第6話 優奈は守られている


 驚いて後ろを振り向くと、


 そこには


 優奈がいた。


「桐生さん!?」

「はあ……はあ……はあ……」


 今日の優奈はまるで女王様のように振る舞って時々色っぽい姿を見せたが、今の優奈は息を激しく切らしていて、切羽詰まっている様子だった。


 彼女は俺の右肩を掴んでいる手に途轍もない力を入れてきた。


 このままだと絶対傷がついてしまう。


 俺が顔を歪ませながら彼女を見ると、彼女がその綺麗な青色の瞳を潤ませながら口を開いた。


「なんで知らないふりするの?あの時、私を助けてくれたでしょ?2年前!」

「……うん。そうだね」

「なのになんで帰るのよ!?」

「それは……それより、肩……痛い」

「……私、なんてことを……ごめん。本当にごめん……許して……許してください……」


 優奈は俺の肩のようを見てすぐ手を離してくれた。


 彼女は恐怖を感じているのか、急に体を震えさせる。


「いいよ。気にしなくていいから」

「……」

 

 すると、優奈は安堵したようにため息を吐いたのち、切ない表情を俺に向けてきた。


 いや、本当に綺麗すぎて正直に言って直視できないんだけど……

 

 彼女は目を潤ませてから口を開ける。


「司くん」

「は、はい」


 急に名前で呼ばれて敬語で返してしまった。


「私に連絡先を教えてくれる?教えてあげるから」

「う、うん」


 俺は早速携帯を取り出して優奈に渡した。すると、優奈も自分のスマホを俺に渡す。


 気のせいかもしれないが、優奈が居酒屋でいじっていたスマホとは違う気がしてきた。まあ、あくまで気のせいだろう。


 俺が打ち終わって優奈の方を見ていると、優奈は相変わらず忙しなく俺の携帯をいじっていた。


 やがて携帯をもらった俺がそれをポケットに入れると、優奈が急に至近距離にまで迫ってきて、俺をじっと見つめてきた。


 まるで獅子が草食動物を狩る時に見せる視線を向けたものだから俺は圧倒されてしまった。


「っ!!」

「ねえ、司くん」

「な、なに?」

「司くんは私から電話とかアインメッセージが来ても、ちゃんと出たり返事してくれるよね?」

「あ、ああ……」

「無視しないよね?ブロックしないよね?私のアインのアカウントとか電話番号とか削除しないよね?機種変して電話番号変えたりしないよね?」

「しないよ……そんなの!」

「っ!!!!」

 

 優奈の笑顔を見た俺は鳥肌がたった。


 彼女の美しすぎる彫刻のような顔を近くで見れているせいかもしれない。


 だけど、今の彼女が見せる言動は俺に未知の恐怖を与えている気がしてならなかった。

 

 そして、俺の心のどこかに存在する何かを強く刺激するようでもある。


 これ以上、彼女の瞳を見てしまったら飲み込まれてしまいそうだ。


 気が狂ってしまいそうだ。


 なので、俺は後ずさって口を開く。


「……俺は電車で帰るからな。桐生さんは大丈夫?」

「私?」

「ああ。夜遅いし」

「心配……してくれるの?」

「……」

「……」


 2年前の悲劇もあることだし、俺が頷くと優奈は急にモジモジし始め、高そうなバックを撫で撫でしながら、恥ずかしそうに口を開いた。


「私は大丈夫。私、ずっと

「そ、それは良かったな」

「うん。本当によかったよ」

「それじゃ、またな」

「うん。ね」

 

 名状し難い感情を押し殺して俺は手を振りながら足を動かした。


X X X

 

優奈side


 司の姿が消えたことを確認した優奈は体を小刻みに震えさせる。


「ああ……司、イっちゃった……でも、これ以上迷惑かけちゃだめだから、は」

 

 そう言って自分のブランドバックを再び撫で始める。


 すると、隣を歩いていたナンパ男たちのグループが近づいてきた。


「やっべ……めっちゃ可愛いんだけど?どうする?」

「いやいや、あれはだめだろ。綺麗すぎて逆に怖いって」

「話しかけるのに金はかかんないだろ。ほら見てみろ、顔は小さくて綺麗すぎるのに胸大きいし足長いし……髪さえ黒に染めれば完全に柊楓なんだぜ……」


 ナンパ男3人が優奈に近づいた。


「おい、お嬢ちゃん!俺たちと遊ばない〜」

「いいこと教えてやるよ!」

「ほらほら、美味しいものいっぱい奢ってやるから!」


 優奈はというと、3人の言葉なんか気にする風もなくブランドバックをずっと撫で撫でする。


 そして、バックの中から何かを取り出した。


 それは


 スタンガンだった。


「はあ……司…………ずっと司が私を守ってくれたの」


 とろけた顔で彼女はスタンガンのボタンを押した。


 すると、パチパチと音がする。


「ひいっ!!」

「や、やべ!逃げろ!」

「ほら!やっぱりダメだって言ったろ!」


 逃げる3人の存在に全く気づいてない優奈はスタンガンをバックにしまい、携帯を取り出した。


 そして素早く誰かに電話をかける。


 3回目のコールが終わる前に誰かが電話に出た。


『もしもし』

「お姉さん」

『優奈、どうだった?』

「私……嬉しすぎて……本当に……嬉しすぎて……」

『やっと出会えたね』

「うん……間違いない」

『私も、会いたいわ……







追記



次回は優奈がメインの回です


(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾

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