第46話 風神の怒り。

日向冬音が発電所で働いていて日向小夏達が何者かにつれ拐われている間、日向冬音の母…青梅夢は総統の立場で楠木恋と日影一太郎と共に東京にある与党会館を訪れて日向冬音に対する権力者達の治療依頼の撤回を求めていた。


だが国の立場と意見は国民の一員として持てる力を使うべき、拒むのであれば温情で生かしてある至上委員会の街に攻め込むという愚かしいものだった。


国が強気になるのにも理由はあって至上委員会にも弾かれた輩の連中を夢野勇太達、ハートフルカンパニーが主導する形で淘汰殲滅していて、能力者と言っても平たく言えば火等が生み出せる人間でしかないので銃火器で倒す事も出来る。

なので逆らう者は全て殺す事を選び、その成功体験が旧人類の気を大きくしていた。


話は平行線。

もっと酷かったという認識すらある。


夕暮れ時、夜になり議員会館を後にした3人には疲労が見て取れる。日影一太郎が車を取りに行くと楠木恋が「話にならんな夢」と言い、青梅夢も「まったくだわ、データを見せても理解できないなんてね。しかも何?あの治療をごねてきていた議員の命に価値があるなんて抜かしてたけど親の地盤を受け継いだだけのバカボンが年功序列で偉くなっただけじゃない」と返す。


「やはりこれを機に殺してしまわぬか?」

「だめよ。それは冬音の望まないところだもの」


「だがな?その理想が冬音を苦しめるとは思わないのか?この数ヶ月のやつの顔を見ていないわけではないだろう?」


親達から見ても日向冬音の憔悴は酷いものだった。

潰れる寸前。

潰れないのは孤独の長さからくる鈍感力のおかげに過ぎなかった。


大きくため息をついた青梅夢は「普通ならそう思うわよね。でも豊さんの息子の冬音なら潰れないわよ。何処かで答えを見つけたら立ち上がれるわ」と言うと楠木恋は「親は凄いな、私は今すぐにここに誘発剤を撒いてやりたい」と言って議員会館を睨みつけた。


「何?あなた持ってきたの?」

「平定の賛成も得ている。万一の時はコレを使い、一太郎と夢の力で我々は脱出して同志と合流すればいい」


日向冬音を迎えて日和ったと思われてしまっている能力者至上委員会のなかでも変わらず過激な面が残っていた事に「ふふ」と喜んだ青梅夢が「それは楽ちんだけど冬音が嫌がる…!?冬音!?」と言って慌てた。


突然東京のど真ん中で日向冬音の風を感じた青梅夢は言葉を止めて「冬音?まさか何かあったの?風をこんな所まで飛ばして何かを探している!?」と言うなりスマホを取り出して日向冬音に電話をかける。


「冬音!?何があったの?あなた風をこっちまで飛ばして何を探しているの!?」

「母さん!誰だか知らないが秋斗と小夏とおばちゃんが拐われて家には3人は無事で連絡するから騒ぐなってメモがあったんだ!だから探しているんだ!」


「ちっ、平定は何やってるの!?こっちでもすぐに行動をするから冬音は温存しなさい!東京は母さんに任せて!また連絡するから冬音も何かあったらすぐに連絡をしなさい」


「わかった」と言って電話を切る日向冬音の声を聞きながら怒りに飲まれる青梅夢は楠木恋に「一太郎と逃げなさい。私はこの街を破壊してでも家族を見つける」と言う。


「落ち着け夢!何があった!?」

「不在を狙って家族が拐われた。今も冬音が風を飛ばして探しているけど見つかってないわ」


「それは検知外に出たのではないのか?いや、そもそも平定は何をしていた!?」

「風検知は欠点だらけだもの。風が入れない密閉空間に捉えられたらアウトだし、出入り口に扇風機を置くだけでレベル1の能力者が生んだ風じゃあ検知はできなくなるわ。平定?知らないわよ」



案外制限の多い内容に楠木恋は嫌そうな顔で「ならどうする?」と聞くと青梅夢は「ここを潰すわ。少し口を軽くしてあげた後でどっちが上かわからせる。恋は一太郎と逃げなさい」と言うと回れ右をして警備員に「幹事長に会わせなさい。待てても5分。5分以内に会えなければこの建物を破壊するわ」と言う。



先程まで物腰の穏やかだった中年女の気配は消えていて殺気は本物だった。


警備員が構えをとった瞬間に警杖は細切れに変わり「次は腕と首よ?」と言う青梅夢の後ろで楠木恋が「うわぉ、風神健在だな」と言う。


「バカね、健在?冬音のお陰で完全復活よ。今までは皮膚のひきつりや火傷のダメージで細かい違いが感じられなくて微調整出来なかったもの」

「ならばやるが良い夢!」


「ええ!任せなさい!」

これ見よがしに議員会館を風の檻で封鎖した青梅夢の前に幹事長が現れたのはきっちり5分後の事で、これだけで何かを始めた事は容易にわかっていた。


だがそれは旧人類側も追い詰めていられている話だった。

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