第5話 イケメンズと引き立て役。だが、

「優奈っち!どうした?」

「……なんでもないわ」


 赤髪の童顔の女の子の問いかけに優奈はクールな女王さまのような感じで答えてから自分の席に座る。


 位置的には俺、イケメン1、イケメン2、悠生。


 向かいは面倒くさがりな青い髪の強そうな女の子、優奈、赤髪の童顔、金髪の女の子。


 まあ、これからこの合コンがどのような様子を呈するのかは火をみるより明らかだ。

 

 俺たちは簡単に自己紹介を始めた。


 ちなみに優奈の苗字は桐生だった。


 二人のイケメンたちは性格こそ違うが言葉も上手でこの場を盛り上げてくれた。


 時々悠生が話したり、俺は話題を振られたら一番無難な返事をしてこの場の雰囲気を壊さないようにした。


 要するに、俺の横にいる二人のイケメンがメインで、俺と悠生は完全に引き立て役だというわけだ。


 それもそのはず。


 イケメン二人は女の子を扱うスキルに長けている。


 どんなことを話せば笑ってもらえるか、どんなタイミングで休めばいいのか、あの二人は知り尽くしているように思える。

 

 レベルの違いを思い知らされた。


 ちょっと悔しい気持ちもあったが、桐生優奈が無事だということを知り心が落ち着く。


 本当によかった。


 あの頃の優奈は絶望に塗れた表情をしたが、今は女王様のようなオーラを漂わせている。


 まあ、これから俺がする必要はないだろう。


 彼女は非常に綺麗な女の子だ。


 現に、イケメン二人がめっちゃ狙っている。


 鈍感な俺でもよくわかるくらいにイケメン二人は必死だった。


 俺はここにある酒とおつまみを飲みながら腹を満たそう。


 そう思っていると、急に話題が変わり、赤髪の童顔の子が目を小悪魔っぽく目を細めて口を開いた。


「てかさ、みんなは理想のタイプなに?」


 赤髪の童顔の子の質問にそれぞれ答えを言う。


 女子陣に至っては「背が高い人(青い髪の子)」、「優しい人(金髪の子)」、「面白い人(赤髪の童顔)」と言い、男性陣に至っては「ずっと自分に抱きしめられてくれる子(イケメン1)」、「一緒に旅行にいっぱい行ってくれる子(イケメン2)、優しい子(悠生)」と言った。


 そしていよいよ俺と優奈だけしか残ってない。


 タイミング的には俺が言う順番だ。


 それにしても、理想のタイプか。


 そもそも俺は女性と一度もお付き合いしたことがないから、二人のイケメンのような具体的なタイプは言えない。

 

 イケメン二人は興味なさそうに酒をちびちび飲んでいて、残りの全員が俺を見てくる。


 俺は若干恥ずかしそうに優奈を見て口を開いた。


「……そ、その……俺は、ずっとそばにいてくれる人がいいかな……」


 なに言ってるんだ。


 夫婦や家族じゃあるまいし、ずっとってやっぱり重すぎるだろ。


 家族が死んで、二人の友達が遊びに来ないとずっと一人だったからつい可笑しなことを言ってしまった。


 すると、


「っ!!!!!!!」


 向かいに座っている優奈がジュースが入ったコップを落とした。


 幸い、赤髪の童顔の子がすばしこく溢れないようにコップを抑えたため、大惨事には至らなかった。


「優奈っち?」

「……」

「優奈っち??」

「……」

「優奈!!」

「ん?奈々、どうしたの?」

「いや優奈っちの脳一瞬バグってたから、何かあった?」

「なんでもないわ」

「へえ〜そうかな?」

「……」

「まあ、それはそうとして、優奈っちの理想のタイプを教えてよ」

「そうね」


 赤髪の童顔の子(奈々)の問いに、優奈は自分の柔らかな亜麻色の髪をかき上げる。その弾みに巨大なマシュマロが少し揺れて男性陣の視線は釘付けになる。


 本当に大きい。なのに腰は細いから不思議fだ。

 

