英雄の最後。
第49話 「やれて当然」「仕方ない」という言葉。
朝になってすぐに政府のヘリが来ると中から母さんと楠木恋と日影一太郎が降りてくる。
汚染された空は飛行機やヘリを飛ばすのは危険が伴うのによくこれたなと思う。
「お疲れ様冬音」
「いいんだけどよく汚染地域にヘリ飛ばせたね?インコは?」
「あんなものお母さんからしたら関係無いわよ」
そう笑う母さんの横で楠木恋が「風神の面目躍如だな」と笑っている。
母さんって風神のあだ名持ちなの?
母さんは俺の横に立つ副総裁のおじさんに「副総裁、はじめまして」と挨拶をする。
「青梅さんですね。世話になりました」
「いえ、この度はお互い災難でした」
母さんと副総裁のおじさんは挨拶の後で今回の落とし所について話し合っていて、俺が退屈そうにしていると日影一太郎が「見ていたよ。流石は我らの英雄だね」と声をかけてくる。
英雄という言葉は本当に嫌いだ。
俺は英雄なんかじゃない。
苛立ちと共に「俺は英雄じゃないよ。とりあえず腹減った」と言うと楠木恋が「そう怒るな冬音。一太郎は感動しているんだ」と言う。
楠木恋の言葉が気になって「は?」と聞き返す俺に楠木恋は「とりあえず茶菓子の羊羹を貰ってきたからかじれ」と口に切っていない羊羹を放り込みながら「萩月を使って全て見させて貰っていた。お前の立ち回りのお陰で政府とも良い交渉が出来る。今回は野良どもが悪さをしたのも反社を狩るついでに政府が悪さをしたからで能力者が望むのは自由だと喧伝できる」と言ってきた。
なんとまあ、また撮られていたのか。
「はぁ?またかよ。とりあえず甘いの飽きた」
俺の声に合わせて日影一太郎が「はい冷めても美味しいチキンサンド」と言って出してきながら「だけどまあ嬉しいのは嬉しいけど残念は残念かな」と言う。
「は?何言ってんの?」
「交渉が決裂したら政府を破壊しようと恋さんと話していたのさ」
なんと怖い事を企むんだと辟易とした時、新しいヘリコプターがやってきた。
大型の自衛隊で人員移動に使う奴で何度か栃木の基地で見たし乗った事もある。
「夢野勇太がお迎えに来ましたね」
母さんの言葉に副総裁のおじさんは「仰々しいな。追って寄越したのだね」と言って面倒臭そうにする。
「今の総裁や幹事長では交渉になりません。なんとかご無事に東京にお戻りいただいて我々至上委員会と交渉いただきませんと」
「今話していた御子息の目指す世界の為だね?」
「はい。親バカですけどウチの息子なら旧人類と我々に適切な距離を築いてくれると思います」
そんな会話が聞こえて照れ臭そうにする中小夏達はバスに乗り込み、秋斗と世奈ちゃんはバイバイが嫌だと泣いている。
なんだったらウチで数日預かってもいいなと思っているとヘリコプターからは夢野勇太、大神茜、坂佐間舞が降りてきて夢野勇太は副総裁のおじさんに「お迎えにあがりました。ご無事で何よりです」と言っている。
大神茜は俺に小さく手を振って「久しぶり」と言い、坂佐間舞は日影一太郎を睨みつけている。
この瞬間、俺は完全に油断していた。
降りてきた自衛官達は即座に野良どもに発砲をして「テロリストを排除する」と言い出した。
3発目からは俺が土壁と暴風で防いだが、何発かは野良や俺達のバスに当たった。
これには副総裁のおじさんも驚いて「辞めないか!」と言ったが夢野勇太は「総裁と幹事長の御命令です。テロリストから副総裁を保護して、更にテロリストに指示を出した能力者至上委員会に長い間拉致監禁されていた日向冬音君を保護します」と言った。
「おい!何だそれ!?」
怒鳴る俺に夢野勇太は「これが最良の作戦です。戻ってきてください。君が戻り汚染区域を除染した後は医療班に入ってもらえれば至上都市で監禁されている能力者達も助けると政府与党が言っています」と言う。
どんな世迷言だ?
