第13話 良い子
司が去っていく姿を二人の美人姉妹は法悦に浸かったように頬を緩めながら見つめている。
二人の青色の瞳にはいつもより色彩が減っており、上気したした顔を隠すことなく微笑んでいる。
だが、優奈はさっきの司の言葉を思い出して目を細める。
「お姉さん」
「何?」
「司はバイトもして友達とも遊んだりするって言ってたけど、バイト仲間とか友達の中に女がいる可能性もあるよね?」
「……そうかもね」
「……」
優奈は悔しそうに握り拳を作り歯軋りする。
まるで親の仇を思い出すように表情は殺気立っている。
今からも追いかけて自分の素直な気持ちを打ち明けるべきだ。
そして、司を自分のドス黒い坩堝の中に閉じ込めて、自分は司にずっと依存したい。
早く手を打たないと他の女たちが掻っ攫ってしまう。
そんなのは死んでもごめんだ。
「どうしよう……」
焦る気持ちを落ち着かせることもできずにソワソワしていると、楓が優奈を後ろから抱きしめて慰める。
「優奈。落ち着いて」
「お姉さん……」
「司は逃げないわ」
「本当?」
「ええ。だって、私たちと同じ目をしていたから……」
「同じ目……」
「中に入って司のこと、いっぱい話そう」
「……うん」
二人の美人姉妹は家の中に入った。
今日は楓がご飯を作る番で、見るからにプリンのような弾力のありそうなオムレツを作ってくれた。
スプーンでつついたらぷるんぷるんと揺れそうなオムレツとおかずを食べる優奈の表情は相変わらず暗い。
せっかく玄関まで来てくれたのに、一緒に食べていけばよかったのに……
食べて行く。
『行く』はいらない。
食事を終えて優奈が皿洗いを終えたら楓がお茶を入れてくれた。
なので、美人姉妹は食後のティータイムを楽しむ。
おっとりとした感じの楓は口を開いた。
「良い子ね。司」
「うん。めっちゃいい……」
「優奈がなんであれほど拘っているのかその理由が、今日初めて司を見てよくわかったわ」
「……」
優奈は照れくさいのか、体をモジモジしながら紅茶を一口飲む。
「司に今会いたい。一緒にいたい……ずっと……」
だんだんと興奮状態になりながら息を弾ませる優奈。
だが、楓が待ったをかけた。
「まだダメよ。いくら優奈が綺麗だとしても、物事には順序があるの。それを守らないと全てが台無しになるわ。それは絶対あってはならないことよ」
「順序……どういう?」
「それはね……」
一旦切って、お茶の入ったコップに口をつける楓。
口を離した瞬間、唾液とお茶が混ざった粘っこい液体が糸を引いて口とコップを繋いだ。
「優奈と司が実際にあったのはこれで3回目よ。だから、これからいっぱい話し合ってお互いがどういう女で男なのか知らないといけないの」
「……そうね。まだ私は司のことあまりよく知らない……好きなものとか、趣味とか、好みの料理とか……」
優奈が悔しそうに呟くと、楓は大人の余裕を見せながら、また口を開く。
「あと、司の気持ちを優先しないとね。その上で、優奈の気持ちをアピールしていけばいいの」
「私の気持ち……」
優奈は自分の巨大な胸をぎゅっと抑えて、さらに息切れする。
そんな自分の妹に、楓は妖艶な表情で言葉を発する。
「今すぐにでも、司に依存したい……365日ずっと司に守られたい……司のものになりたい……」
色っぽい声で自分の本当の気持ちを代弁してくれる姉を見て優奈は頭に電気でも走っているのか、びくんと上半身を仰け反らせた。
「っ!!」
すかさず、楓は続ける。
「あとは、優奈が……私たちが司の全てを受け止めてあげればいいの」
「受け止める……どういう風に?」
期待に満ちた眼差しを向ける自分の妹を見て楓は
蕩け切った表情を浮かべ、右手で自分の実に巨大な胸を鷲掴みにした。
大きなマシュマロが楓の細い手を完全に飲み込んだ頃に、楓は熱い息を吐いて答える。
「それは、想像にお任せするわ」
「っ!!!!!!!!」
姉の返事を聞いた時、急に体が痙攣し出した。
足先から頭に至るまで、謎の電気によって刺激を受けるが、特に
お腹が非常に熱くなっている。
「お、お姉さんは司くんのことどう思う?」
「ふふ、言ったじゃない。とっっっっっても良い子だって」
「……お姉さん、私トイレ行ってくる……」
「あら、イってらっしゃい」
と、優奈はとっくに真っ赤になった頭を隠すことも忘れてタタタっとトイレへと走っていく。
その様子を見て、楓は嬉しそうに立ち上がり、ソファーのサイドテーブルのところへ向かい、リモコンを操作してテレビをつけた。
そして録画しておいた番組を流す。
『あら、そんなに美味しいの?』
『んぐ』
『かわいいね』
この番組は育児をテーマに制作されたもので、テレビには、とあるお母さんが自分の産んだ赤ちゃんに母乳を飲ませる場面が流れていた。
ソファーに座っている楓はその場面を見て頬をピンク色に染めては、急に足を閉じたり開いたり擦ったりを繰り返す。
「はあ……」
ただ単に、赤ちゃんがお母さんの乳を飲む場面のはずなのに、楓はさっき妹に見せた冷静な面持ちではなく、息を激しく吸って吐くはしたない女性になっていた。
「良い子ね」
追記
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