第33話 広報誌。

母さんに聞いたら俺になんとか旧人類側の能力者を救ってもらえないか頼み込むつもりだったが自分から橋渡しをし始めた事で感謝しかないと言われた。


平定も後は姿も見えないもう1人もこれには堂々と金銭を要求出来ると喜んでいたそうだった。


日影一太郎は俺の所に挨拶にきがてら「さっきは楽しかったよ。ありがとう」と言って小夏に「はい。同志になってくれたお祝いにリスさんの着ぐるみパジャマだよ。冬音君と仲良くね」と渡して帰って行った。


確かにリスさん小夏は可愛すぎる。

「尻尾がフカフカだから2人で尻尾にぎゅっとしながら寝ようよ冬音」とかヤバすぎる。


だが今は違う。

俺は母さんに一つの要求を出す。

それは俺の窓口を絶対に日影一太郎にしない事。


「もう、仲良くしなさいよ」

「まだ無理。聖ジジイの事とか許してない」


本当なら「目つきが気になる」「胡散臭くて信用出来ない」「勘が敵だと言っている」と言ってしまいたいがそれはこの場所を失って小夏やおばちゃんを危険に晒す事なのでやれない。


だが政府に比べて慢性的な人不足に悩む至上委員会で政府と交渉出来るものがいない事とコチラがチャンネルを開いて待っていても政府側から連絡が来なければ俺は開店休業状態になる事を言われてしまって結局日影一太郎が当分の窓口になる事を覚悟をしていた。


「じゃあ仕事にならなかったら生活費どうしよう?」

「いいのよ。表向きは仕事待ち、アイツらが頼んでこないんだから冬音にお給料は支払うわよ」


そんな話をして初日の仕事は終わった。


2日目、自衛隊のオッサンが会見を開く形で俺たち宛に映像を送ってきた。


「日向 冬音君、まずは聞いてほしい」


そう言って始まったオッサンの話は人不足を理由に俺や小夏達をおざなりにしてしまった事を申し訳なく思っていると言った。


そして半焼やおばちゃんへの投石は旧人類の行動だったが全焼はおそらく至上委員会が俺達を仲間に迎える為にやった自作自演だと思うと言った。


まあその可能性は考えていた。

じゃなきゃ家具の退避とかが早すぎる。

だが問題はそこではない。


結局、物事の本質をオッサン…と言うかその上はわかっていない。

大事だと言いながらも結局俺達を後に回しても大丈夫くらいに思っているのが問題でその本音が漏れ出ている。


今やらなきゃいけないのは能力者とそうでないものを分けてキチンと両方を保護する事だ。


「我々は君が戻ってきてくれると信じている。そして君の言う全面戦争を防ぐ言葉は我々の元でなら叶えられると思う。帰ってきてくれると言うのであれば迎えを出すから言ってほしい。今度はこんな事にならないようにする」


ダメダメすぎて俺は母さんに「母さん、コイツ至上委員会の回し者?」と聞いてしまったら、母さんは笑いながら「本当、酷いわよね。でも違うわよ」と言った。



開店休業状態の俺は何人か紹介されて挨拶をしたが覚える気がないので適当に相槌を返しながら能力について意見交換を行ったりした。


そんな中、母さんから呼び出されて至上委員会が事務所に使っているビルに顔を出す。

小夏はおばちゃんが心配で忙しそうに俺の行き先に着いてきては早目に家に戻っている。

それなのに夜は俺と寝ているのだから大変な事だと思ってしまう。


母さんも「心配ならスマートフォンでずっと繋がってていいのよ?通信費とか気にしないで」と言ってくれたが小夏は「迷惑はかけられません!頑張ります!聖さんと訓練したから走れます!」と言ってずっと走っていた。



俺は改めて目の前の母さんを見て「何母さん?」と呼び出された理由を聞く。母さんは「うふふ」と笑うと「少し時間が取れたから話したかったのよ」と言った。


「夜話せばいいのに」

「それはプライベート。仕事で話がしたいのよ」


「総統も忙しいんだね」

「そうよ。もう毎日色んな能力者から助けて欲しいって連絡をもらえるし、西日本にも似た思想の連中が居るから手を合わせなきゃいけないからもう大変。でも大事な仕事よ。冬音のお陰で助けてって人達も増えた。次を考えなきゃ」


