第14話 メイド
翌日の朝
目が覚めた。
信じられなかった。
昨日の出来事はまるで夢を見ているようであった。
昔助けた女の子と再会したのもそうだが、その女の子が、話をかけるのも申し訳なくなるほどの美貌を持つ美少女であること。
そして、優奈の姉はかの有名な映画女優である柊楓であること。
「夢かな」
誰もいない俺の部屋を見ていると、自然と全てのことが嘘で、自分の妄想によるストーリーではないのだろうか。
ふとそんな気がして胸騒ぎがしてきた。
実際あの二人の姉妹は手の届かないところにいる存在だ。
それに、
自分の心を蝕むこの謎すぎる感情は相変わらず存在する。
そう。
これが現実だとしても、俺が優奈と楓さんと親しい仲になることはあり得ないことだ。
早とちりして恥をかくのはモテない男の性だ。
まあ、俺は早とちりをしようがしまいが、ずっとモテない男だが。
だって、今まで一度も彼女なんかできたことないし。
一つ確かなのは、優奈は辛い過去があるから、トラウマを掘り起こすような言動を見せてはダメだ。
そもそも、彼女といつ会えるかもわからない。
彼女は間違いなく人気者だ。
俺以外でも相手してくれる男は数えきれないほど多いはずだ。
もう忘れよう。
今日はバイトだ。
そう思ってベッドから降りるとスマホが鳴った。
『優奈』
「っ!」
俺は驚いて早速スマホのロックを解除した。
『おはよう!今日は土曜日だけど、何する予定?』
絵文字とか顔文字とかなく、要点だけのメッセージに俺は固唾を飲んで返事をした。
『おはよよ。今日はバイト』
と送ると1秒も経たないうちに返事がきた。
『どんなバイト?』
「返事早……」
俺はまたびっくりしたが、すぐ返した。
『メイド喫茶のキッチンで働いているよ』
と、返したらしばし沈黙が続いた。
30秒ほどが過ぎるとやっと返事がきた。
『メイド喫茶って綺麗で可愛い女の子多いから、脇目振らずに仕事頑張ってね!』
綺麗な女の子か。
まあ、確かにあそこにメイド服を着た綺麗で可愛い女の子が多いのは事実だ。
だが、外見に関しては優奈の方が圧倒的にレベルは高い。
バイト先のメイドは手に届くような距離(それでも届かない)にいる存在だとしたら、優奈はまるで別次元にいるような、そんな感じだ。
別に、見ても減るもんじゃないし、見たとしても俺に彼女ができるわけでもない。
『仕事頑張る!』
と、俺は返事をしてキッチンに行ってお湯を沸かしてカップラーメンを食べる。
優奈side
優奈は相当焦っている。
早く司のことが知りたくて、早朝メッセージを送った。
優奈が男に対してアインアプリでプライベートな話をするのは初めてた。
彼がバイトをしているのは昨日の会話から推測できる。
だが、そのバイト先というのが
「メイド喫茶……」
心が締め付けられるように痛い。
あそこで司は働いている。
可愛いメイドたちと一緒に働いている。
胸のところが少しはだけた寝巻き姿の優奈はベッドで横になっているまま、自分の左の方の巨大なマシュマロを細い右手で鷲掴みにして身震いする。
「私、余計なこと言っちゃったかも……」
優奈は左手でスマホを握り、司とのやりとりを見てみる。
『メイド喫茶って綺麗で可愛い女の子多いから、脇目振らずに仕事頑張ってね!』
なんでこんなことを書いちゃったんだろう。
メイドカフェと聞いた途端に、メイドたちとくっついてたりエッチなことをしている司の姿が真っ先に思い浮かんだ。
司は見た目自体は普通の男子高校生でオシャレすればいい感じにはなれると思う。
だが、
もしメイドたちが司の良いところを知ってしまえば、放っておくはずがない。
自分の心をこんなにも狂わせた男だ。
だから、つい自分の身の程弁えずに彼女面してあんなメッセージを書いてしまった。
「重い女だと思われちゃう……」
不安そうに呟いて、胸を握っている手にもっと力を入れる優奈。
おかげで優奈の細い指が胸に食い込む。
「そう……私、重い女だわ……他の男なんかどうでもいいけど、司に対してだけは……」
毎日のように思う。
司と一緒にいたい。
依存したい。頭撫でられたい。手繋ぎたい。司の匂い嗅ぎたい。司に抱きしめられたい。司の体温を感じたい。添い寝したい。付き合いたい。体触られたい……
あとは……
「っ!!!!」
優奈は息を弾ませてスマホをいじり始める。
『メイド服』
とググったらメイド服の通販サイトやら、コスプレモデルやらがいっぱい出てきた。
「……私も」
優奈は通販サイトに入って、メイド服のうち良さそうなものを選んでは、数着購入する。
買い物を終えた優奈は、悔しそうに唇を噛み締めて握り拳を作る。
優奈は今まで一度も見たことのない司のバイト先のメイドたちに凄まじい嫉妬をしている。
彼女は男問題で女に嫉妬したのは、これが初めてた。
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