最後の総統。

第42話 3人目の総統。

秋斗はスクスクと大きくなる。

この前退院したかと思えば寝返りを打ち立ち上がるようになる。

あっという間に歯が生えてきて俺のスマホはボロボロにかじられた。


あっという間に1年が過ぎた。


そして冬が来て年の瀬にまた年を取った俺の誕生日に日影一太郎から「プレゼントだよ」と言われて呼び出された。


相変わらず日影一太郎のプレゼントは俺好みのチョイスでプレゼントと言われても嫌な気はしなかった。


だがこの日のプレゼントは違っていた。


「僕から総統閣下に進言をしたんだ」


総統と聞いて「は?何を?」と返す俺に「ふふふ、3人目、会いたいかなと思ってね。いい加減ここに来て長いから裏切る事も無いだろうと思ってね」と言う。


「3人目?居るの?」

「おやおや、AIだと思ったのかな?」


俺は「まあね。さもなくば余命幾許もない爺さんか…」と言いながら日影一太郎を見て「実は日影さんかなってね」と言うと日影一太郎は笑いながら「僕は旧人類で総統にはなれないよ」と返してきた。


そして「今回は2対1で僕の提案は可決して冬音君をこうして案内してるのさ」と言った。

多分反対は母さんだろう。


連れて行かれたのは雑居ビルの地下だった。

地下室にはなんか機械がゴロゴロしていて悪の秘密結社そのものに感じだ。


その中から「一太郎!本当に連れてきたのか!?やだ!帰らせろ!」と子供の声が聞こえてきた。


「は?帰れ?」

「ああ、冬音君は反対は夢さんだと思ったかな?反対はこちらにいらっしゃる楠木恋さんだよ」


日影一太郎は「僕が冬音君を紹介するまでは黙っていてね」と言うと「ほら恋さん。挨拶してください」と言って物陰に行くと1人の女の子を連れてきた。


女の子はじたばたと暴れながら「やだ!奇異の目はやだ!」と言っていて日影一太郎が「ほら、夢さんの息子さんは何も言いませんよ」と言って半分抱きかかえて連れてくる。


「一太郎!お前が根回ししたんだろ!」

「しなくても冬音君は僕達の英雄ですよ」


英雄と言われてカチンときたが何となく言い返す感じではないので今は我慢をする。

俺が我慢した事に気をよくした日影一太郎は「冬音君、こちらが楠木恋さん。君と同じ特殊な能力者だよ」と言った。


「特殊能力?腹減るの?」

「いや、恋さんは成長が出来なくなっているんだよ」

「どうせお前も笑うんだろ!夢の息子でも私を笑うんだ!」


そう言って目の前に立ったのは中学一年生くらいの女の子だった。


「なんだその目は?くれぐれも子供扱いしてくれるなよ?」

「別に、いきなり連れてこられていきなり帰れって言われたからムカついてる」


「はぁ?ムカつくだと?私は今年33だ!敬え!」

「ババア?」


「ムギーッ!私の身体は推定12歳のピチピチだ!」

「歳上って言うから歳上扱いしたら若いって言うし、ブレブレだな」

涙目で「一太郎!!」と言う推定12歳のババアに日影一太郎は「恋さんの負けですよ。ブレブレです」と言って呆れ笑いをした。


「んでー、日影さんは俺に会わせてどうしたいの?」

「化学反応を期待してるかなー」


話を聞くとどうやら俺同様に早い段階での能力発露の際に心身に異常を来たすような無理な勉強をさせられていた事が祟って能力は言うなれば超演算や超記憶を手に入れたが代償は肉体の成長が止まってしまったらしい。


「お前の代償も面白いな。カロリーの異常消費なんて女どもが喜ぶだろうな」

そう言った楠木恋は笑いながら肉まんを頬張る。


俺も肉まんを食べながら「飯代かかって仕方ねえって」と返す。


「なぁ、奇異の目って何?」

「お前…ズケズケと聞くな」


「だって別に腹減らないで能力が使えるならいいじゃんかと思うし」

「…基準はそこか?」


俺が「当たり前だ。餓死寸前まで行った人間舐めんな」と言うと楠木恋は笑いながら「確かに」と言うと「12から20年近く成長しない女なんて珍しがられる。そして能力も演算と記憶だからな」と言って暗い顔をした。


「成程、能力って色々あるの?」

「レアケースだがお前の重力制御も前例がない。他には治療特化の能力者も居たな。大昔だが政府に使い潰されてしまった」


「へぇ、凄いやどうやんの?」

「自然治癒力と言うものを理解しているか?細胞に働きかける力に能力を使う事で力を増して活性化させるようだな。まあ間近で見たことがないからそれ以上はわからん」


このやり取りを日影一太郎はニコニコと見守る。

どうやら俺は策略に飲まれたようだ。


この後少し試したが記憶力や演算力は能力を使った間の少しだけでコスパが悪過ぎて「無理だわ」と言うと楠木恋は「いや!凄いぞ!お前を見ているとインスピレーションが沸く!」と言った。


「所で普段何やってんの?」

「私は化け物の制御や進化の方向を変えてチワワなんかをまた昔の愛玩動物に戻してやりたいのだ!」


ん?化け物の制御?


気になった俺が聞くと日影一太郎は「バレちゃったね。化け物の制御は能力じゃなくて楠木さんの薬品さ」と言った。


楠木恋の説明はよくわからなかったが言いたいことはわかった。

とりあえず化け物どもが喜ぶ臭いを出して誘き寄せるのと興奮して見境のなくなる臭いを出して暴れさせるのと空腹を増大させる臭いを与えると人里を狙うらしい。まあその為にある程度前もって道路や街に臭いを撒く必要がある。


「ん?じゃあ楠木ババアのせいで俺の親とか死んだの?」

「ババアはやめろ。私の実験が成功したのは一太郎がお前を迎え入れたあれが最初だ」


「ならいいや。最終的には海とか火山に誘き寄せて殺せるな」

「まあ私としては政府さえ倒せればそれでも構わないな」


楠木恋は怖い顔をした後で表情を戻すと「一太郎の言う通り会えてよかった。また来てくれ」と言う。


確かに長居し過ぎた。


「まあ気が向いたら来るよ」



俺は帰り道に日影一太郎から「よかったよ。楠木さんは人にいい印象が無いからね。少しでも交流を持ってくれると僕も嬉しいんだ」と言われる。


「別に母さんみたいに仮面しないと人前に出られないとかじゃないから出ればいいのに」

「無理だよ。見た目に合わせれば周りの幼さや会話の合わなさに心を痛めるし、同年代は結婚や衰えを話して話が合わないんだ」


「成程、そりゃ難物だ。んじゃあ小夏と秋斗でも…」

「それは1番ダメだよ」


「なんでさ?」

「彼女の子供の頃の夢は「お母さん」なんだ。でも推定12歳で成長の止まった彼女には生殖能力がまだない。わかるよね?」


自分よりも年下の小夏が子を産んでその子と会いに行くのは残酷な話か。

俺は「わかった」と言うと日影一太郎は「旧人類は成長の止まった彼女をモルモットのように検査して尊厳を破壊したんだ。だから旧人類は新人類に支配淘汰されるべきさ」と言って帰って行った。

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