計画修正。
第39話 冬音の目指す世界。
人は誰でも慣れてしまう。
慣れればミスを生む。
この場合、ミスではないし悪いことではない。
俺が18になり半年が過ぎようとした頃、小夏が妊娠をした。
思い返せばこれは全て日影一太郎や母さんの策略だったと思う…思いたい。
初めは必ず避妊具の在庫を気にしながら行為をした。
最初は母さんや日影一太郎からの配給と常備薬の補充をキチンと把握した。
俺と小夏は結局行為に飲まれていた。
2年も我慢した夫婦の反動はとてつもなく、週7どころか休みの日は何かにつけては行為をした。
俺も小夏も求め合っていた。
とにかく足りなかった。
いつの頃からか…思い返せば冬の頃からだろう。
物価が上がったとかで常備薬の補充が遅れがちになり避妊具が足りなくなると買いに行くしかなくなる。
俺達もコンビニや薬局に頻繁に買いに行くのは頻度的にも量的にも恥ずかしいと買っても月に一箱だけと決めてしまい、徐々に買いに行けない、手元に無いから我慢をするのではなく未使用でも良いのではないかという甘えと油断が出てきた。
そして俺の誕生日を過ぎた所で「お互い18になったから」と我慢をしなくても良い言い訳が出来てしまった。
これにより避妊具のない日に我慢ではなく、無くても致し方ない、しない理由にはならないとなった。
そしてそれが2ヶ月も経つ頃には無言の共通意識「なんだ、使わなくても平気じゃないか」が芽生えてしまい、徐々に「授かりものはいつ授かれるかわからないし」「日影さんもタイミングを逃して不仲になったカップルが居るって言っていたし」と自己弁護が止まらなくなり、梅雨がまだ明けない頃に体調を崩した小夏は検査の結果ママになっていた。
これには肉屋のおっちゃんも我が事のように喜び、街中祝福ムードになった。
日影一太郎は「これで変な真似はできないね」と言ってから「お祝いだよ」と言って渡されたプレゼントは小夏によく似合うピンク色の妊婦服と母子手帳を入れるポーチだった。
確かにこうなると俺の希望は別のものになる。
お腹の子供の為にも差別のない世界、人と人との適切な距離感が守られる世界を目指す必要が出てきた。
俺は小夏にその話をした。
「うん。冬音とここで過ごせてパパとママになれて嬉しい。でも子供のことを考えるとやっぱり冬音の考えは正しいよ。差別がなくて人と人の距離が適切な世界は私も実現して欲しいよ」
「うん。ありがとう小夏。とりあえず今は子供のことを優先しながら何とか出来ないかを考えるよ」
俺達は外に降る雨音を聞きながら頷きあって抱きしめあった。
それからすぐに母さんから「今なら聞けるかしら?冬音の目指す世界ってなぁに?」と聞かれた。
「少し修正したから当初の世界とは違うけど今絶対に目指すのは「人と人の距離が適切で差別のない世界」だよ」
「あら、どんな世界?聞くだけだと凄そうにも当たり前のようにも聞こえるわね」
俺の目指す、俺の子供が変な差別意識に目覚めないで済んで、他人の動向が気にならない距離感の世界を説明すると母さんは「素敵じゃない。至上委員会は能力者が国を運営して能力者が不当な扱いを受けない事を目的とした組織よ。冬音の目指す世界も素敵よ。今は政権をコチラに移させる事に注力してその後は一つの都市を使って適度な距離感と差別のない世界作りを試してみなさい」と言った。
「へえ、嫌がるかと思ったよ」
「なんで?」
「わかってるくせに、能力者が上に立つのではなく俺が目指しているのは完全な平等だからだよ。能力者って言っても電気タイプなら発電や放電が出来るだけで腹も壊せば風邪も引く。銃で撃たれれば死ぬ。それって人間と違いないからね」
「そうね。私には難しい事とわかっているから…だから冬音には期待しているわ」
母さんは認めてくれたがまずは政権を取る事を強調してきた。
それはやりたければまずはやる事をやれと言う話だ。
だがまあ出鼻は挫かれる。
数日後に日影一太郎は「怖い事を考えるなぁ」と言ってきた。
母さんが漏らすことは考えにくくて「小夏?」と聞き返すと「彼女は僕を冬音君の仲間と認めてくれているからね。つわりと聞いたから差し入れを持っていきながら少しお茶をした時にね」と返してきた。
そして「平等ね。適度な距離感は応援するけど差別のない世界は難しくないかい?」と言ってきた。
「そう?やる気の問題じゃない?」
「やり切るのかい?」
「やる気ではあるさ」
「ふふ、凄いなぁ」
「そう?でもやらないよりはマシさ」
「そうだね。でも君は既に失敗しているよ」
日影一太郎はそう言って顔を近づけてきて「僕を敵視しているだろ?」と言った。
「聖ジジイを殺したのが悪い」
それしか言い返せなかった自分が憎かった。
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