第48話 汚染地域の野良村。

1時間後、迎えに来た車は軽自動車でトンカツ父さんが車を出してくれて追走する形でついていく事になる。


俺だけは連中の要望で軽自動車に乗り込む事になる。


「良いけど弁当持ち込むよ?」

「構いません。よろしくお願いします」


何をよろしくするのか意味不明だが乗り込んで話を聞くと困り事は主に2つあった。


一つは土地問題。


野良の連中は国に管理される事を忌避した奴らの集まりで、至上委員会に保護を求めつつもやはり管理を嫌って逃げ出していたり、土地不足で受け入れられなかった者もいた。。

だから容易に入り込めて逃げ出せたのだろう。


そして野良は野良でも反社に堕ちた連中とは違っていたし、政府が反社に堕ちた連中を狩り始めた所に野良も狩る事にしたからと住処を追われるように逃げ続けていた。


そして逃げ延びた先は汚染地域で、住むだけで身体が蝕まれるし、レベル1能力者の除染能力ではたかが知れていて能力と結果のバランスの悪さに絶望した結果強行手段に出たと言う。


俺は頭を抱えて「はぁぁぁ?じゃあ俺の家族は汚染地域に居るのかよ!?」と聞くと横に座る男が「一応我々が除染した1番マシな所にいて貰ってます!」と必死に弁明してくる。


そうは言っても落ち着けるものではない。

汚染地域にはチワワやインコの群れが住み着いていて危ないったらない。


これは通話で聞いているトンカツさん達からも悲鳴が漏れ聞こえてくる。


「何?俺に除染しろって話?」

「それもあります…」


それも?

何があるんだ?


その二つ目が問題だった。

可能な限りでいいから助けてほしいという曖昧な言葉で、聞くと旧式だからと捨てられた蓄電池の充電から水源の確保、そして政府から撃たれて負傷した人々を救ってほしいと言うものだった。


「俺の能力は相性もあるしそれやると除染なんて夢のまた夢だよ?」

「ですが妻は身重でこのままだと母子共に死んでしまい…」


最悪の泣き落とし。

苛立った俺は「断ろうか?」と言うと横の男は「何故ですか!?」と声を荒げる。


「子供と嫁さんの身を案じる奴が俺の妻子を連れて行ってるんだから許せる訳ないだろ?」

この言葉に助手席と運転席のメンバーが「それは自分です」だの「彼は最後まで反対していました」とかばいだしてウザさMAXになる。

ちなみにこれを銘菓君達が母さんに知らせている事を俺は知らなかった。


コイツらの逃げ落ちた村は茨城と栃木と埼玉の県境にあって、行政が除染を諦めた場所だった。

要するに押し付けあっていて宙ぶらりんになっている。

確かに比較的マシだがそれでも近くからはチワワの鳴き声がするし空はインコが飛んでいる。


インコに至っては人間の声真似までして捕食してくるので「タスケテー」とか聞こえてきて気分が悪い。


深夜に到着した俺は「うわ、劣悪」と言いながら車を降りる。

俺は「マジでここに住むのかよ」と思わず言ってから「小夏出してよ。出し惜しみして何かに条件着けて1人ずつとか出したら滅ぼすよ?」と言うとバスから降りてきたトンカツさんが「日向、小夏達は居るの?」と聞いてくる。


「うん。居る。今は大部屋にいるね」

「わかるの?」


「うん。迂闊だったよ。風探知で探したのは人里だからこんな汚染地域に隠れられるなんて思わなかったんだ」

「成程ね。後さ萩月が総統と電話してってさ」


「総統?母さんでいいのかな?それにしてもここって電波来んのね」

俺がスマホを見ると誘拐犯達は「電波が来るからこの廃村にしたんだ」と言っていた。


俺は何となく一応考えて落ち延びた事を理解しながらトンカツさんから借りたスマホで母さんに電話をかける。

深夜でも母さんはすぐに電話に出る。


「母さん?奴らの廃村に着いたよ。盲点だったよ。俺は汚染地域に風を飛ばさなかったんだ」

「本当、私も気をつけるわね。とりあえずそこに弱った男がいると思うけど保護してくれるかしら?」


「何それ?」

「旧人類と私達を繋ぐ希望の星かしらね?与党副総裁が今朝定期通院先の病院から消えたんですって。今はまだ隠してたらしいけど、旧人類は私達至上委員会を疑っていたんですって。栃木の基地まで移動してからヘリを出させるから朝までには着くわ。とりあえず嫌でもそこを除染しておいて」