「誰がやるって?俺は気に食わない事はやらないよ」
「やって貰います。それが幹事長達の要望です。やれなければ君のお母様を逮捕する事になります」
相変わらずクソ汚い。
これには副総裁のおじさんも「為元や能内が、そんな事を言うのか!?私は認めない!ここの人々は除染されたこの土地で暮らせばいい!日向君は私を可能な限り治してくれた。それでいいじゃないか!無理強いしてどうなる!」と怒鳴るが夢野勇太は「私はいち公務員として上司の指示に従うのみです。与えられれば執行するしかありません」と言ってから「世界に類を見ない治癒能力の使い手です。世界各国から治療を受けたいと言われています。英雄の彼に国際社会で立ち上がって貰い日本を救ってもらう。それが総裁のご意志です」と言い切った。
俺はこの場がどうなっているか知らなかったが、ここで夢野勇太の失態は母さんと銘菓君が撮影している事を知らない事でその映像は全て平定が世界に向けて発信していた。
俺はというと頭にき過ぎていて「ふざけるなよ。夢野勇太は俺1人に皆がぶら下がる事に賛成なの?」と前に出ていた。
「賛成も反対もありません。我々は日本の一員として生きるべきです」
こいつは本当に本音で話そうとしない。全部日本国の公務員として口を開いている。
「昔さ、まだ最低限の援助があった小学生の頃にさニュースを観ててムカついたんだよな」
俺の言葉に首を傾げた夢野勇太が「何を?」と聞き返す。
「いいから聞きなよ。俺が本気出したら一瞬で皆殺しだよ」
「君はコピー能力者、本質を掴めない君に風の本質を知る私は倒せませんよ?」
ドヤ顔の夢野勇太が居ても俺には関係無かった。
「俺には風神様が居るから余裕さ、いいから聞きなよ」
俺の言葉に母さんは仮面を外すと笑顔で「ふふふ。坊やの相手くらい余裕だわ」と言うと余裕のない顔をする夢野勇太。
「俺さ、子供の頃に小夏の家で怪人を倒すヒーローを見て嫌になったんだ」
「ええ、広報誌は見ましたよ」
「それからアニメとかも見ないでさ、テレビなんかも食い物の番組とか家族団欒とか辛いから天気予報くらいしか見ないんだ。でも天気予報って時間が変わるのかたまに事件のニュースに当たるんだよね」
あの腹が減って仕方ない夕方。
もう寝てしまおうと思いながらも小夏を待ち続けた日々。
あの日見たニュースは今思い出しても面白くない。
「それが?」
「それがさあ、警察の不祥事だの消防署がちょっとミスをしただ、学校で教師が生徒に何かしただ、児童相談所で子供が救えなかっただって言ってさ、あれが嫌なんだよな」
「だからこそ人々はキチンと指導者に従って法を守るんです」
「違うって。どいつもコイツもやれて当然って思ってるから嫌なんだよ。警察官の不祥事?何人居てソイツ以外は皆困ってる人を助けてるのに1人の不祥事でこれでもかって文句を言う。じゃあうまく行った時、犯人1人捕まえた事もニュースにしてないだろ?当然くらいにしか思っていないだろ?だからヒーローと同じだろ?やれて当然なんて大変なんだよ。それを寄ってたかって自分で何ともしないで人にぶら下がりやがってよ」
「人々は弱いのだから仕方ありません!」
「仕方ない?ならアンタも2つの時に子供の事は任せろって言われて親を殺されてみろよ。ひもじい思いをしてみろよ。仕方ないって言ってやるよ」
俺の言葉に何も返せない夢野勇太を無視して銃を構えたままの自衛官に「なあ、アンタの家族は面倒見るから死んでくれよ?仕方ないよな?」と声をかけると自衛官は青い顔で首を横に振る。
その横の自衛官に「アンタの面倒みてやるから家族を殺させてくれよ。仕方ないって言ってくれよ」と言えばコイツも首を横に振る。
「なぁ?ならなんで俺の両親は死んだ?ならなんで今コイツらはあの人達を撃った?ふざけんなよ。コイツらがお前達から逃げたのだって殺されるまで働かされるからだろ?」
俺の言葉に誰も何も言えなくなる中、日影一太郎が爆発をした。
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