第43話 化学反応。

母さんは秋斗を抱きながら俺に楠木恋が楽しそうだったと礼を言ってきた。

まあ、早い時間に会ったから夕方までに会ったのかな?


「そう?別に普通に接しただけだよ」

「ふふ、それが難しいのよ」


話しながら秋斗は興味深そうに母さんの仮面に触れようとして「だめよ秋斗」と言われている。


ダメ出しをされて飽きた秋斗はおばちゃんに抱きつくと頬ずりをする。

最近は頬ずりがお気に入りで俺たちにもやってくる。


母さんともしたいのだが仮面が邪魔なのだろう。

そして母さんはそれを悲しげな目で見ている。

もう3年近くいれば仮面越しでも目を見たらなんとなくだがわかる。


小夏は楠木恋を気にしていたので簡単に説明したら「大変だよね。冬音が遺伝子とか見えて成長とかしてあげたらいいのにね」と言った。


「小夏?」

「だってご飯さえ食べれば記憶力だって演算力だって使えたんだよね?そう言う能力者が居たら冬音なら真似できるのにね」


ん?

それは確かにそうだ。


俺は少し気になって次の日から少しだけアレコレ試してみた。

そして方向性が見えたところで壁にぶつかったので意見欲しさに楠木恋の元に行く。


驚いたような呆れたような顔の楠木恋は俺を見て「なんだまた来たのか?」とぶっきら棒に言う。

これで楽しそうだって言うんだから怪しいものだ。

俺は気にせずに「んー…能力の意見が欲しい」と言って楠木恋の部屋に入っていく。


「夢に聞けば良いだろ?アイツも平定や私と組んでから猛勉強をしたんだぞ?」

「あ、そうなの?でも母さんには聞かれたくないから知恵貸してよ」

気にせず部屋に入ると来客用のソファに座って向かいのソファを指さして楠木恋を呼ぶ。


「お前は仮にも総統の1人に畏怖とかないのか?」

「ないよ。べつにスーパー頼もしくて頼りになる童顔ババアって思ってるし」


「教える気が萎える」

「萎えるなって、頼むからさ」


俺が拝み倒すと楠木恋は「まったく」と言って俺の前に座ると何が知りたいかと聞いてくる。


「遺伝子とか細胞とかよくわかんないんだよね」

「そんな物を聞いてどうするのだ?」


「除染とか力業でしてるけど草とかを遺伝子とか細胞から強化してやったら除染とか捗りそうじゃない?」

「やめとけ、能力でそんなものに手を出したらきっと手に負えなくなる。この世界が滅んだのもやれるからやってみた奴らの不始末だぞ?」


確かに言われるとそうだ。

「んー…、やらなくはするけど気になって眠れないから頼むわ」

「まったく…」


ちんぷんかんぷんながら持ち込んだ大根に対してアレコレ試しながら話を聞くと基本的なことはわかってくる。


そしてそれを見た楠木恋は「お前…まさか…」と驚きを口にする。

俺は終わった大根を食べながら「ね?母さんには見せられないだろ?」と聞くと楠木恋は「…何が草木だ大嘘つきの化け物め。こっちが本音か?規格外すぎる」と言って笑った。


悪い顔。

大人の顔をした少女。

まあ、一部のマニアには喜ばれるな。

合法ロリとか言うんだっけ?

興味ないから良く知らない。


「んな事ないって、これだけで腹減って死にそう。大根じゃ足りない。なんかない?」

「規格外め。一太郎の飯を分けてやる」


俺は日影一太郎作の弁当を分けて貰って食べながら「何?どんな関係?」と聞くと、「ガキめ、一太郎は補佐が仕事。なんでもやるのだ」と返される。


「なんでもって弁当にハートマークの桜でんぶやるの?」

「そ…そそそ!?それは一太郎がロクな恋愛もしていないというのでやらせてやっているんだ!」


そう慌てた楠木恋は「こんな貧相な身体に一太郎が欲情する訳なかろう」と俺に聞こえないように呟いた。



「ねぇ、金ある?」

「はぁ?」


俺は「にひひ」と笑って「総統閣下だからあるよね」と言う。


「…まああるが、知っているぞ、お前の方が金持ちであろう?」

「俺の金はいつか来るかも知れない、だが二度と来て欲しくない食糧難の為に使わないの」


「…何が欲しいのだ?」

「肉屋の前で惣菜食べ放題?あ!魚屋さんの前とか八百屋もよろしく!」


「そんなにカロリー摂取しないと難しいのか?」

「んー…多分ね」


俺がもう一度笑うと楠木恋は「仕方ない、出してやる」と言うので善は急げと有無を言わさずに楠木恋ごと肉屋に向かって走り母さんを呼ぶ。



お肉屋さんの前で母さんは俺と居るとは思わなかった楠木恋を見て「恋…、あなた…」と驚くと「夢!お前の息子はなんだ?非常識か?金なら出すと言ったのに目の前で見ていろと言う!」と楠木恋は怒る。


人見知りを外に出した事が良くないから母さんが「冬音、無理強いするなんてダメなのよ!」と怒るが俺は「まあお説教は後でね」と言って肉屋のおっちゃんに「明日は臨時休業も仕方ないくらいのよろしく!高い順だからね!後は八百屋さん達にも話通してあるからローストビーフのサラダとかもジャンジャンやってね」と声をかける。


母さんは親としてキチンと注意をしようとして「ちょっと冬音!」と怒ってくるが俺は「まあまあ」と言ってから「秋斗が母さんとも仲良ししたいみたいだからさ…。母さんはうまくいったら楠木ババアに御礼よろしくね」と言って微笑みかけてみた。


「え!?何を…」と言って驚く母さんを無視して「楠木ババアは方向性がおかしかったら意見!後総菜はコロッケ、メンチ、唐揚げの順番だからね!」と楠木恋に指示を出す。


「ババアと呼ぶな!まったく!どこまでやれるか興味がある。やってみろ!」

「任せろ!治癒能力活性化!!」


俺は母さんの右手を持つとフルパワーで力を流す。


「ちょっと冬音、全身が熱い!?何をやっているの!」


慌てる母さんに楠木恋が「全身の再生だ。お前の息子は化け物だな」と説明をしながら「だがどこまで戻るかは誰にもわからな…」と言ったところで「ババア!腹減った!コロッケ!」と俺が口を挟むと「はぁ?もうか?」と言ってコロッケが口に入る。


「美味い!おっちゃん!今日もうま過ぎ!ローストビーフは!?」

「任せろ!新商品のニンニクマシマシマシマシマシマシガーリックステーキも出せるぜ!」


「よっしゃ!母さん!左手の火傷を見て綺麗になったら教えてよ。一度止めてみるよ!」


自身に何が起きるかわかった母さんは焦って「冬音…、無茶よ?」と言って俺の手を離そうとするが俺がそれを許さない。


「昔居た能力者は骨折を治すだけでも命懸けだったのよ?」

「それは本物だからだって、俺は平気」


周りの人だかりを無視して肉屋のおっちゃんがガーリックステーキ達を焼き上げるまでやった俺は力を止めると母さんの肌は赤みが残っているが、少し赤いだけで火傷も何もない普通の肌になる。


驚いて固まる母さんの手を持った楠木恋が「夢、こっちへ来い。夢の息子、お前は肉でもなんでも食べてろ」と言って母さんを連れて行ってしまう。

俺はその背中に向かって「マジで?よろしく。魚屋さーん!舟盛り行けちゃう?八百屋さんも肉屋さんとタッグを組んでパン屋さんとご飯作ってよ!」と声をかけて出てくるご馳走に色めきだっていた。

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