俺は了解すると村の範囲を除染して「土地と空気はやってやったんだ、先に家族を返してよ」と言うとまだ綺麗な建物に連れて行かれた。


その中におばちゃんや小夏、秋斗が居て秋斗は夜中なのに起きていて同年代の子供と仲良く笑って遊んでいた。


「小夏!おばちゃん!秋斗!」

「冬音!!」

「冬音君!」


「無事?一応ここの土壌と空気は綺麗にしたけど身体に変な所は?」


心配する俺に小夏が抱きついてきて「無いよ。来てくれてありがとう!」と言った後で「冬音、皆を助けてあげて!」と言った。



どこか確信があった。

小夏イズム全開。

ですよねー。と思いながら話を聞くとこの大部屋の連中を助けたくて俺を呼んだと言う。


小夏は最初はこの部屋のことを知らずに連れて来られたが、この部屋に通されてからは甲斐甲斐しく介助を手伝っていたという。


部屋を見回すと老若男女、まあ沢山いらっしゃる。


秋斗と遊んでいる女の子は世奈ちゃんとかいう子で汚染で身体が弱ってしまってすぐに熱がでるらしい。今は熱も気にせずに秋斗と仲良く遊んでくれている。


あっちの妊婦さんが誘拐犯の嫁さんだろう。

足の銃弾は除去したが汚染地域のせいで治りが悪いし下手をすれば汚染物質が子供に到達するかも知れなかった。


「なあ、そんなになるまでここに住むか?人里に行けよ」と文句を言うと「自由が欲しかった」と返ってきて呆れてしまう。


そんな中、おばちゃんが介護していたジジイは1人で綺麗な格好をしていて脂汗を浮かべて苦しんでる。


多分コイツが副総裁さんだろう。


「おばちゃん、そのおじさんが副総裁さん?」

「ええ、病院から連れて来られたんですって」


誘拐犯に聞けば家族に医療提供を頼み込む為に連れてきたらしい。

悪手だろうけど汚染地域に長期間居て正常な判断が出来なくなっているのだろう。



俺は副総裁の横に座って「おじさん、調子は?」と声をかけると副総裁は俺を見て「…ひ…日向…冬音君?」と聞いてきた。


「俺を知ってるの?」

「ゆ…有名人…だからね」


「へえ、何の病気?」

「肺を少しね。若い時に無理をし過ぎて除染区域でも外に数時間出るとダメで医師に薬を貰って無菌室で週に一度肺を休ませてるんだよ」


「それなのにここだからヤバいんだね」

「ははは、そうなるね。それでも君のおかげでこの国は大分除染が進んだんだけどね」


副総裁のおじさんは少し話した後で俺に謝ってくる。


「どしたの?」

「夢野勇太達からも聞いていたし、君が至上委員会に行ってしまったのも我々の落ち度だ。それに君が治癒能力を見せた事で政府側からも変な圧力が加わってしまった」


ずるいよな。

本当にこのタイミングはずるい。


そしてここには小夏が居る。


「冬音、皆を助けて?」

「まあ小夏が言うならかな。明日の夕飯は鍋煮込みラーメンOK?」


俺の言葉に小夏は「うん。作るよ!大きな鍋で味噌味と喜多方醤油味の2個やるね」と言う。


小夏に頷いた俺は副総裁を見て「副総裁のおじさん。これってアレだよね?」と声をかける。


「日向君?」

「おじさんの容態を心配したコイツらがおじさんを俺に引き合わせる為に病院から連れて行った。おじさんはコイツらのおかげもあって可能な限りでいいから俺の治療を受ける」


俺の言葉を聞いた副総裁のおじさんは「ありがとう。是非そうさせてもらうよ」といったので「んじゃやる事からやりますか」と言って銘菓君と水源の除染と水の確保を始める。

そしてさっと全員の体内を除染して妊婦さんは「んー…治癒能力活性化…試すかね」と言って力を送るとグジュグジュで膿んでいた箇所は何とか綺麗な傷跡になったが治りはしなかった。


そして副総裁のおじさんは除染だけで大分マシになった所に治療までしたから血色が良くなって「15は若返ったよ!」と喜ぶ。


「んー…、終わったから帰りたいかな。腹減った」

そう言う俺にトンカツ父さんが「総統達が来るから待とうね」と言ってきた。


そうか、朝になったらくるんだっけ。

俺はとりあえず食事だけは済ませておいた。

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