


 そろそろ言ってもいいタイミングだろう。


 俺はしれっと言う。


「そうだな。俺、優奈と付き合っているし」


「「なあああにいいいい!?!?!?!?」」

 

 二人は目を丸くして驚く。


 てか、悠生の時より反応がすごいんだけど……


 と思って、悠生の顔を見ると、口角が吊り上がっている。


 それから、急にイケメンっぽくポーズをとり、口を開いた。


「俺、実は中学の時から空手やったんだよね、僕は柔道学んでたから」


 俺はつい吹いてしまった。


「ぷっ!それ、優奈が自分が好きな人は自分を守ってくれる人と言った時に言ってたよな。あのイケメン二人」


 俺がいうと、大志がメガネのフレームをいじってから訊ねる。


「そんなシチュエーションあった?下心見え見えじゃん。うわあ……この俺が聞いても気持ち悪い」


 と大志は巨大な体を竦めて顰めっ面を作る。


 すると、悠生がクスッと笑いながら言う。


「本当にそれな。あいつらは司が桐生さんを救ったことも知らないんだろうな。なのに、司に見下すような態度とって、なんとか桐生さんと付き合おうと必死だったな」


 意気込んでいる悠生。


 大志はそんな彼の背中と俺の背中を叩いたのち、拳を突き上げた。


「陰キャたちの叛逆だあああああ!!!!!既存の秩序を徹底的にぶち壊せ!!!!これぞポストヒューマン!!!!!」


 俺と悠生は大志に倣い、片手をあげて、叫ぶ。


「「おおおお!!!」」


 悠生と大志はとても喜びながら俺と優奈を祝ってくれた。


 本当にいい奴らだ。


 悠生も大志も幸せになって欲しい。


 気持ちのいい昼間の日差しが俺たちを優しく差し込み、心の灯火を照らすような気がした。


X X X


メイドカフェ


「オーダー入りました!!」

「はい!」


 優奈と付き合っても、二人に祝福されても、俺は働かなければならない。


 両親が残した遺産と、護身用商品販売サイトの持分からの配当金があるが、やはり出費も多いから、自分の生活費は自分で稼がないといけない。


 心を無にして働いていたらもう終わりの時間だ。


 もう22時か。

 

 なので、俺は着替えてから休憩室に行くと、


「みんなお疲れ!」


 イキイキしているゆみさんがいた。


 このメイドカフェの看板娘で元気溢れる姿はお客だけでなく、スタッフたちも笑顔にする。


 男スタッフに囲まれたゆみさん。

 

 俺はこっそり抜けようとするが、不幸にも目があってしまった。


「あ、司くんもお疲れ!!」

「は、はい……お疲れ様です」

「司くん」

「はい?」


 メイド姿のゆみさんは、俺をじっと見つめる。


 すると、休憩室に静寂が流れた。


 男性スタッフたちはなんぞやと俺とゆみさんを交互に見つめる。


「司くんのアインアカウント教えてくんない?」

「俺のアインアカウントですか?」

「そう。司くんのだけわからなくて」

「あ、そういうことでしたら……」


 俺はオドオドしながらゆみさんのところへ近づき、QRコードでアカウントを交換した。


 周りの男性スタッフめっちゃ睨んでる。


「あとでするね!」

「は、はい……んじゃ俺はお先に」

「ふふ、またね」


 俺はさっさとメイドカフェを背に家に向かった。


 明日は土曜日だ。


 やっと休日だな。


 これで二日間ごろごろできるわけだ。


 と、俺が安堵のため息をついたら、携帯が鳴った。


 俺は携帯を取り出した。


 優奈からの電話か。


「もしもし」

『司くんに会いたい。いっぱい司くんと話がしたい』

「明日会おうよ」

『……司くんの家にいっちゃだめ?』

「俺の家?まあ、いいけど、なんもないよ。俺一人だけだし」

『いいの……明日は司くんの家で司くんとずっと一緒……ずっと』

「いいよ」

『奈々も連れて行ってもいい?』

「全然いいよ」


 二人きりだと絶対危ないからな。


 重い愛を向け続ける女優顔負けの俺の彼女と家デート。


 いくら俺でも理性が崩壊する。


 奈々の存在はとても大事だ。


『それじゃ、また明日!』

「おう。また明日な!」


優奈side


 電話を切って喜ぶ優奈。


 だけど、やがて顔を顰めて悔しそうに唇を噛み締める。


 理由は二つ。


 バイトで疲れている彼に労いの言葉をかけられず、自分の気持ちだけをぶつけてしまったこと。


 そして、自分の格好良くて優しい彼氏がメイドカフェで働く女性たちに見られることによる不安。


 だが優奈は我慢して奈々に電話をかけた。


『優奈っち?どうした?夜分遅くに』

「奈々、明日、司くんの家に遊びに行かない?」

『私……そ、その……用事があるというか〜あははは、私忙しいんだよね〜』


 明らかに気を使う奈々。


 優奈は自分の本音を奈々にぶつける。


「奈々、気を使わなくていいの。私、と考え、全然変わってないから」

『優奈っち……』

「奈々が絶対必要よ。もし明日、私一人で司くんの家に行ったら、絶対孕む。司くんがそれを望むなら私はいいけど、今の状況だと司くん絶対壊れる」

『……わかった。優奈っちはもともとそういう子だったもんね』

「奈々も人のこと言える立場じゃないでしょ?」

『ふふ、もし司っちが優奈のこういうところを知ったらどう思うんだろう』

「……わからない。でも司くんに嫌われたら……私……生きる意味がなくなる」

『大丈夫。きっとうまくいくから。司くんはちょっと苦労すると思うけどね』

「ありがとう」

『じゃ……また明日』

「うん。また明日」




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