第44話 うまく行った事。

俺がご飯をモリモリと食べていると母さんと楠木恋が戻ってくる。

だが母さんは仮面を着けていて俺は失敗に肩を落とす。


「馬鹿者、肩を落とすな。夢の顔は綺麗になっている。眉毛やまつ毛なんかも元通りだ。どうやったんだ規格外め」


「…へ?じゃあなんで仮面?」

「恥ずかしいのだと言っている。とりあえず説明しろ」


「眉毛とかまつ毛は草花を育てる感覚で「育て〜」ってやったら出来た気がしたから試したんだよ」

俺は好き勝手言いながら肉屋のおっちゃんが焼いてくれたハンバーグを食べて美味いと喜ぶ。


ハンバーグをモリモリ食べる俺の前に来た母さんが震える声で「冬音…」と言う。


俺が「母さん、出来るだけはやったからさ。秋斗のお風呂当番とか割り振るからよろしくね」と言うと母さんは「…もう。ありがとう」と言って泣いた。


なんでアレ、治ったのならそれでいい。


俺は肉屋のおっちゃんが再度持ってきたステーキを頬張ると楠木恋が「それにしても燃費が悪いなぁ。夢のお祝いだと思えば許せるが…」と言いながら俺をみる。


「んー、母さんの分は埋め合わせ終わったよ。とりあえず今はエネルギーが必要だからね。母さん、今度は母さんがご飯係やってよねー」


泣き止んだ母さんが「あら?何かあるの?」と言って俺の顔を見る。


「あるある」と言った俺はステーキを食べ終わると楠木恋の手を取って「俺を信じて離すなよ?」と言ってから「細胞変化!遺伝子操作!」と言って力を込める。


「何をする!?」

「ババアはババアなんだからババアらしくババアになれ!」


「お前!四度もババアと言ったな!?」

「まあいきなりババアだと怪我とかしそうだからこんなもんかな?」


見た目にも違いが出てきて手足が伸びてきている。

背も高くなってきて高校生くらいに見える。


「母さん、そろそろ辞めようと思うんだけどどう思う?」

「んー…、とりあえずそこのローストビーフサンド食べながら、冬音の見立てで後一年分くらいやってあげなさい」


俺は「りょーかーい」と言いながら力を籠めると放っておかれて慌てる楠木恋が「こら!?夢!」と言っているがそれを無視してローストビーフサンドを食べながら力を送ってみた。


俺は手を離して「んー…幾つくらいかな?」と母さんに聞く。


「冬音くらいかしら?もう少し下かも」

「んー…とりあえず身体見てきてあげて服買ってあげてよ。なんかぎちぎちで拘束服みたいだよ。俺は疲れたからお刺身さんで癒される事にする」


お刺身はとても美味しくて「冬音君は白身が好きだね!えんがわ食べるかい!?」とか言って貰えて「マジで!食べる!!」と喜んでいると服を着替えて顔を真っ赤にした楠木恋が母さんと帰ってきた。もう小学生には見えない。高校を卒業したくらいには見える。


楠木恋が俺を見て「何をした!?」と聞いてくる。

俺は長いままのえんがわを醤油にダイブさせて口に運ぶと「テロメアだっけ?なんかさっき教えてくれたやつ、細胞が休んでるってきめつけて叩き起こす感じで無理矢理「ほら一年経った」「ああ二年だ」みたいに草木に生えろってやる感じで力使った」と食べながら説明をした。


「な…、んな…」と言って目を丸くする楠木恋を無視して今度は八百屋さんと合作してくれたヒラメカルパッチョをごっそりすくって食べてお茶を飲んでから「成長してた?ってかセクハラだけどしてるじゃん。バインバイン?」と言って顔から視線を落とした。


俺は軽口を叩くように笑いながらブリを食べると「む…胸を見るな!」と真っ赤に照れる楠木恋。

横で微笑む母さんに言わせれば「ボーボーよ。立派に成長したわ」らしく「夢!言うな!」と怒った後で「…夢のむす……ふ…冬音。ありがとう。感謝する」といっていた。


「いいって、ご馳走様。うまいもんで腹一杯だし相談に乗ってもらったから母さん治せたしさ、俺は得しかしてないよ」


俺の話を聞いている楠木恋の横でおっちゃん達が「お代金のお話を」と言って群がる。


最初はニコニコだった楠木恋も請求金額に青くなり「夢!助けてくれ!」と言っていたが母さんは「ごめんなさい、今晩から孫とお風呂なの。冬音の家で入るのもいいけどうちでも入りたいし、私の快気祝いとか家族でしたいし、孫と入るお風呂の改築とかしたいからお金がないのよね。一太郎に払わせて」と軽くあしらわれていた。


支払いのために呼ばれた日影一太郎は人だかりを抜けて出てきて火傷のない母さんの手を見て目を丸くし、バインバインになった楠木恋を見て絶句してから「いや、もしかして冬音君ならと期待したけどやれたのかい?」と言う。


「まあね。でももうやりたくない。母さんがうまく行ったのは相性だと思うんだよね。楠木ババアは力を注いだ割に思ったほど成長してないんだよ」


楠木恋をジッと見て喜びを隠さずに優しく微笑む日影一太郎に「あ、お支払いよろしくね。ごっつぁん」と俺が声をかけると楠木恋が「一太郎…。夢と冬音が残酷だ。こんな金額支払いたくない」と言って半ベソで領収書を見せると領収書を見て「…ず…随分と食べましたね」と言う日影一太郎。


まあ実は舟盛りとかサラダとかハンバーグなんかはウチまで届けてもらっている。

今晩はお祝いだ。


俺は突っ込まれる前に「治療費的なお薬代とかお誕生日プレゼントだと思ってよ」と言うだけ言うと母さんと帰る。


後の事?

知らね。



多分だけど日影一太郎は楠木恋と付き合うんじゃないかな?


俺は万々歳なのでそんな小さい事は気にしない。

お肉屋さんもお高い仙台牛のステーキが売れたし魚屋さんも皆ハッピー。

秋斗も仮面に触っても怒られずに母さんに頬ずりして笑ってる。


お風呂係も「今まで休んでいた分はやるわね」と言って母さんがこれでもかと秋斗と入るし本気で改築工事を行おうとしている。



あ、2つだけ困った事があった。

誰かが肉屋の前でムービー撮っていたらしく、英雄が2人の総統を救った奇跡とか言って巨大テレビに映された。

これは母さんが止めてくれて外部流出は無かった。


後は俺のメッセージアプリに楠木恋からフレンド申請が来た。


「お前には世話になったからフレンドになってやる。れんれんと呼んでいいぞ」とか入っていたので「ババアと呼んでいいならな」と返したら意地を焼いたらしい。

日影一太郎から「ショックで泣いてるから仲良くしてあげてよ」と言われて「冗談だ。だがれんれんはやだ」と言いながら承認しておいた。


そして数日後、検査をするまでもなく楠木恋は生殖能力が生まれた事がわかったようで、日影一太郎が赤飯を持ってウチまでやってきた。

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