「へぇ、そりゃ大変だ。なのに息子は仕事してないよ?」

「それが仕事。待つ間に何かしてたら片手間に政府側の能力者を助けようとしてるなんて思われるわよ」


そんなやり取りで始まった話は俺がなんで「英雄」って言葉を嫌うのかだった。


「父さんと母さんが殺された時、物心ついた俺に町の連中が父さんと母さんは英雄だったと言ったんだ。それで英雄が嫌な言葉に思えた。

そして幼稚園の頃、小夏の家に呼んでもらえた日、おばちゃんは俺の為にってヒーローモノの映像を見させてくれた。

映像のヒーローはとても強くて怪獣を倒すんだ」


「そうね。小夏さんのお母様ならそうやって冬音にヒーローは凄いと教えてくれようとするわね」


「でも俺は少し観てて嫌になったんだ。その時はパワーアップ回でヒーローは怪物に勝てなくてボロボロになる。おかしいだろ?普段から怪物が来てヒーローが助けるのが当たり前で自衛なんてしないでヒーロー頼りでさ、街の連中はボロボロのヒーローに「頑張って」「助けて」「お願い」「お前しかいないんだ」なんて詰め寄ってボロボロのヒーローは立ち上がって怪物に殺されてしまう。

怪物はヒーローが居なくなった街で好き勝手暴れる中聞こえてきたのは「ヒーローは何やってんだ」「もう終わりだ」なんて言葉ばかりで怪物に立ち向かう奴もいない。それでヒーローにいつも助けて貰っている子だけはヒーローの遺体を綺麗にしながら泣いていてその涙でパワーアップして復活したヒーローは怪物を倒すんだ。

街の連中はまた手のひらを返して「ありがとう!」なんて言う。気持ち悪かったよ。だから俺は英雄なんて呼ばれたくない。やれて当たり前なんて世界はなくなるべきだよ」



つい熱くなって話し終わった俺に母さんは「そうね。反吐が出るわね。でも冬音がヒーローなら小夏さんがそのヒロインね」と言う。

俺は「まあ、俺は小夏の為に能力を明かしたからね。でも小夏が俺のヒーローさ、夜6時半、小遣いに余裕のある日だけ腹が減って死にそうな俺に弁当を持ってきてくれる俺だけのヒーローだよ」と少し自慢げに答えた。



一体これがなんの話かと思えば、これが広報誌に載ってしまう。

適度に誇張されていて、18時半の俺だけの英雄として小夏を最愛の者と書かれてしまっていた。

街の人達は祝福してきてくれるし小夏は真っ赤だが満更ではないし、肉屋も魚屋も八百屋も「これ食って精をつけな!」「早く孫を見せてやりな!」「腹一杯食いな!」なんて言いながら肉だの魚だのを渡してくれる。

小さな子供達まで冬音and小夏ごっこを始めたらしく公園では腹をすかせた俺役の子供の所に小夏役の子がきてお弁当を上げて仲良くなるらしい。

恥ずかしさから母さんに文句を言ったら「これも仕事よ冬音」と言われてしまった。


気になったのは次号だった。

次号は俺に対する当てつけのように日影一太郎が英雄になりたかった自分を熱く語っていた。

日々国のせいで弱っていく妹さんを死地に等しい現場に送り出す弱い自分を恨み、政府からの強要に逆らえずに妹を取り返せない時に力を欲したがどうにもならずに絶望をした話。

そして妹さんの死に目にも会えず、死の真相すら隠蔽し、責任は妹さんにあったように語った政府を許さないと誓った話が載っていた。


一瞬同情したくなったが一瞬だけだった。


文末には「だから僕は本人が否定しても日向 冬音君は僕達の英雄だと認識している。そして僕は彼を全力でサポートする。彼には僕のような英雄になれない者の力を集めて真の英雄になって使い潰される能力者達を助けて貰う」と書かれていた。


ますます日影一太郎に近付きたくなくなった。

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