第34話 難航する交渉の弊害と英雄。
あの広報誌から約2か月が過ぎた。
当初は仕事らしい仕事は特になく、あっても付近の除染とかで銘菓君達と組んだりしていた。
話が動いたのは1か月くらいが過ぎた頃で、小夏とメッセージを交換していたトンカツさんが保護を求めてきた。
元々母さんには皆の事を頼んでいたので保護は早くてすぐにトンカツさん達は来た。
ここで一つの問題はトンカツ父が無職になってしまう事だったが母さん達と話した結果、政府との交渉人になって欲しいと言われ、何一つ変わりない生活を得た…否、前以上の生活を得た。
トンカツさんもトンカツ父も忙殺されていて大変だった日々からキチンと至上委員会が保護をした事で団欒が得られたとトンカツさんは小夏を通じて俺に感謝をしてくれた。
除染の用意を手伝っているとトンカツさんが「日向、あんたの会見感動したよ」と声をかけてくる。
「俺なんかしたっけ?」
「全面戦争は起こさせないって格好良かった。
あれが出るまで私達…家族も無能力者達から虐められてたけど日向の宣言で少しマシになったんだよ」
「まじで?あれで?」
まあなんでアレ周りがマシになるなら俺には安いもの…じゃねぇな。
顔出し全国区とか笑えねえよ。
それにトンカツ父が来たからきっと各地を回って救えるだろうなと思ったのだが交渉は難航した。
なんであれ帰ってくるなら保護はしてやるが至上委員会の申し出は受けないと政府は言いやがった。
その全てを可能な範囲で至上委員会は報道した。
これにより2週間後には暴動が起きて、俺の元には福島から助けて欲しいと連絡が来た。
連絡はかつて俺に手紙をくれた男の子で父親が政府に殺されると言って必死に無関係の大人も含めて至上委員会を教えてと探し回って声をかけた構成員に「前にもお兄ちゃんにお父さんを助けて貰ったんです!お父さんが殺されちゃうから助けて!」と涙ながらに訴えたことで俺に連絡が来た。
俺には悪い癖があるようで大人の意見を聞かない。後先考えないと言うものがあるのだろう。
それはまあずっと一人で生きてきた弊害だと思う。
連絡を教えにきたのはトンカツさんとトンカツ父、後はトンカツさんの監視をしている事になっている銘菓君だった。
「福島の子供?前に手紙をくれた子かよ?トンカツ父さんはなんで交渉してくれないんですか!?」
「私もして居るんだ!可能な限り人員を減らして日向君と数名の能力者だけで行くのは危険だとしてもそれでもと言っているが政府側が首を縦に振らないし、言われるのは金は払わない、能力者を返せだけだ!」
冷静になればトンカツ一家だって至上委員会にいる為に手なんか抜かないだろうが俺は考えなんて回らずに「くそっ!銘菓君!運転!」と言ったが銘菓君は「え?俺は免許ない」と困惑するばかりで話にならない。
「くそっ、ならこの前のバスの人出して!交渉人とか言うならトンカツ父さんついて来て!一通りの能力者も集めてよ!」
「日向君?」
「きっと電気だけじゃない!皆困ってんだよ!トンカツさんもついてきて!コロッケくんはなんで至上委員会にいないかな?おにぎり君とかもいて欲しいのに!」
イライラする俺が「談判してくる!」と言って部屋の外に出ると目の前にニコニコ顔の日影一太郎が待ち構えていた。
「やあ冬音君。バスなら暖気も済んでいるよ」
「日影さん…」
つい睨みつける俺を気にせずに「やはり君は英雄だ。僕達も守られるべき旧人類や救うべき能力者が虐げられるのは許せない。聖さんの事を忘れて今は共に行こう。勿論許可は得たよ」と語り掛けてくる日影一太郎。
こうなるとここでゴネる事は俺のワガママになるし早い方がいい。
「運転手は?」
「僕さ、さあ準備はできて居るよ。行こう」
外に出ると大歓声が俺たちを出迎えた。
「は?」
「ふふふ。萩月君には隠しカメラを持って貰って居るからね」
この言葉の意味が理解出来るまでそう時間はかからなかった。
中央の巨大テレビには今のやりとりが中継されていて、その場で誰かが編集をしていてエンドレスで放送されていた。
「おう!揚げたてコロッケ持って行きな!」
「うちは刺身弁当だ!」
「野菜も食べな!」
商店の皆は俺の燃費問題を知っていて弁当をバスの前まで持ってきてくれていて準備作業中の小夏が「ありがとうございます!冬音も喜びます!」と言いながらバスに詰め込んで行く。
そこにわざとらしく平定が見送りに来て「政府に捉えられて居る同志達を是非救って来てくださいね」と言いやがる。
そうして見送られた俺たちは福島の施設まで行くと死屍累々だった。
「日影さん、今は仲間だよね?」
「おや?僕はずっと味方さ」
「聖ジジイを殺したくせによく言うよ」
「君の嫌いな必要な犠牲だけど…。今はそうじゃないね。言ってくれるかい?」
「この人達の家族を集めてきて、後は水源や土壌の方もやるから手配してよ」
「了解だよ」
俺は勝手知る福島の施設なので堂々と奥に入ると技術者達も「日向!」と喜んで迎え入れてくれた。
話を聞けばゴネ倒しているのは政府の連中だけで現場からは俺を呼ぶべきだと上申していたらしい。
話を聞くだけでイライラしてしまう俺は「あー!もう大人って面倒!」と言いながら続々と蓄電池に電気を溜める。
そして「弁当足りない!」と言うと技術者達は笑いながら「任せとけ」と言って買い出しに走ってくれる。
今ここでは旧人類も新人類も関係ない。
皆一丸になっている。
これがあるから俺はまだ何とかなるんじゃないかと思えてしまう。
そして日影一太郎の仕事は早い。
恐らく俺の動きをある程度先読みして居たのだろう。
すぐに能力者の家族を連れて来ると皆泣きながら再会をした。
まだ許せたのは今回に至っては死人は出ていない事だった。
絵をくれた男の子は「二度も助けてくれてありがとう!」と言ってくれた。
弁当を運び終わった小夏が「冬音。私も手伝う!」と言って横に来る。
俺は小夏を心配して「いいのか?」と言ってしまうが小夏は「私だって能力者だよ!」と言うと頑張って蓄電池に電気を送ってくれた。
もう発電所の蓄電池は十分満タンになったので俺は次に動くことにする。
「日影さん!」
「なんだい?」
「どうせやってるだろ?」
「何をかな?」
どうしてコイツらは俺に全部言わせようとするかな?
「ムカつくな。次は水源だろ?そこに関東の蓄電池も持って来させなよ。後は飯」
「了解さ」
俺は結局能力者の皆と力を併せて水源の除染と水瓶の補給、土壌除染も行なって更に関東と中部の蓄電池に充電もした。
能力者たちはこれで休めると言って家族と合流すると泣きながら俺達に感謝を告げてくれた。
帰ってみれば夜中になっていたが誰からも不満は出なかった。
この日のことは全て編集されて全国的に放送されてしまっていて俺は嫌でも英雄と呼ばれるようになる。
そしてこの放送を観た各地で暴動が起きた。
西日本はまだしも関東、中部は酷いものでテレビ局に至上委員会に助けを求めてくれと市民が殺到して警察が乗り出していた。
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