第2話鎮火と捜査
消防隊の全力の消火でも、中々消えなかった炎は、翌日の早朝にやっとこと沈下した。
新島は燃えた家へと近づき、全焼になった家を見る。
丈夫に作られた柱だけがまだ原型を保っており、それ以外の燃えやすいものは原型を保っておらず、跡形もなく燃えていた。「この家の柱はわりと丈夫だったんだ」と、炎の大きさの割に大きな柱がすべて消えておらず、一部分が炭にすらもなっていないことに新島は、少しがっかりはした。が、あの業火のごとく燃えていたあの炎に新島は魅了されていた。
火災事件がおきたのは、辺りが暗くなりだした夕方あたりの時間帯だというのに、その事件現場だけ、この家が燃えている間だけ、この空間が昼間のように明るく感じた。それが新島にとって不思議でしかなく、同時にその放火犯に深く感心した。あの両親の家はかなり大きかったはず。それを、完全ではないが、ここまで粉々に燃やすにはかなりのテクニックが必要だ。並大抵の知識ではない。
(……興味深い)
新島は自分を救ってくれた、あの炎に対する興味が沸々と湧き上がった。しかし、そんな新島の心の内を知らず、制服を着た警官二人組が、棒立ちで焼けた家を眺めている新島に話かけて来る。
「新島君だね。若い君にこんなことを聞くのはどうかと思うけど、事件のことについて何か知っていることあるかな」
丁寧に話す警官の一人は、体型が太っていた。ボタンがはち切れそうなほど腹が膨れ上がり、制服が山のように盛り上がっている。
とても皮膚が苦しそうだ。その体型のせいか、額にほんのりと汗が滲み出ている。「そんななりして警察官かよ」と突っ込みたくなるが、もう一人の男は割と普通の見た目をしていたので、喉まで出ていた言葉をぐっと抑える。
「いや、俺は何も。誰かに放火されたというしか……」
新島が答えると、細身の男がメモ帳を手にして、何かを書き始める。
もう一人の男はその回答に「うん」と、首を縦に振る。そして、何か思い出したのか、右ポケットに手を突っ込んで、とあるものを取り出した。
写真だ。
酷くやせ細った男の姿が写真に写してある。目は鋭く、髪はチリチリのオールバック。見覚えのないその男の写真を新島に見せながら、太った方の警官が口を開く。
「この男に見覚えは?」
見覚えのない男。新島は素直に答えた。
「無いですね」
新島の回答に、男はもう一度首を縦に振り、新島にその写真に写っている男の正体を簡単に説明し始める。
「君も知っている通り、今回の事件は何者かに放火されたのが原因でね……」
男は額から出た汗を、ハンカチで拭きながら、話を続ける。
「数々の放火の事件を、大きく携わっているのがこの男、「大島登」この男はまだこの付近でうろついていると思うんだ。もし、このあたりで、見かけたらすぐに警察まで通報してほしい。それと……」
男は、引っ切り無しに話し続ける。
「君の両親と話がしたいんだけど……どこにいるかな」
キョロキョロと頭を動かす男。その行動を無感情で受け流し、新島は顔の表情を崩さず「そう言えば、両親を見ていない」と、疑問に思い、自分の記憶を探り始めた。
父親はともかく、母親は新島を放っておくはずがない。一目散に新島を見つけ「会いたかった」と体を痛いほど強く抱きしめ、価値のない愛をぶつけるはず。
それに、新島の行動範囲も立っていた所から、数歩しか進んでおらず、見つけるのは容易いはず。それか、新島の存在を忘れるほど、両親たちの唯一の財産である「家」を燃やされたショックが大きいのか。
どちらにしても、両親のことはどうでもいいと考えている新島は、あたり障りのない言葉を警官二人に話す。
「俺も、両親を探してはいるんですが、見つからないですね」
探しているふりをして、新島は適当に誤魔化した。
すると、今度は細身の男が、走らせていたペンを止め、新島に質問をしだす。
「両親の仕事は?」
細身の男は、目を隠すように髪を伸ばしていた。そこから覗く眼光は鋭く、鷹に睨まれているように感じた。心までを覗かれているような、すべて見透かされているかのような、鋭い表情をしている男。
新島は少し顔を引き攣らせる。
しかし、新島は何も悪いことをしていないので、素直に、堂々と質問に答える。
「父親はこの街の議員です。母は専業主婦やっています」
普通のことを答えているだけだが、何か心がそわそわする。言葉も少し拙い。この男に見られているからだろうか。しかし、やましいことは何もしていないはずの新島は、その男の目を逆に見つめてみることにした。
すると、男はすぐに視線を外し、手帳に何かを記入し始める。
これでいいのだろうか。
男の謎行動に、頭の中がクエスチョンマークで埋め尽くされた新島は、「両親を見かけなかったんですか」と、今度は二人に質問する。
細身の男は反応せず、太った男が話し始めた。
「私たちも探してはいるんだが、中々この家の住人が見つからなくてね。電話も出ないし。そんな時、君が家に近づいたから、住人だろうと私は推測したんだ」
「……そうですか」
新島の回答に、「うん」と首を縦に振る男。細身の男は相変わらず何も言わない。眉間に皺を寄せたまま、手帳にペンを走らせている。
太った男は、その男の行動を咎めたりせず、ただ額をハンカチで拭いていた。
「じゃ、「すいません。ちょっといいですか」」
警官の話を遮り、一人の男がやってきた。二人組とは違う制服を着た男だ。その男が警察官二人を連れていく。
何やら少し話をした後、太った警官だけが新島のもとに戻ってくる。
「すまない。ちょっと詳しく話を聞かせてもらえるかい。こちらからも話しておくこともあるんだ」
そう言うと、新島の背中に優しく手を置き、近くに停めてあるらしい警察車両に、新島を連れていくのだった。
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