 イケメン1と2が目を輝かせる中、優奈は


 俺をを見てちょっと低いトーンで言葉を発する。


「私は、


「っ!!!!!!」


 まるで挑発するような面持ちで発せられた優奈の言葉に一瞬、俺の脳が電気が走るみたいに痺れた。


 俺をからかっているのだろうか。


 余計な勘違いをさせかねない優奈の言葉に俺が戸惑っていると、


「(イケメン1)俺、実は中学の時から空手やったんだよね」

「(イケメン2)僕は柔道学んでたから」

 

 早速イケメンズが食いついてきた。


「なにそれ、露骨すぎるけど」

「逆に正直すぎてウケる!」

「あはははは!!やっぱり優奈っちだね〜」


 イケメンズがぐいぐいくる中、優奈はしれっと視線を外して飲み物を飲んだ。


 こんな感じで会話が進み、俺が相槌を打っているとそろそろ解散の時がやってきた。


 居酒屋を出た俺たち。


 イケメンズは名残惜しそうに食い気味に女性たちと話している。


 悠生が二次会に行かなければ一緒に帰るのもありだな。


 そう思っていると

 

 悠生が携帯を見て真っ青な表情を浮かべる。


「やっべ……俺、急用ができた!ごめん!先に失礼する!悠生!後で連絡しろよ。今日は楽しかった!!」

「お、おう……」


 悠生は申し訳なさそうに頭を下げてからダッシュで走っていく。


 イケメンズは明るい表情で手をふり、女子たちも優しく手を振ってくれた。


 だが金髪の女の子は残念そうな表情だ。


 まあ、一人で行くのも悪くない。


 初めてこんな美人たちをリアルでいっぱい見たわけだし、居酒屋の料理も美味かったから満足している。


 そして、何より


 優奈は無事だ。


 これだけでもこの合コンに参加した甲斐があったもんだ。


 この場に俺がいても返って迷惑をかけるだけだ。


 なので二次会がああだのこうだの喋っている6人に向かって俺は口を開く。


「悪い。俺も帰る」

「え!?」

「司っちもう帰るの?」


 赤髪の童顔・奈々が顰めっ面で言ったので優奈の言葉は遮られた。


「ああ」


 気のせいかもしれないけど、奈々と優奈は落ち着かない様子を見せているように思える。


 やっぱり一言言っておいた方がいいだろう。


 帰ると言ってそのまま行動に走るのは無責任だと思われかねない。

 

 なので、俺は彼ら彼女らに向かって口を開いた。


「今日は本当にありがとう。楽しかった」


 俺はそう言ってから戸惑っている優奈に向かってまた話す。


「本当に……来てよかった。

 

 と、話し終えた俺は微笑むと


「っ!!!」


 優奈の足が震えた。


 夜のLED照明の光に当たった彼女の頬は心なしか若干ピンク色を浮かべているようにも見て取れる。


 イケメンズは笑顔を浮かべてバイバイしてくれた。


 なので俺は踵を返して足を動かす。


 夜の街は酔っ払ったサラリーマンや客引きの人で溢れかえっており、電車が走る音と人々の話す声でいっぱいだ。

 

 駅に向かう俺は人たちの姿を見ながら呟く。


「本当によかった」


 ずっと俺を悩ませた悩みの種が取れたようでスッキリした。


 今日はぐっすり眠ることができそうだ。


「……」


 とは思ったが、悩みが解決したらまた新たな悩みが生まれるものだ。


 彼女が見せた熱い視線。


 蘇ってくる罪悪感。


 それを思い出すたびに心のどこかが強く刺激される気分だ。


 そんなことを思っていると、後ろから声がして、肩を掴まれた。


「ちょ、ちょっと!」

「ん?」

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