あけましておめでとう。
青いバック
あけていたよおめでとう。
雀のさえずりが気持ちいい朝の四時。カーテンの隙間から太陽の光が漏れだし、眩しさで目を開ける。
時は2023年。1月9日。年が明けてもう9日が経ってしまっていた。僕はまだ誰にもあけましておめでとうと送っていない。意中の人だけには送ろうとしたが、友達に俺には来てないと意中の人に言われてしまったらそれは好きがバレることになる。
だから、臆病な僕はスマホを机の上に投げて、誰にも会うことも無く今日まで過ごしてきた。友達からのあけましておめでとうにも返事はせずに社会から身を切り離していた。
そろそろ、誰かに返さないと心配されそうだな。と思いながらも返す気力がなかなか湧いてこない。返すタイミングを見失ってしまった。新学期始まってクラスで友達が出来なくなるパターンのあれが今襲いかかってきている。
「……返そうかな」
誰に聞かれる訳もなくて、独り言は太陽の光だけが射す暗い部屋に木霊する。
机の上に置いておいたスマホを手に取って、久しぶりにメッセージを開くと、かなりの通知が溜まっていた。
友達からの心配のメッセージ、家族からの今年は帰ってくるのかのメッセージ。意中の人からの、餅つきをした写真のメッセージ。皆はお正月を満喫しているようだ。
まず、誰から返していこうか。意中の人から行くのは露骨に気持ち悪い気がしたので、仲がいい友達から返すことにし、意中の人は一番最後に返すことにする。皆に返し終わって意中の人だけになる。
なんと送るのが正解だろうか。あけましておめでとう、その餅美味しそうだね、と送るのが安牌な気がする。
しかし、どうしようか。全ての行動が気持ち悪く感じられないだろうか。迷った挙句にとった行動は、あけましておめでとうの一文だけ。臆病風に吹かれすぎた性格な僕はこれが精一杯だった。
皆に返し終わったので、机にスマホを置こうとすると勢いよく振動する。スマホの画面を見てみると、意中の人から電話がかかってきていた。
頭の中が困惑する。朝8時の駅のホームのように思考回路が行き来する。とりあえず、出なければと思い電話を取る。
「あっ、出たー!ずっと返事がないから心配してたんだよ!何してたの?」
「俗世と身を切り離して修行してた」
「何それ?出家したの?」
「してないけど、言ってることは間違ってない気がする」
「よく分からないけど、無事で良かったよ。一週間ちょっと返事が返ってこないんだもん。君いつも返事早いのにさ」
返事が早いのは意中の人の君だけだ。その他の人は一時間置いたりと適当に返している。
好きな人との会話は早くしたい、その一心で指が勝手に返事を書いているようなものだ。
「ははは、次から早くなるよ。返事」
「一週間も返事をしなかった人のそれは信用ならないなあ」
「信用してくれて大丈夫だよ、多分本当だから」
「多分本当って信用ならないじゃん。あ、ねねお餅いらない?」
「お餅?またどうして急に」
「写真送ったでしょ?お餅の」
「あぁ、餅つきの」
「そうそう。いっぱい貰いすぎちゃってさ、食べきれないからお裾分けしようかなって、どうかな?」
「貰うよ。ちょうど食糧難だったから、有難い」
「本当!?じゃあ、今から持っていくね!」
「持ってくるってどこに?」
「君の家だよ、それじゃあ、また後で!」
「えっ、あっ、ちょ!」
トゥルン。といい切れる電話。返事を待たずに意中の人の君はこちらに向かって来ている。
僕は部屋を見渡す。一週間食べて寝てを繰り返した部屋は地獄絵図だった。急いで、ゴミを片しカーテンを開けて窓を解放する。
電話が切れてから、二十分後。君は到着した。僕はギリギリ部屋を片付けることが出来た。
ピンポン、と玄関からチャイムが鳴る。鍵を開けると、紺色のパーカーを身にまとった君が居た。
「やっ、あけましておめでとう!いや、あけていたよおめでとうかな?」
「うん、そっちの方が正しいね。あけていたよおめでとう」
あけましておめでとう。 青いバック @aoibakku
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